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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第二章 魔法試験と七不思議

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第30話 日高誠と不思議を狩る者達

 文字化けしたアプリのメッセージ。

 これじゃ何ポイントなのか、プラスかマイナスかも分からない。


 もしデカいマイナスだったら……。

 いや、そんな事を考えても無駄だ。

 分からない事に悩んでいる場合じゃ無い。


 試験期間内でポイントを出来るだけゲットする。それだけを考えろ。

 昼休み終了まで少しだけ時間がある。

 美術室ならまだギリ間に合うかも知れない。


 七不思議の一つ。美術室の動く仔牛の頭蓋骨。

 骨が動く理由は今の俺には想像が付かない。

 だが何らかの魔法現象が関係している可能性はある。



 文芸部の部室を退室。

 すぐに別棟三階を目指して階段を駆け上がった。

 あれは……?

 二階に着いた所で、またもや意外な人物に出会した。

 教室に居るはずの吉田玲二だ。

 吉田も俺に気付いて手を挙げる。


「おお、日高!」

「吉田……」

 俺は足を止め、吉田の呼び掛けに応じる。

「探してたんだよ。さっき四組の水鞠が一組に来てな」

「水鞠が!?」

 ちょっと待て。またこのパターンかよ。


「悪い。今時間無いんだ。後で聞く」

「会わなくて大丈夫か? 日高について訊いて来てたぞ?」

「え? あ、ああ」

「何か意味深に『頑張ってるのか?』とか、『元気なのか?』って。

 で、俺が『忙しそうだぞ』って答えたら、『グムゥ……』ってよ」

「ああ、分かった分かった。水鞠には後で会いに行く。じゃあな」


 吉田を振り切って階段を踏み出す。

 その直後、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。

「嘘だろ……」

 俺の事を心配して吉田に訊くのはいい。

 でもタイミング! タイミング悪過ぎだろ水鞠!

 昨日から邪魔しかしてないからな!

 

 

 * * *



 放課後。

 二日目の今日が一番重要だ。

 試験最終日の明日の放課後がどれだけ動けるのか予想が付かない。

 アプリの表示時刻を前に終了宣言されるかも分からんしな。


 現在のポイントは八十ポイント。

 アプリに謎のバグが発生しているので正確には不明だ。

 だからこそもっとポイントが欲しい。

 気合いを入れて席を立つと、またも俺を呼び止める声がした。

 目の前に現れたのは三ノ宮菜々子だ。


「日高君。協力して」

 ……はい?

 そんな反応になるのも当然だ。

 あの三ノ宮菜々子が俺に協力しろと言って来た。

 

「どうしたんだいきなり……何かあったのか?」

「あった。だから協力をお願いしている」

「了解。まずは内容を聞かせてくれ」

「……ついて来て」


 三ノ宮菜々子は幽霊の様にユラリと揺れながら教室を出て行く。

「ちょ、ええ!?」

 慌てて追いかけ、俺も教室を出た。

 俺は夢でも見ているのか?

 展開が早過ぎて頭が追いつかないぞ。



 到着したのは中庭だ。

 三ノ宮はベンチの端にちょこんと座って空を見上げている。

 なので、俺もマネして反対側の端に座ってみた。

 側から見たら謎のシーソー状態になってしまった。


「で、何があったんだ?」

「これ……」

 三ノ宮の細い腕がスルスルと伸びて来た。

 指先には黒くて小さいプラスチック製の板が添えられている。


「メモリーカード……か?」

「そう。昼休みに写真部の部室に行ってカメラを弄っていたら……」

「ちょっと待て。まさか勝手に弄ったのかよ」

「そう」

「部員だって居ただろ」


 三ノ宮がコクリと頷く。

 ああ……。

 そういう事してるから文芸部で嫌われているんだよ。

 自由過ぎるだろ三ノ宮菜々子。


「中の写真フォルダに不思議なモノが写っている画像があった」

「それって……」

 七不思議の一つ。

 不思議なモノが写る写真部のカメラ。

 本当なら是非確認させて欲しい所だ。


 でもこれって、スマホに刺せないタイプのカードだよな。

「どうやって画像を見るんだよ。カメラの本体は借りれなかったのか?」

「部員じゃないとカメラの持ち出しは不可だった」

「だったらメモリーカードも不可じゃないのか?」


「………………」

 三ノ宮は無表情のまま動かない。

 無言かよ。

 まさか勝手に持って来て無いだろうな。

 だとしたら普通に泥棒だからな。犯罪だぞそれ。

 やれやれと頭を抱えている俺。

 すると、ガチャガチャと物音が聞こえて来た。

 何だ? 人の気配がするぞ。


「よし。立ち上げるぞ。メモリーカードをくれ」

 ベンチの横から筋骨隆々な角刈りの男子生徒が現れた。

 そして手にしていたノートパソコンの電源を押す。


「さあ、どんなものが写っているのか拝見しましょうか。ふふ……」

 続けてジャージ姿の女子生徒がベンチの裏側から現れた。

 ヨガの様なポーズで眼鏡をクイと上げる。


「誰!?」

 いきなりキャラが増えてるよ!

