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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第二章 魔法試験と七不思議

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第23話 日高誠と入部届

 東谷高校には魔法使いがいる。

 水鞠(みずまり)コトリ。科学部の部長だ。


 猫の様に光る不思議な瞳。

 短く揃えられた前髪。

 それから……。


「何見てるのさ」

 水鞠はノートパソコンを打つ手を止め、不審そうに言って来た。

 真っ直ぐな長い髪がユラリと揺れる。


 

 放課後の科学室。

 広い室内に配置された九台の実験用の机。

 その中央の席に座り、俺達二人が向かい合っている。


 窓から差し込む梅雨晴れの陽が可憐な少女を包み込む。

 その幻想的な光景に、思わず見惚れてしまっていた。


 俺はそれを悟られない様に視線を逸らす。

「いや、別に何も」

 そして中断していた数学の課題に手を伸ばした。

「……ならいいけど」

 水鞠はそれだけ言うと、ノートパソコンのキーを再び叩き始める。


 この三週間、水鞠はずっとこんな感じだ。

 その間、俺はひたすら時間を潰しているだけの状態になっている。

 初めはそれでも幸せだった。でも流石にもう限界だ。


 いつの間にやら中間テストが終わり、制服は夏服に変わっている。

 このままだと冬服まで突入する勢いだ。

 俺はこんな退屈な日々を過ごす為に魔法の世界に居る訳じゃ無い。


 よし、言ってやんよ。

「なあ水鞠。いつまでこれが続くんだ?」

 俺の言葉に水鞠はキーを打つ手を止める。

 そして突き刺す様な鋭い視線を向けて来た。

「アタシと二人は嫌なの?」


 何か怒って来た!?

「い、嫌とかじゃなくて。

 魔法の修行的な事をすると思っていたからさ……。

 また魔法が暴走して誰かの物を引き寄せたら面倒だろ」


「心配しなくていい」

 水鞠はグラスに入ったアイスティーを一口含み、言葉を続ける。

「ま、確かに次また暴走したら魔法業界から一発退場だよ。

 下手したら死ぬかもしれないけど」

「思ってた以上にヤバい!」

「そう?」

「心配だよ! 早く魔法を教えてくれよ!」


 必死の訴えにも、水鞠は眉一つ動かさない。

「今は準備が必要なんだよ。

 焦るのは分かるけど、もう少し待って」

「マジかよ……」

 

 何でこうなった……。

 俺が科学部に期待していたのはこんなんじゃ無い。

 もっとファンタジーに溢れる展開なんだよ。


 例えば、そう。

 水鞠から魔法を教わり、少しずつ覚醒する見習い魔法使いの俺。

 科学部へ次々と舞い込む魔法現象の依頼。

 程良いラッキースケベを挟みながら解決する二人。

 お互いの距離は接近して行く。

 魔法使いの一族当主と見習い魔法使いの禁断の恋。

 その行き着く先に何が待っているのか……!?

 いい……! 凄くいい!


 だが実際は俺が科学部に居る事すら秘密になっている状況だ。

 早く誰かに話してぇ!

 吉田に自慢したい!


「ちょっと日高(ひだか)! 何かブツブツ言ってキモいんだけど!」

「あ、ああ悪い……」

 いかんいかん。

 いつの間にか口に出していたらしい。


 またこの調子だ。

 今の俺はひたすら雑な扱いを受け続けている。

 ラッキースケベが起こる気配は微塵も無い。


 おかしい! 何でこうなった?

 水鞠は俺を必要としてくれていた。

 むしろイイ雰囲気だったはずだ。

 あれは全部夢か幻だったのか? まさか妄想?


 始まったばかりの魔法ライフはいきなり暗礁に乗り上げている。

 そのままの勢いで天まで昇って爆発しそうだよチクショー!


 そんな心の叫びも虚しく、ただただ時間だけが過ぎて行く。

 気が付けば時計の針は十七時半を回っていた。


 今日も進展は無しか……。

 毎日科学室に篭って何をしているんだ俺は。

 だったら、せめて部活らしい事をしていた方が良かったよ。


「水鞠。今更だけどさ……」

「何?」

「いや、科学部員として俺がやる事って何か無いのか?」

 それを聞いた水鞠はキョトンとなる。

 そして「ああ」と何かに気付いた様子を見せた。

「無いよ。日高はまだ入部してないし」


 ああ、そうか。まだ入部してないからな……。

 入部して……。

「入部していない!?」


 ちょっと待て。どうなってるんだ?

 部外者なのに謎に居座っている人みたいになってたのかよ俺……。


 水鞠は目をパチクリとさせる。

「だって日高、魔法入部届を提出してないでしょ」

「魔法入部届って何だ!?」

「それが無いと科学部には入れないよ」


「いや、そんなのあるなら早く言ってくれよ! 用紙は何処だ?」

 早く渡してくれと言わんばかりに手を差し出す俺。


「落ち着いて日高。魔法使いの契約は慎重にならなきゃダメなんだよ。

 名前を書くものは特にね。騙されて大変な事になるよ」

「何だよ……。魔法連帯保証人にでもされるのか?」

「そうだよ」

「そうなの!?」

 ノリで適当に言ったら当たっちゃったよ。

 怖えな魔法使い。ハンコ要らずかよ。


「日高。魔法使い同士の契約は遵守されるんだ。

 名前を書く時は契約内容を必ず確認して」

「契約内容ね……」

 確かに「名前が重要」ってのは魔法使いっぽいな。

 そういや、水鞠を結界に誘導した時も名前を呼んでいたっけ。

 何か初めてちゃんとルールを教わった気がする。


「それは分かった。

 いつになったら入部届を用意してくれるんだ?」

「…………」

 水鞠は俺の言葉をスルーし、ジッとパソコンの画面を見詰め出した。


「水鞠?」

「待って。今メールが来たんだ。大事な知らせなんだよ」

「大事な……何だって?」

 水鞠はメールを読み終えた後、頭を抱えて深い溜息を吐く。

 そしてノートパソコンをパタンと閉じた。


「ごめん日高。アンタは科学部に入部出来なくなった」


「……はい?」

 第二章スタートです。


 魔法試験に挑み、日高が魔法使いとして成長する物語となっています。


 最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

 よろしくお願い致します。

 

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