第37話 日高誠と消えたマジックアイテム
三ノ宮菜々子はいつから体調が悪かったんだ?
授業をそっちのけで、そればかりを考える様になっていた。
朝から様子がおかしかった。
……と言えばそうだし、いつも通りと言えばそうだ。
昼休みには体調に異変があったかも知れない。
そうだとしても、彼女は職員室まで付いて来ただろう。
俺の無実を晴らす為なら、アイツは動いてくれるはずだ。
この三日間で、自然とそう思える様になっていた。
放課後。
終業のチャイムが鳴ってしばらくした後、吉田が俺の席に現れた。
「三ノ宮、大丈夫みたいだな」
「……お前は超能力者なのか?」
「だったらいいけどな」
そう言って吉田が面倒臭そうにスマホを見せて来た。
「三ノ宮からメッセージが来てたんだよ。日高宛てだ」
「メッセージ……?」
「大事を取って帰っただけだから、心配するなってよ」
「ああ、そうだったか。サンキュー吉田」
三ノ宮は俺に気を遣ってくれたらしい。
ワザワザ吉田を経由してメッセージを伝えてくるなんて……。
「…………ってオイ!」
激しく机に両手を着いて立ち上がる。
「どうした日高!?」
これが突っ込まずにいられるか!?
「吉田。お前……三ノ宮の連絡先知ってるのか?」
あの三ノ宮が吉田とアドレスを交換?
いつの間に?
「ああ、これな? 結構前だぞ? 入学してすぐ」
「そんな前から?」
「向こうからメッセージが来たのは初めてだけどな」
アドレス交換だぞ?
そんなアグレッシブな三ノ宮を想像出来ない。
それが出来る位なら嫉妬で魔法暴走なんて起こすなよって話だ。
理解に苦しんでいると、吉田が説明を始めた。
「四月頃って、三ノ宮は休みがちだっただろ?」
「え……?」
「遅刻や早退を繰り返していただろが。忘れたのか?」
いきなり知らない情報が出て来て驚いた。
吉田はそんな俺を見て心配そうにしながら、
「だからアドレス交換して色々と連絡をしてたんだよ」
「ああ……なるほどな」
俺には三ノ宮がそこまで休んでいる印象は無かった。
「四月……」
水鞠コトリと出会う前。
俺が他人に無関心だった時期と重なる。
だからといって記憶が無いってどうなんだ?
俺の引力魔法が暴走した事と何か関係があるのだろうか。
いや、無いと説明が付かない。
何にしても、意外な所から知ってしまった。
「三ノ宮菜々子が吉田を好きになった理由」をだ。
いや、誰でも惚れるわ。そんなもん。
分かるぞ三ノ宮。
吉田は素でそういう事が出来る人間だ。
本当にいい奴なんだよ! 見た目は怖いけどな!
話を聞く所によると、三ノ宮は元々身体が弱かったらしい。
最近は休む事は無いし、むしろ楽しそうにしていた。
不思議ハンターの活動と吉田への想い。
それが三ノ宮菜々子の支えになっているのだろう。
好きな事の為にそこまで真っすぐになれるのは羨ましくもある。
まあ、周りの迷惑を考えろってのが前提だけどな。
吉田は視線をスマホに戻し、操作をはじめた。
「お、メッセージが来たぞ」
「三ノ宮か」
「おお。『……と言う訳で、ダンボールの回収をお願い』……?」
読み上げた後、吉田が困惑する。
それが本当の用件かよ。
三ノ宮菜々子……やっぱり一筋縄では行かない奴だ。
悪いがそのお願いは受けられない。
ダンボールの回収は先輩達にやって貰うべきだろ。
三ノ宮に全部押し付けていい訳無いからな。
これから直接文句を言いに行ってやんよ。
「…………?」
鞄の中のスマホが光った。
手を伸ばし、画面を確認する。
『@##&#&◎◎○** マイナス六十ポイント』
マイナス……。
しかも結構デカい数値だな。
* * *
「清水なら、文芸部に行ったよ」
技術室に赴くと、出て来た工作部の部員からそう伝えられた。
文芸部? 意外な場所だ。
もしかしたら角刈り男も一緒だったりするのだろうか。
だとしたら丁度いい。二人に文句を言ってやんよ。
すぐに文芸部部室へ移動。
扉の前に立ち、勢いよくノックした。
「失礼します」
中に入ると、部長の柳沢が和やかな笑顔を向ける。
「やあ日高君。丁度いい所に来たね」
部室には部長の他に怪しいジャージ姿の生徒が二人居た。
鍛えられた筋肉。角刈りの男。
