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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第七章 魔法使いと文化祭

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第146話 日高誠といつも通りの展開

 翌日の朝。

 登校してすぐに美術室を訪れてみると、文化祭準備中の火咲花奈と会う事が出来た。

 火咲は俺を見るなり絵を描く手を止め、怪訝な表情でイーゼルの向こう側から顔を覗かせた。

「何の用だよ。日高」

「ああ……。えっと……」

「何だよ。早く言えよ」


 火咲の乙女チックな可愛らしい容姿から男言葉が出てくる状態に動揺してしまった。

 これは慣れるまでに時間がかかりそうだ。

 俺は軽く咳払いをして、火咲にスマホの画面を見せた。

「進捗率のデータを見たら、美術部がまだ三十パーセントだったんだよ。ちょっと気になってな」


 画面を見た火咲は大きな目をさらに拡張させ、

「それ、水鞠家の管理システムからデータを引っ張って来たんだろ。……志本紗英か。バレたら大変な事になるぞ」

「俺がやらせたんだ。大目に見てくれよ」

 すると火咲は深い溜息を吐いた後、

「それで、お前はわざわざ確認しに美術室まで来たのかよ。暇な奴だな」

「こう見えて心配性なんだよ」

 なんてのは嘘だ。火咲に会えるなら、理由なんて何でも良かった。


 火咲花奈は言っていた。

 魔法特性上、本来の実力を解放する為には「理想の自分」になる必要がある……と。

 六年後に再会した時に、俺の理想のタイプそのままの容姿になっているのは「そう言う事」なのだ。

 火咲が俺を諦めた事で、魔力が不安定になるのも合点がいく。


 こういった状況の時に、どう気にかければいいかと考えてはみたものの、結局答えは出なかった。

 当事者の俺が火咲に「よお。調子悪いみたいじゃないか。大丈夫か?」なんて言ってみろ。嫌がらせにしかならないだろう。

 だからと言ってスルーを決め込む訳には行かない。

 火咲花奈は一緒に戦った大切な仲間だからだ。


 結果、無策のまま火咲に会いに来た状況になってしまった訳だが、それでも後悔は無い。

 何もしないよりは百億倍マシだと思う。


 火咲は椅子から立ち上がり、俺に視線を向ける。

「美術部は当日になっても百パーセントにはならない。俺の他に部員が三名いるが、全員が未完成のまま展示されると思う」

「どういう事だ?」

「作品が完成したかどうかは自分で決める事だ。結晶体が生まれるとすれば、最終日ギリギリだろうな」

「なるほどな……」


「気楽になれよ。楽しむくらいが丁度いい難易度のミッションだぞ」

「……って言われてもな。今迄の事があるからな」

 実際、俺は想定外の展開が起きて散々な目にあって来た。思い通りに事が進んだ試しは無い。


 火咲はやれやれといった様子で、

「心配し過ぎだ。六年前の『歪み』が解消されている今なら、大きな問題は起きないはずだぞ」

「だといいけどな」

 話してみた感じ、火咲は落ち着いてはいる様だ。少し安心した。


 そんな俺の考えを読み取ったのか、火咲花奈はクスリと笑い、

「俺の事なら心配いらねーよ。時間が経てば魔力は安定するはずだ」

「火咲……?」

 どうやら俺の考えはバレバレだったらしい。

「余計な事をしたなら謝る」

「別に。何とも思ってねーよ。お前ならこうするだろうな、とは思っていたからな」

 そう言って火咲は生意気な少年の様に笑顔を作った。

「そうか……」


「俺の事よりコトリ様を頼む。お前にしか出来ない事があるだろ?」

「……了解」

「何だよ、そのツラは」

 そう言った後。火咲の顔付きが可憐な少女のものに変わり、上目遣いで俺を覗き込んで来た。

「頑張ってよぉ。日高くん」

「な、何で急にキャラを変えた?」

 俺の問いに、火咲花奈は天使の様に微笑む。

「日高君はぁ。こっちの喋り方の方が良かったかと思ってぇ」


 確かに乙女バージョンの火咲花奈の方がしっくり来るが。

「いや、どちらでもいいけどさ……。出来れば素のキャラの方がいいかな」

 火咲花奈は満面の笑みのまま、俺に答える。


「そんなの……俺にも分からねーよ」



 * * *



『……って言われたんだが』


 部室から出た直後。

 美術室のやり取りの一部を志本紗英にメールすると、秒で返信が来た。

 流石は魔法ハッカー。朝練中でもお構い無しだ。


『火咲さんて、日高と二人の時は男言葉を使うんだ。意外……』

『色々とあってな。でも、多分……俺の時だけじゃないと思う』

 可能性があるなら、真壁先輩と魔法の師匠である綿貫さんだろう。

 あの二人の前で火咲が乙女バージョンの言葉遣いをするとは考え辛い。


『ふーん。でも、自分でもキャラが分からないだなんて変じゃない? アバターの弓犬も少し違うキャラだよね。どれが本物なんだろう』


 ……だよな。

 魔力の不調と直接の関係は無いかも知れないが、どうも気になって仕方がない。

 綿貫さんに相談してみるか。

