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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第七章 魔法使いと文化祭

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第159話 日高誠と意外な侵入者

 契約決闘当日の朝。

 俺は謎の違和感で目を覚ました。

 部屋の時計の針を見ると、五時三十分を指している。

「何だ……?」

 違和感の正体は分かっていた。

 誰かによって俺の部屋のガラス戸が破壊され、魔法によって元の状態に戻されているのだ。


 ──侵入者がここにいる。

 そんな確信と共に、俺はガラス戸に視線を向けた。

 そこに居たのは、額を大きく出した小柄な少女だった。





「よお、日高」

 まるで学校でのすれ違い様の挨拶の様に、当たり前の様に火咲花奈が佇んでいる。

 こいつは他人の部屋に不法侵入して来ている自覚があるのだろうか。


 火咲は身を屈め、ヘアピンで留めた前髪を突き出し、

「ちょっとイメチェンしてみたんだよ。どうだ?」

「え!? ああ。似合ってる」

「だろ?」


 こんな時に何の話をしているんだよ。もっと違う、大事な話があるだろ。

 そんな俺の考えを察したかは分からないが、火咲は急に真面目な表情に戻り、

「日高。これからお前に立ち合って欲しいんだ」

「立ち合う? まさか契約決闘にか?」

「それ以外に何があるんだよ」

「いいのか? 俺が」

「本来なら当主直属の従者しか立ち合えないんだが、橘辰吉がドタキャンしてな。急遽代わりが必要になったんだよ」


 橘辰吉が空気を読んだのか、単にタイミングが悪かったのかは知らんが、どう言う訳か俺にお鉢が回って来たらしい。

「俺が行っていいのか? 水鞠家の従者でも無いんだぞ」

「スズカが日高を指名した。それをコトリ様が承諾したんだ」

「それでいいのかよ。相変わらず雑なルールだな」

 水鞠は何も疑問を持たなかったのか。どう考えてもおかしな流れだろ。


「じゃ、下で待ってるぞ」

 火咲はガラス戸を突き破り、外へと飛び出した。

「ちょ……」

 またもや展開が唐突過ぎる……! 俺にも心の準備をさせてくれよ。

 俺は素早くジャージに着替えて部屋を出た。

 階段を駆け降り、玄関の扉を開ける。

 すると、そこにはピンク色の自転車に乗った火咲がスタンバイしていた。

「乗れよ」

「お、おお」


 俺が荷台に腰を下ろすと、魔法自転車のエンジンが起動した。

 車輪に取り付けられた謎のパーツから白煙が吹き出し、自転車がゆっくりと走り出す。

 いつもなら爆速で進む所だが、何故か原チャリ位のスピードになっている。


 決闘前だから魔力を抑えているのか、それともスピードが出せない程に魔力が落ちているのか……。

 理由は不明だが、俺と火咲を乗せた自転車は朝日の登り切らない青色の世界を走り続けた。


 火咲花奈は一瞬だけ俺の方に頭を傾けた後、

「何か変な感じだな。俺がお前を乗せて行くなんてさ」

「そうだな。本当に変な感じだ」

 六年前の火咲は身体が小さくて自転車に乗れなかった。

 だから俺が自転車を運転し、火咲は荷台から魔力を供給していたのだ。

 

 こうしていると、あの時の事を思い出す。

 六年前の世界で猫目青蛙を探し、強力な敵からひたすら逃げ続けた事──。

 そして未来に戻る為に走り続けていた、短くて長い、あの暑い夏の日の事を。


 そうしている内に、俺は自然と口から言葉を発していた。


「火咲。勝てよ」


 すると火咲は「ははっ」と笑い、

「お前が言うなよ! 自分の時は完全に諦めていたくせに」

「そうだよ。だから分かるんだ。あの時のお前の気持ちが」

「ふん。……調子のいい奴だな」

「諦めるな火咲。ここまで頑張り続けて来たお前なら、絶対に真壁スズカに勝てるはずだ」

「無理言うな。あいつは天才だぞ」

「関係ねーよ」

「…………」


 火咲は無言のまま魔法自転車を走らせ、屋敷の門に到着すると、そこで停車させた。

 俺と火咲は自転車から降りて門の中へと歩き進む。

「こっちだ。ついて来い」

 屋敷の扉を横目に右へしばらく歩き、魔法花火大会の会場だった湖へと向かう。


 そこで火咲が小さな口を開いた。

「なあ日高」

「何だよ」

「お前と話せて良かった。あの時……俺が何の為に戦っていたのかを思い出せた」

「火咲……」

 火咲花奈は足を止め、クルリと振り返る。

 そして決意を込めた瞳を俺に向け、

「俺はスズカと正々堂々と全力で戦う。そして、それが正しかった事を証明したい」


 その声には、確かな強い覚悟が込められていた。

「勝てよ火咲」

「おう!」

 火咲の表情は、あの生意気な少年のものになっている。


 絶対に勝て火咲。

 もし負けたとしても諦めるな。

 俺はお前が再び強くなってエースナンバーを取り返すまで待ち続ける。

 ずっと待ち続けてやる。

 きっと、水鞠だって同じ気持ちのはずだ。


 *


 湖のほとりには真壁スズカが待ち構えていた。

 緑色の仮面を頭に乗せ、特撮ヒーローものの女幹部キャラの様な派手な魔法着を身に纏っている。

 真壁スズカは金髪ツインテールを振り翳し、火咲花奈を指差した。

「勝負だし花奈! 今度こそ、あーしがエースナンバーを戴くし!」

「ああ。勝負だスズカ。勝つのは俺だ!」


 湖の側に建つ古びた屋敷の後方から光が伸び、だんだんと空を侵食してゆく。

 それは水面に映り込み、絵画の様な幻想的な光景を作り出した。

 湖のほとりで向かい合う、火咲花奈と真壁スズカ。

 水鞠家、いや。魔法使い最強クラスと言っていい、そんな二人のガチバトルが始まろうとしている。

 