名前は……岩田だっけ? そんな名前だった気がする。
もう一人、背の高い眼鏡女は確か……。
「赤き閃光のハサウェー。清水」
よく分からんが勝手に名乗った。
俺の読み通り。不思議ハンターの二人が揃いぶみだ。
そして部室の隅を見ると、大量のダンボールが畳まれていた。
「それって……」
そこで岩田がガハハと笑った。
「教頭から全部撤去する様に言われてな。しこたま怒られたぞ」
いや、笑っている場合かよ……。そりゃ、しこたま怒られるだろ。
話を聞いて安心した。
教頭に呼ばれたのは三ノ宮だけじゃ無かったらしい。
岩田は眼鏡女と罠の撤去作業をしていた様だ。
そこで岩田が笑いを止め、真剣な眼差しに変わる。
「三ノ宮……早退していたらしいな」
何だ? 急に。
「ええ。昼休みに帰りました。何か用ですか?」
「実は三人で協議したい事があってな。探していたんだよ」
「何かあったんですか?」
「実はな……」
岩田が視線を向けると、清水がクイと眼鏡を押し上げた。
「仕掛けた罠が二つ足りないんだ」
「足りない?」
いやいや、そんなの考えるまでも無いだろ。
答えなんて一つしかありえない。
「誰かが捨ててくれたんじゃないですか? 邪魔なんで」
「ウム。その可能性もある」
「だが我々は怪異が罠に掛かり、そのまま逃走したと考えている」
「ポジティブ過ぎませんか!?」
すると、それを聞いた部長がクスリと笑った。
「そう考えた方が楽しいじゃないか」
「部長……」
どうやら部誌のネタ作りを諦めていないらしい。
柳沢は大袈裟に手を拡げ、岩田に近付く。
「結果はどうであれ、文芸部としては協力させてもらいたい」
「頼むぞ柳沢」
「ああ」
部長と岩田がガッシリと握手した。
それを見た眼鏡女が涙する。
「まさに、歴史的瞬間……!」
いや、もうどうでもいいよ。好き勝手やっててくれ!
……すっかりダンボールの件で時間を取られてしまった。
早く試験を再開させないと目標の三百ポイントまで届かない。
でも、どこで魔法現象を探せばいいんだ?
三ノ宮が居ない今、イメージが全く湧かない。
……そうだ。
この部室にトレーニング本があったよな。
新たなトレーニングを試した方が確実じゃないか?
昨日は実力不足と不意打ちで魔力を吸い取られて気絶した。
けど、コツを掴んだ今の俺ならクリア出来るかも知れない。
あの時よりも魔力のコントロールに自信がある。
きっと同じ結果にはならないはずだ。
そうだ。それに賭けよう。
部室の奥に移動し、本棚の前に立つ。
あれ?
昨日あった場所に無い。場所が変わったか?
本棚をグルリと一周して確認。
「無い……」
見落としたか?
いや、あんなデカくて目立つ本を見逃す訳無いだろ。
「どうしたんだい? 日高君」
そうしている間に部長が声を掛けて来た。
「昨日ここにあった本ですが……」
「ああ、それなら笹木さんが借りて行ったよ」
借りた?
あの本をか? 何でだよ。そして笹木って誰!?
文芸部の本を借りれるのは部員だけだ。
って事は……。
「笹木って、昨日ここに居た女子ですか?」
「そうだよ。文芸部の部員は僕と笹木だけなんだよ」
「二人だけ……」
「いやあ、廃部寸前で困っているんだよ」
仏頂面で昼飯を部室で食べていた女子生徒。
何の理由であんなマニアックな本を借りた?
興味だって全く無さそうだっただろ。
「部長。その笹木は今どこにいますか?」
「それなら今日は帰ったよ。用事があるとかで」
「帰った!?」
さっきから何もかもが上手く行かねーよ!
どうしたらいいんだよ。
待てよ……?
上手くいかない?
何もかも?
そう、何もかも……だ。
こんな訳の分からん事が続くのは流石に不自然だ。
もしかして、この状況は意図的に作り出されているのか?
だとしたら、どんな方法を使っているんだよ。
「マズい……」
ポイント獲得が阻止されている。
敵は目的達成に向けて動いているに違いない。
今起きている全ての異変を疑うべきだ。
なら、次に俺のやる事は……。
「すみません。ちょっと失礼します」
俺はスチール机に移動し、角刈り男の前に立った。
「岩田先輩。罠が消えた場所を教えてください」




