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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第五章 魔法使い達の日常

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第109話 日高誠と魔法面接③

 俺は右手に魔力を込め、立体魔法陣を創り出した。


『来い! 火喰甲魚(ひくいこうぎょ)


 掌に転がるガラス玉が、乾いた音を立てて砕け散る。

 破片は光輝き、氷の結晶に変化した。

 それは俺の背後で結合すると、氷を纏う古代魚の姿となり、咆哮を上げる。

 

火喰甲魚(ひくいこうぎょ)。熱を奪え!』


 氷の像換獣の能力が発動。

 一帯を冷気の渦が包み込んでゆく。

 だが、その中心に立つクロセは余裕の表情を見せている。

「……ほう。また妙な個体と契約したものだな」


 氷の能力は発動しているはずだ。

 なのに、熱が奪えない。

「効いてない……のか?」

「当たり前だ。像換獣の能力は人体には無効だからな」

「え……?」

「そんな事も知らないのか」


 そうか。

 結晶体と戦えるとは聞いていたが、魔法使いと戦えるとは誰も言っていなかった……。


 クロセは右腕をグルグルと回し、俺を指差す。

「半無詠唱で火喰甲魚を使える事なんざ、一円にもらなん情報だ。もっとお前の情報をよこせ」

 踏み込む足音と共に、クロセの姿が消えた。


 横か……!?

 ガードした腕の上からの衝撃。

「ぐぁ……」

 鉄の様に重い一撃に、意識が飛んだ。

 地面を転がる感覚。激痛が全身を駆け巡る。

 気付けば俺は森の中に横たわっていた。


 遅れて記憶が蘇って来る。

 どうやら俺は、思い切り蹴り飛ばされていたしい。

 それを自覚した瞬間、また激痛が走り抜けた。


 クロセの足音が近付く。

「像換獣はこうやって使うんだよ」

 魔法エンジンの鼓動。

 ……まさか。コイツも使えるのか。像換獣を。

 しかも既に召喚済みかよ。用意がいいな!


『切り裂け。鋼太刀魚(はがねたちうお)


 魔力の刃が森の中を駆け抜けてゆく。

 木を……切り刻んでいるのか……?

 そうか。

 刃は無効でも、倒れて来る木は物理攻撃になる。

 ヤバい……! 早くここから離れないと。


 ……動け。俺の身体!

 轟音と共にぶつ切りになった樹木が落下して来た。

 それをギリギリで回避。

 森からの脱出に成功した。


 そこに待っていたのはクロセだ。

 俺だってそんな狙いは分かっていた。だが、どうにもならん。

 クロセから放たれた強烈なパンチが俺の顔面にクリティカルヒット。

 さらに蹴りを入れられ、倒された挙句に胸を踏みつけられた。

 

 痛ぇ……。動けねぇ……。


 俺を見下ろすクロセの背後には像換獣が浮いている。

 一メートル程の鋼鉄の魚。

 名の通り、太刀の様な細長い形状で、鳥のクチバシみたいに尖っている。

 あれが鋼太刀魚(はがねたちうお)か。

 火喰甲魚に近い、かなり強力な魔法エンジンを積んでいる様だ。


 クロセが俺の胸に乗せた足に体重を加える。

「また傷が回復しているな。アバラの二、三本でも折って、どこまで再生出来るのか検証してみるか」

 ……洒落にならん! 絶対絶命のピンチだ。

 でもな。この状態は俺が望んだシチュエーションなんだよ。


 ──お前に反撃をする為のな!


『来い! 電伝六蟹(でんでんろっかい)!』


 右手の中で砕ける立体魔法陣。

 破片は電光を放ち、六匹の蟹に形成。

 右手を中心に弧を描く様に浮遊した。

 それを見たクロセが眉を歪ませる。

「何だぁ? 魔法電波なんか外に届かねーぞ」


 そんな事は百も承知だ。

 俺は力を振り絞り、蟹の一匹を掴んだ。

 グイっと横向きに傾け、ありったけの魔力を注ぎ込む。

 電伝六蟹のシステムデータを改竄し、意図的にエラーを発生させる。

 禁じ手中の禁じ手だ。


電伝六蟹(でんでんろっかい)!』


 六匹の蟹から特大の電撃が放出。

 魔法電気の塊がクロセに直撃した。

 それと同時に俺の身体にも激痛が走る。

 イテテテテ! マジで痛い!


 これにはクロセも驚きを隠せない。

「やるなぁ。今の一瞬で像換獣を改造したのか。残念だが俺には効かないぞ」

 確かに電撃のダメージを受けているのは俺だけの様だ。

 だが、そんな事は予測済みだ。

 像換獣の能力は人体には無効だって話だからな。

 

 クロセが険しい表情を見せる。

「お前、何かを狙っているな? 電撃は囮か」

 あっさりバレた。

 俺は咄嗟にクロセの足首を掴んだ。そして全体重をかけてしがみつく。

「逃さねーよ!」

「上か!?」

 

 俺は火喰甲魚に命令をしていた。

 上空の水分を集めて、氷の粒を作れと。

 見ろ。どデカい雹の出来上がりだ。

 物理攻撃なら効くんだろ?

 なら喰らわせてやるよ。氷の弾丸をな!




