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引力と猫の魔法使い【リメイク版】 第九章「猫と魔法使いの贈り物」開始!  作者: sawateru
第一章 引力魔法と科学室の魔法使い
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第20話 日高誠と魔法自転車

 ……どこだ?

 真っ直ぐに伸びた通路。古びた天井。

 ここは水鞠の屋敷の中だ。

「水鞠!!」

 辺りを見渡す。

 どこにもいない。


 俺だけが「杭の部屋」から強制的に移動させられている?

「何でだよ!」

 魔法が封印されているのならば俺の記憶が消えているはずだ。

 となると……。


 魔法が失敗している……!


「水鞠!!」

 呼び声だけが、通路に反射して消えてゆく。

 屋敷は音一つ無く静寂に包まれている。

 忙しく動き回っていた水鞠の従者達も姿がない。


「な…………!?」

 足元が大きく揺れた。

 ミシミシと音を立てながら天井が崩壊。

 直径一メートルほどの瓦礫が目の前に落下した。

「ヤバいぞコレは……!」

 床や壁までも壊れ始めた。

 この場所は危険だ。とりあえず外へ避難しないと。


 俺は全速力で通路を走り続け、奥に見える玄関へ向かった。

 扉は水鞠によって破壊されたままだ。あそこから出られる!

 数十メートルを駆け抜け、屋敷の外へと脱出した。


 間に合った……!

 だが危機はまだ終わっていない。

 空が赤く染まり、不快な金属音が響く。


「結界……!」

 間違いない。結晶体からの攻撃だ。

 魔法が失敗したのも、それが原因か?

 水鞠は俺を消そうと願った人間はいないと言っていたよな。

 結局、アイツの予想は間違っていたのかよ!


 俺は一旦足を止め、息を整えながら振り返る。

 状況を確認したい。どうにか水鞠と連絡を取らないと……!

 尻ポケットにはスマホがあった。まだ可能性は残されている。

 

 スマホを手に取り、画面を開く。

 そして履歴で埋め尽くされていた番号をタップした。

「水鞠! 出てくれ!」

 無音だ。

 コール音や音声ガイダンスにもならない。


「水鞠! 嘘だろ……」

 絶望の余り、力なく地面に膝をついた。

 電話が繋がらない……!

 最悪だ。もう、どうにもならない。

 

 立ち上がる気力が失われ、身体が鉛のようにズシリと重くなった。

 力を入れてもピクリとも動かない。

「重いな……」

 ……いや、いくら何でも重すぎだろ。

 しかも左手だけが異様に重くなっている。

 恐る恐る確認すると、掌が鈍い光を発していた。


「これは……」

 この感覚は前にもあった。

 そうだ。志本を魔法で引き寄せた時と同じだ。

 魔法が勝手に使われている……?


 自分の意思と反して持ち上がる左手。

 その掌の上に、小さなガラスの玉が浮き上がった。

 複雑な紋様が刻まれたその物体を、俺は知っている。


「立体魔法陣……」


 何で勝手に魔法が……?

 いや、そんなのはどうでもいい。

 俺は今、魔法を使うチャンスを得た。

 俺は魔法で何かを引き寄せることができる。 

 でも何を?

 こんな弱々しい力じゃ、できることは限られているはずだ。


 思い出せ。今俺が願ったのは何だ?

 そうだ。「水鞠コトリと話がしたい」ってことだ。

 だったら……。

 俺はスマホを手に取り、電話をかける。

『水鞠コトリ! 電話に出ろ!』

 話が出来ればチャンスはある! 繋がれ!


 立体魔法陣が振動し、小さな音を立て砕け散った。

 破片は光り輝き、パチパチと小さな雷に変化する。

 これは……。


 スマホが震えた。

「着信している……!? 水鞠!?」

 いくら何でも、都合よく行き過ぎだろ。

 でも今なら大歓迎だよ!


『日高! 聞こえる!?』

「水鞠!」

『よかった! 魔法電波を引き寄せたんだね!』


 魔法電波……!?

 それで通話ができるようになった?

 相変わらず設定が雑だな!