 しかも二人も!? どうなってんの!?

「あの……三ノ宮。突然登場したこの方々は?」


「東谷高校は不思議な事が多発する事で有名」

「そうらしいな」

「だから、それを調べようとする生徒も一定数現れる」

「いや、そこは意味不明なんだが?」

「その者達を『不思議(ふしぎ)ハンター』……と私は勝手に呼んでいる」

「勝手に呼んでいるだけかよ!」

 さっきから訳が分からん!


「俺は山岳部の岩田(いわた)だ」

「私は工作部の清水(しみず)……」

 何かいきなり自己紹介を始めて来たよ。

 コミュ障の俺が覚えられるかっての。

 ここに来て三ノ宮みたいなキャラが更に二人増えたって事?

 試験の難易度上がり過ぎでしょ。

 

 角刈り男は三年生、眼鏡女は二年生らしい。

 三ノ宮を中心に怪しい輪を形成している状態だ。


 そんな中、三ノ宮菜々子が得意気に話す。

「我々は協力しない主義。でも今回は同じ目的の為に手を組んだ」

「そ、そうなんだ」

 何だよこの展開……。俺の精神が耐えられる気がしないんですけど?


 そうしている間にパソコンの画面が切り替わる。

 メモリーカードの画像がモニターに表示された。

 一斉に注がれる視線。


「こ、これは……?」

 騒つく不思議ハンター達。

 

 モニターに映し出されていたのは小さな二つの物体。

 「犬のぬいぐるみ」と「手足の生えたヤカン」だ。


 ヌイグルミ……ヤカン……。


 ええええ……!?

 従者のアバターだよなコレ!

 間違いない! 何でだよ!


 撮影日は昨日の十七時頃。

 よく見ると弓犬はカップ麺を両手で抱えている。

 壁ヤカンは口から蒸気を吐いている所を見ると……。

 中にお湯が入っているな。


 水鞠の奴、腹が減ったからって理由で従者を召喚したな?

 こんな姿をまんまと撮られるとか、無防備にも程がある。

 どうするんだコレ……。


 俺が白目を剥いて震えていると、三ノ宮がニヤリと笑う。

「不思議ハンター最大の発見になった」

 それに角刈り男と眼鏡女も続く。

「……業界に新風が巻き起こったな」

「悔しいですが……認めざるを得ない……」


 何言ってんのこの人達……。

 業界って何だよ。狭過ぎだろ。

 さっきからツッコミが追い付かん。


 角刈り男が顎を擦る。

「さて、どうやってこの怪異を捕まえる?」

 捕まえる気かよ! しかもアバターが怪異扱いだし。

 それに反応したのは眼鏡女だ。

「我が工作部の部室へ移動しましょう。そこなら材料も揃っている」

 三ノ宮菜々子がコクリと頷いた。


 部室……。

 工作部の部室って事は、技術室か?

 その場所は七不思議にカウントされていないが……。

 せっかくだし、一応確認だけでもしに行くか。

 


 * * *



 別棟二階の技術室の前で待つ事五分。

 

「場所を移動しましょう……」

 眼鏡女が項垂れた様子で部室から現れた。

 これはあれだ。不思議ハンターお断りってヤツだ。

 一般生徒に嫌われ過ぎだろ。

「じゃあ山岳部へ来い。……いや、ダメか」

 角刈り男も同じ状況らしい。

 ああもう、悲しくなって来たんですけど。


「仕方ありません。ここで始めましょう」

 技術室前の廊下で四人が円となり、謎の会議が始まった。

 まずは三ノ宮菜々子が小さく手を挙げた。

「もう一度パソコンの大画面で怪異の画像を観察したい」


 すると角刈り男がゴツい腕を組み、目を閉じて見上げた。

「パソコンなら、さっきパソコン部に返して来た。

 ……バレたらマズいからな」

「勝手に持って来ちゃってたんですか!?」

 どんだけ身勝手の極意なんだよこの人達。

 嫌がられているのは自業自得だろ。


「どうする? またパク……借りて来ようか?」

「それは危険。きっと、もう警戒されている。

 モニター画面を撮影した画像があるから、それで確認する」

 三ノ宮菜々子がスマホから画像を表示した。

 三人はお互いに視線を交わして頷く。

 画像を送る為、アドレス交換会がスタートした。


 ……時間が掛かりそうだな。

 そうだ。今の内に技術室へ入ってみるか。

 俺は技術室の扉をノックし、忘れ物を探しに来た体で入室した。

 工作部員の冷ややかな視線を浴びながら、部室内の魔法現象を検証。

 そしてすぐに退室。


「ダメか……」

 魔法的なものは何も感じなかった。

 さてどうする?

 廊下の不思議ハンター会議は終わる様子が無い。

 いや、むしろヒートアップしている状況だ。

 さっきから何を議論しているのかさっぱり分からん。


 従者のミスでアバターが激写されていた。

 俺にとってはそれだけの事だ。

 これなら放っておいても特に問題無いだろう。

 逆に三人がこの件に集中してくれていた方が動き易いまである。

 三ノ宮に断りを入れ、ひとり技術室を離れる事にした。

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