 火咲は右手から出現させた赤色の仮面を頭に乗せると、魔法着の姿に変化した。

 ロングスカートにシンプルな装飾のコートで、大人っぽい雰囲気になっている。

 露出が多い真壁スズカとは対照的だ。


 真壁スズカは自信に満ちた表情を浮かべ、

「二年前のあーしのままだと思わない事だし? 絶対にあーしが勝つし!」

 それを受けた火咲花奈は生意気な笑みで返す。

「負けフラグが立ってるぞスズカ。余計なセリフは慎んだ方が身の為だぞ」

「フン! あーしは花奈に欲しい物を全て奪われて来たし。ここで長年の屈辱を晴らしてやるし!」

「……一部はそうだが、ほとんどは自業自得だろ。まずは自分を改めろよ」

「キィ──! うるさいし! 吠え面をかかせてやるし! 絶対に泣かせるし!」


 ……確かに。真壁スズカが言葉にすればするほど負け確定演出になっている気がする。

 俺としてはこのまま行って貰いたい展開だ。



 決闘開始五分前。

 屋敷の方向から水鞠コトリが姿を見せた。

 三角帽子と紺色の魔法着の戦闘スタイルだ。

 一族の当主として色々と思う所があるのだろうか。水鞠はいつに無く神妙な面持ちのまま、ゆっくりと二人に歩み寄る。

 

 水鞠は俺に視線を向け、足を止めた。

 そして開口一番、

「あれ? 何で日高が居るの?」

「どう言う事!?」

 話がおかしくない? 呼ばれて来たんだが!?


 そこで真壁スズカが慌てふためき、

「コトリ様! あーしはちゃんと伝えたし? 鳥の奴が決闘の立ち合いを辞退したし。だから日高誠を代役に立てたし?」

「あ、そうだったっけ? 暇なのは日高しか居なかったんだ」

「大事な事を忘れるなよ。焦ったぞ」

「色々と準備が大変だったんだよ。ハッキリ言って、ここ数時間の記憶が無いわ」

「それはそれは。お疲れさまだな」


 水鞠は再び表情を戻し、俺の横に並び立った。

 そして高々と右手を挙げる。

「じゃあ、契約決闘を始めるよ。勝った方が水鞠家のエースナンバーの四番を受け継ぐ。いいね!」

 火咲花奈と真壁スズカは視線を合わせ、小さく頷いた。

 水鞠は懐から小さなコインを取り出し、指で弾く。

 「キン……」と音と共に真上に打ち上がったマジカルコインは、長い滞空時間を経て地面へ落下。

 着地した直後、俺と水鞠を魔法のバリアーが包み込んだ。

 火咲と橘辰吉が戦った契約決闘の時と同じだ。

 この小結界の中で水鞠と俺で決闘の解説実況をするスタイルらしい。


 それと同時に一帯に結界が展開され、景色が変わってゆく。

 対戦フィールドは全長三十メートル程だろうか。

 様々なサイズの結晶オブジェクトが並ぶ無機質な空間だ。

 結界の内部が広い事から、橘辰吉の時とは違い接近戦オンリーとはならないだろう。


 水鞠は腕を組み、真剣な眼差しを向ける。

「五対五……ハンデは無いみたいだね。意外だったよ」

「ハンデ無し……?」

 ペナルティが解除されたのか、それとも必要が無くなったのか。

 いきなり状況が読めなくなったぞ。


「始まるよ」

 先に仕掛けたのは真壁スズカだ。


壁手裏剣(かべしゅりけん)!』


 巨大な板状の立体魔法陣を生成し、火咲に向かって手裏剣の要領で投げつける。

 相変わらずの脳筋技だ。

 火咲はそれをヒラリと躱し、真壁スズカと距離を取った。


『出よ。炎環(えんかん)の弓』

 火咲の左手に炎を纏う弓形の結晶具が出現。

 魔力で生成した矢を連続で撃ち放つ。

 真壁スズカはオブジェクトを利用しながらそれをヒラリと躱してゆく。


 それを見た水鞠は安堵の表情に変わる。

「良かった……」

「水鞠……?」

 俺の視線に気付いた水鞠は、一瞬だけ俺と目を合わせた後、また視線を火咲に向けた。


「実は花奈って、結晶具を使える様になったのが割と最近なんだ。だから少しでも魔力が不安定になっていると結晶具が使えなくなるんだよ」

「じゃあ、今は魔力が安定しているんだな」

 展開次第では勝てる可能性はあるって事だ。

 そんな楽観的な考えを、水鞠は即座に否定する。

「今の花奈の強さは通常時から程遠いよ。花奈は圧倒的な魔力量で押し切るスタイルなんだ。このままだと負けるのは花奈の方だ」

「そんな……」


 水鞠は溜息を吐き、

「でも、これが花奈の本来の実力なのかも知れない」

「どう言う事だ?」

「杭に否定される程の異質な魔法特性……。それが消失したのかも」

「消失……!?」

「どちらにしても、この状況はスズカにとってチャンスだよ」


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