「水鞠。俺は今、結界の中にいる。どうしてこうなった?」

 俺を消そうとした犯人はいなかったって話だったろ。

『ゴメン。アタシの推測が間違っていた……。これは始めから結晶体が関わっていた事件だったんだよ』

「嘘だろ……一体誰が?」


『落ち着いて。そこに結晶体はいるの?』

「……近くには、いないみたいだな」

『よかった……』

「水鞠?」

『その結界は魔法現象の影響をモロに受けて超絶に不安定なんだ。助けに行こうにも、アタシが侵入した瞬間に日高ごと消滅する可能性が高い』

「消滅!? 結界ごと……!?」


『だから、結晶体の姿が見えたらすぐにアタシの名前を呼んで。結界を突き破ると同時に、結晶体を破壊する!』

「名前を呼べばいいんだな。了解」


 チャンスは一回。

 失敗したら俺は死ぬ。

 分かりやすい絶体絶命のピンチだな。

「うおっ!?」

 地面が揺れ、思わず声が出た。

 強烈な地響きに戦慄を覚える。


『どうしたの!?』

 大丈夫だ、と伝えようとしたが、そうはならなかった。

 全然大丈夫じゃない。


「地面が……割れてる」

 亀裂が無数に走り、一部は沈んでいる状態だ。

『崩壊が進んでいるね。結晶体はまだ?』


「気配がまるでない」

『出て来ないつもりかも。その方が本体の願いに近づけるから』


「俺を消すため……か」

『こうなったら、こっちから探し出すしかないね。結晶体は生み出した本体に関係する場所に出現する可能性が高い。そこを探して!』


 ほとんどノーヒントじゃねぇかよ!

「それって無茶過ぎないか!?」

『……から、……して』

「水鞠! 水鞠?」

 ヤバい。電波が途切れそうだ。


『日高……』


 激しいノイズ音の後、ブツリと通話が切れた。

 俺はスマホを持つ手をダラリと垂らし、呆然と立ち尽くす。


 結晶体を見つけ次第すぐに呼べ……って簡単に言うなよ。

 難易度が高過ぎるだろ。この結界の広さはどれだけあるんだ?


 いや、考えろ。

 残された時間の中で行ける場所なんて限られている。

 行くなら、魔法に関係した場所だ。

 

 最初に引き寄せたのは、同級生が持っていた物だった。

 ならば、俺の魔法と強く結び付いている場所に出る可能性がある。

 俺が毎日通っている場所。


 ──東谷高校だ。


 でもどうやって?

 辺りを見回す。

「あった!」

 横倒しのままになっている、水鞠の赤い魔法自転車が視界に入った。


「あれなら間に合うか……?」

 素早く自転車のハンドルを持ち上げて乗り込んだ。

 そして赤く染まった森の中を走り出す。


 ペダルが重い……!

 スピードが出ない。こんなんじゃ普通の自転車と変わらないぞ。

 水鞠が後ろに乗っていないから、魔法を燃料にできないんだ。

 これだと東谷高校まで二十分以上はかかるぞ。間に合うか?


 雷が鳴り、地面は地響きを上げ続けている。

 時折吹く突風で車輪は動きが鈍り、俺の足はガクガクと震え出した。


「限界……だぁ……」

 バランスを崩し自転車から地面へと足を下ろした。

 その直後、なぜか車体が斜め横に滑り出す。


「うおおお!?」

 どうにかギリギリで体勢を立て直すことができた。

 俺は自転車を停止させたまま、一息つく。

 そこでふと、異変を感じて振り返る。

「何だあれ……?」


 俺が走ってきた道が、ブロック状になって割れている。

 しかも所々沈み込み、抜け落ちたその下は底が見えない暗闇だ。

 今も俺を追うように穴が拡大している。


 直感で理解した。

 あの穴に落ちたら、俺は死ぬ。


 魔法自転車のペダルを踏み込み、全力で走り出す。

 だが地面が崩れて行くスピードの方が早い。

 このままだと追いつかれそうだ。

「ダメだ! 間に合わない……!」

 死の覚悟をしたその瞬間、自転車ごとフワリと宙に浮いた。

 しばらく滞空したあと、謎の力で地面に放り投げられて着地した。

「痛たたたた」

 小さなサドルが股間にメリ込み、激痛に身悶える。

 いや、本当にシャレにならないくらい痛い!

 

『危ない所だった。間に合わないかと思ったよ』

 いつの間にか自転車の前カゴに、白い子猫が乗っている。

「水鞠!」

 スピードアップする魔法自転車。

 魔力が供給され、エンジンが起動した。


『どうにか魔法アバターだけ送り込めたよ。この状態だと、ほとんど魔法は使えないけどね』

 前に俺が透明人間になった時、科学室へ導いた白猫のアバターだ。今回は会話ができるのか。

「いや、それでも十分助かる。これから東谷高へ行って結晶体を探すぞ」

『分かった! 少し飛ばすよ!』


 猛烈なスピードだ。

 今の俺は時速四十キロを超えているだろう。

 えっと、何キロオーバーしたら全裸になるんだっけ?

 ええい。そんなことを気にしている場合じゃない。

 全裸上等だよ。チクショー!