鋼太刀魚(はがねたちうお)!』

 

 クロセの像換獣が魔力の刃に変化。

 居合い抜きの如く放たれる斬撃。

 氷の弾丸は粉々に打ち砕かれた。


 嘘だろ!?

 あの高速の弾丸に刃を当てたのかよ。至近距離から!? 詠唱のスピードが異次元だ。

 無茶苦茶過ぎるだろ。

「ダメだ……」

 俺の使える手は全て使い切った。

 魔力も残っていない。身体が動かない。

 もう勝ち目は無い。


 クロセが俺の顔の上に足を乗せた。

「やるじゃねぇかボウズ。まだ荒削りだが伸び代はありそうだ。どうだ? 俺達の仲間にならないか?」

「……ふざけるな」

「いい話だと思うがな。組織に属さない駒も使い方によっては有用になる。俺の言う通りにすればガッツリ稼げるぞ」


「俺は、水鞠コトリを……絶対に裏切らない」


 クロセはニヤリと笑い、足を引いた。

「そうか。なら、ここまでだな」

 俺との距離を拡げた後、パチンと指を鳴らす。

 視界がグニャリと曲がり、結界が振動を始めた。

 


 *


 *


 *



 …………空だ。

 

 空が見える。

 オレンジ色と紫が混じり合い、星空が一面に拡がっている。

「あれ?」

 身体が動く。

 いつの間にか痛みが無くなっている。完全に無傷だ。

「まさか……!」

 結界が消えているのか!?


 俺は素早く立ち上がり、自分の居場所を確認した。

 魔法商店の入口付近。クロセと契約を交わした場所だ。


 やや離れた場所にはワタヌキ店長の姿があった。

「店長……」

 その横には弓犬が立っている。

「弓犬……? 何でここに?」

 確か先に帰ったはずだよな。


 弓犬はコホンと咳払いをした後、つぶらな瞳を真一文字にした。

『仕事ですから』

「あ……」

 そう言う事かよ……。

 その言葉でようやく理解した。

 弓犬は「この場所」に居る必要があった。


 ワタヌキ店長。

 弓犬。

 そして……クロセ。


 その「仕事」には、三人の魔法使いが必要だからだ。


 ──魔法面接。

 俺は知らない間に「面接される側」の人間にされていたってオチだ。


 俺の背後からクロセが現れた。

「合格だボウズ」

「合格……ですか」

「そうだ。これからは俺が戦闘技術を教えてやるよ」

 やっぱりそう言う事か。

 それにしたって、やり方が酷過ぎるでしょ……。

「あ、ありがとうございます……」


 よっぽど俺が不服そうに見えたのだろう。

 ワタヌキ店長が申し訳無さそうに、

「すまんな日高君よぉ。最初から騙すつもりは無かったんだよぉ。クロセさんに日高君の事を相談したら、こんな流れになってよぉ」

 ペコペコと頭を下げていると、弓犬が溜息を吐く。

『本当に悪趣味でしたね』

「そんな風に言うなよ。いいシナリオだったろ?」

 クロセがカハハと笑った。


 確かにその通りだ。認めるしかない。

 シナリオだけじゃ無い。迫真の演技によって、俺は完全に騙されていた。

 冷静になって考えてみると、おかしな部分が多い。

 まず、あのアホキャラ全開の坂鳴チカが敵で、優秀な魔法ハッカーな訳が無いだろう。

 本当だったら人間不信になるわ!

 そのタイミングで気付くべきだった。


「気を悪くするなボウズ。伸び代があるって言ったのは本当だ。像換獣の二体同時召喚に未来予知のコンボはなかなかのものだぞ」

「未来予知?」

 俺の反応に、クロセは溜息を吐く。

「何だ? 気付いて無かったのかよ。お前は一歩先の未来を映像として見ている。それがあるから相手よりも早く判断出来るんだよ」


 反応したのはワタヌキ店長だ。

「魔眼の一種かよぉ?」

「未来視の魔眼とは違うな。もっと雑なヤツだ」

 そこに弓犬が入る。

『日高誠は杭に一度存在を消されているのです。なので、体感している時間にブレがあるのかも知れません』

「カハッ。そいつは面白いな。こんな危ない奴、他の従者に嫌われて当然だ」

 クロセがカハハと笑い、話を続ける。

 

「そうだボウズ。未来予知や自動回復は結界の中だけ有効な。勘違いするなよ」

 あの状態は結界内だけ?

「……って事は、魔法使いや結晶体とはそこそこ戦えたとしても、そこら辺の普通の人に負ける場合がある、と」

「そう言う事だ。ヤベー奴に喧嘩を売るなよ? 下手したら死ぬぞ」

 そう言って豪快に笑うクロセ。


 この人は本当に裏が無い。

 だからこそ信頼出来るかも知れない。そう思った。


 水鞠家の元指南役。

 俺の師匠には勿体ない位の人物だ。

 俺は姿勢を正し、クロセに頭を下げた。

「これからよろしくお願いします。クロセさん」

「改まるなよ。俺の事はクロセでいい。もしくはクロちゃんでよろ」


 ……やっぱりこの人もクセが強そうだ。

 これは先が思いやられるなぁ。


「日高!」


 突然の声に驚いた。

 まさかここに来るなんて、思ってもみなかったからだ。

 そいつは俺を見つけるなり、猫の様に瞳を光らせた。

 

「水鞠……」

次回、魔法面接最終話です。

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