『悪い。志本から綿貫さんに伝えてくれ。俺が話をしたいって』

『まだ連絡先知らないの?』

『知ってるけど、緊急事以外は俺のスマホから発信出来ない仕組みになってるらしい。俺は正式な水鞠家の従者でないからな』

『あ、そっか。ちょっと待って。今、店長のスケジュールを確認したの。今日は午後から店に居るみたいだよ』

『じゃあ、放課後にでも魔法商店に顔を出してみる。サンキュー志本』


 メールでのやりとりを終え、教室に向かい廊下を歩き出す俺。

 そこでふと背後から視線を感じて足を止め、振り返った。


「怪しい……」

 そう言って現れたのは三ノ宮菜々子だ。

 いやあ。そろそろ出て来る頃だとは思っていたが、そうか。今か。

 三ノ宮菜々子は長い前髪から右目だけを覗かせ、

「日高くんが美術室から出て来た……。こんな朝早くに」

「色々とあってな。三ノ宮こそ何でここに居るんだよ」

「緊急事態発生中」

 三ノ宮はソワソワとして落ち着かない。

 視線を背後に向けるとビクッとなり、

「来た……! さらば!」

 スタタタッと走り去って行った。


 代わりに現れたのは男子生徒だ。

 あ、同じクラスの奴だな。確か名前は田中だったっけ。

「日高。三ノ宮は居なかったか?」

「さっきまでいたけど、どっかへ行ったぞ」

「逃げ足早いな」

「何かあったのか?」


「聞いてくれよ日高。ステッキが無くなったんだよ」

「ステッキ……? 何だよそれ」

「手品部のショーで使うんだよ。絶対に三ノ宮の仕業だと思うんだ。この前だって騒ぎを起こしていただろ?」

「それは悪かったな」

「何で日高が謝るんだよ」


 志本の魂が消えた事件の時の話だ。

 三ノ宮を含む不思議ハンターのメンバーは俺の指示で魔力が込められた物体を集めていた。

 すぐに元の場所へ返したが、一部では騒ぎになっていたらしい。

 まあ、それが無くともアイツらは日常的に部の備品をパクっていたので、問答無用で疑われていたのかも知れないのだが。


 察するに、そのステッキはマジックアイテムなのだろう。

 魔法文化祭のシステムにマジックアイテムが必須ならば、三ノ宮菜々子が回収する理由にもなる。

 アイツは魔法エラー修正の妨害者「カウンター」だからだ。

 これはまた面倒臭い事になりそうな予感がする。


「じゃあ、三ノ宮を見つけたら俺からも返す様に言っておく」

「頼むぞ」

 そう言って立ち去る田中。

 視界から居なくなると、忍者の様に柱の裏に隠れていた三ノ宮菜々子がスルリと出て来た。

「危なかった……」


「三ノ宮……。迷惑だから返せよ」

「違う。私は盗んでいない」

 盗んでいない……?

「じゃあ、他の不思議ハンターのメンバーの仕業か?」

「違う。私達は何もしていない」

「マジか?」


「手品部の他にも、消えたものを返せと言われて、とても困っている」

「何が消えたか分かるか?」

「調理部の泡立て器と漫研のペン軸」

「……それもマジックアイテムっぽいな」

「何?」

「いや、何でも無い。三ノ宮は何か犯人の心当たりは無いのか?」

「ある。全ては宇宙人の仕業」

「……それで美術室に来たのか」

 三ノ宮菜々子は火咲花奈を宇宙人だと思っている。

 カウンターの特殊能力で、魔法使いの気配を感知しているのだ。

 中でも火咲に対しては異常な反応を示している。


「犯人は火咲じゃないと思うぞ」

 事実を伝えると、三ノ宮は美術室に視線を向け、目を細める。

「そうみたい。現在、宇宙人の不思議レベルは急激に低下している。犯人は他にいる」

 そんな事まで分かるのか。相変わらず察知能力が高いな。

「犯人は他にいる……か」

 新たなカウンター登場か、もしくは謎の結晶体の仕業か……。

 どちらにしても早急に対処した方が良さそうだ。


 やれやれ。やっぱりこんな展開になったよ。

 マジックアイテムってのは必要な時に限って消える設定なのか? いい加減にしてくれ。流石に飽きて来たぞ?


 三ノ宮菜々子は身体をユラリとさせ、

「そこで日高君に依頼がある。私達と一緒に真犯人を探して欲しい」

「俺が? 三ノ宮と?」

「前に日高君に協力した」

「なるほど」


 ここで俺が拒否した所で三ノ宮は一人で行動するだろう。

 深追いすれば、結晶体の攻撃を受けるかも知れない。それもまた厄介な事になる。

 なので、ここでの俺の選択肢は一つしか存在しないのだ。

「ちょっと待ってくれ三ノ宮」

 俺は一連の流れを水鞠にメールした後、

「了解だ。一緒に真犯人を捕まえるぞ三ノ宮」

「不思議ハンター……始動!」


 結局、いつもの流れに落ち着いたか。

 ……なんて思いつつ、俺と三ノ宮菜々子で朝の校舎内を探索。

 その結果、消えたマジックアイテムが見つかる訳でも盗んだ犯人が捕まる訳でも無く、ただただ時間を食い潰して朝の時間が終了した。


 三ノ宮はピンとすら来ていない様子で小首を傾げ、「何かがおかしい……」と唸り始めた。

 おいおい大丈夫か? 何だか不穏な流れになって来たぞ。

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