 *


 東谷高校に到着。

 爆音を響かせながら、魔法自転車が校舎内に突入する。

 目指すのは一年一組の教室。

 俺の魔法が暴走して、結晶体が現れた場所だ。何かしら異変が起きるかも知れない。


 魔法エンジンが唸りを上げる。

 階段も段差もお構いなしに、スルスルと登って行く。

 あっという間に目的地に到着した。


 一組の教室前で魔法自転車を急停止させ、教室の扉を開く。

「ダメだ……」

 教室内は変化がない。

 むしろ、あの金属音が遠のいているような気がする。


 続けて教室を移動し、三組と四組の教室を確認。

 やはり結晶体の気配はない。

「嘘だろ……」

 思い出せ。あと俺が行っていた場所……。

 そうだ!


「水鞠。科学室へ行くぞ」

『急いで! 時間がないよ!』

「了解!」

 ダメ元だ。あとはここ位しか思い付かない。

 魔法自転車が煙を上げ、猛スピードで発進する。

 スルスルと階段を上がり、別棟三階へ移動。

 そこから二階へ向かう。


「床が……!」

 科学室前の廊下は既に崩壊していた。

 床のあちこちが抜け落ち、深い闇の渦に吸い込まれている。

『行かない方がいい。間に合わない!』

「いや、行かせてくれ!」

 水鞠の言葉に耳を貸さず、魔法自転車を降りて科学室の扉を開いた。


 中は完全な闇だ。

 残されていた壁の一部が剥がれ落ち、谷底に消えていった。


「ダメだ……!」

『脱出するよ!』

「おっ!?」

 白猫に背中を引っ張られ、俺は強引に科学室から離脱させられた。


 目の前の足場は、今にも抜け落ちそうになっている。

「ここは限界だ」

 俺は魔法自転車に乗り、階段方向へとハンドルを向ける。


 すると、白猫が俺の肩に飛び乗ってきた。

『もう階段は使えないよ。あそこから脱出して!』

 指差した場所は廊下の行き止まりだ。

 だが今は壁が崩落し、赤い空が顔を出している。

 いや、ここは二階だぞ!? 流石にヤバいだろ。


 でも今は水鞠を信じて飛ぶしかない。

 こっちは魔法の自転車に乗っているんだ。

 奇跡が起こるのかも知れない。


 崩れ落ちる廊下をギリギリで避けながら進む。

「いっけえええ!」

 タイヤをフル回転させ、前方の壁の穴から一気に外へと飛び出した。


 フワリと浮かぶ魔法自転車。


 このまま空を飛べたら夢のファンタジーだ。

 だが、そんな都合のいい飛行モードがある訳はなく、重力に従って普通に落下した。

「あああああああああ!?」

 視界はスローモーションに変わる。

 タイヤが地面に着地すると、全身に衝撃が走った。


 割れるアスファルト。

 巻き立つ砂埃。

 破れる俺のシャツ。


「何で!?」

 なぜか制服の半袖シャツと体操着がビリビリに破れた。

 俺は今、謎に中のインナーシャツ一枚の姿になっている。


 白猫はホッとした様子で、

『危なかった。間一髪で全裸は免れたよ』

「どういう仕組みなんだよ!」

 結界から出た瞬間に全裸逮捕とかされないだろうな! 勘弁してくれよ。


 校舎は完全に闇に侵食され、崩壊してしまった。

 どうやら時間と共に活動可能範囲が狭まって行くパターンらしい。

「あとどこだ? どこに行けばいい?」

 呪文のように繰り返すが、思い当たる場所がない。


 すると、肩に乗る猫水鞠が俺の頬を叩いて来た。

『屋敷に戻ろう』

「水鞠の屋敷か? 何でだ?」

『時間切れだよ。このまま封印魔法を続行するのは危険だ。一回魔法をキャンセルした方がいい』


「大丈夫なのか? そんなことをして」

『また改めて犯人探しをするだけだよ』

「今起きている魔法エラーはどうするんだよ」

『アタシと従者達が修正してみせるから安心して』

「マジかよ……」

 また戻れる。水鞠と過ごしたあの時間に。


 でも本当にそれでいいのか?

 今ここで逃げたら、結晶体の正体が分からないままになる。

 それに……。


『どうしたの?』

「いや、何かが変なんだ」


 なぜ、そう思う?

 結晶体が破壊できない今、俺が助かるには魔法を解除するしかない。

 それが一番の解決方法なんだ。


 でも何かが引っかかる。それは何だ?

 それがハッキリするまでは、諦める訳にはいかない。


『どうしたの?』

 白猫が首を傾げる。

「水鞠。最後に行きたい場所がある」


『行きたい場所? 今から?』

「志本紗英の家だ。あの場所でも異変が多発していた。結晶体が隠れている可能性はゼロじゃないだろ?」

『なるほどね……』


 白猫が溜息をつくと、呼応するように魔法エンジンが振動を始めた。

 水鞠が魔力を供給したらしい。


『時間が無いから、次で最後だよ』

「了解」

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