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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第五章 魔法使い達の日常

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第100話 日高誠と魔法アバターの作り方①

第五章の構成を変更する事にしました。

時系列はそのままに話は進んで行きます。

第100話では過去の魔法料理対決を挟むつもりでしたが、番外編的な扱いで五章のラストに移動する予定です。

 九月。

 濃密だった夏休みが終わり、学校生活が再開した。

 高校一年の夏といえば青春の「ど真ん中」と言えよう。各自色々とありそうなものだ。

 だが久々に会ったクラスメイトは、さほど変化が無い様に見える。

 一学期のセーブ状態から、そのままコンティニューしたかの様な雰囲気を漂わせていた。


 放課後の一組の教室で、そんな話を吉田にすると細い目が真一文字になった。

「一番変わったのは日高だろ」

「俺?」

「そうだよ」

「あ、そうか。確かに日焼けしているし、筋肉も付いて来たからな」

 魔法花火大会が終わった後も筋トレやランニングを欠かせていない。

 その成果が出ているのだろう。


「そうじゃ無いんだよな。なんつーか、雰囲気が変わったって言うか……」

「前もそんな様な事を言ってなかったか? 俺は何も変わってねーよ」

 すると吉田は俺の耳元に顔を近付け、

「俺だけが言ってる訳じゃねーよ。クラスの女子どもが噂してたぞ。今度こそモテ期到来か?」

「何でそうなるんだよ」

 お手軽過ぎるだろ。モテ期発動条件。


「きっかけなんてそんなモンよ。ま、俺には来た事無いから分からんがな!」

 フフンと勝ち誇る吉田。

「だったら適当な事を言うな」

「そんなモテ期の日高よ。これから暇にならないか? 何かしようぜ」


 今日は始業式とホームルームのみの日程だ。

 大体の部活は休みで、午後はフリーになる。

 ただ「普通の部活」ではない科学部は例外だ。

 流れからいって通常通りに活動があると思うのだが……。


「ちょっと待ってくれ。一応スケジュールを確認するわ」

 俺は鞄の奥でスマホを操作し、画面を確認した。

 水鞠からメッセージが来ている。


『夕方まで化学室で待機していて』


 ……やっぱりそうなるか。

「悪い吉田。今日は夕方まで化学室だな」

「マジかよ。始業日から一体何やってるんだ? 本当に謎の部活だな」

「色々と忙しいんだよ。文化祭も近いしな」

 

 それは全くの嘘だ。文化祭の話なんて一ミリもしていない。

 化学室で待機指示の時は、従者が忙しくて動けない時だ。

 学校で魔法エラーが起きたら俺と志本で対応してくれってパターンになる。


 吉田はやれやれといった表情で、

「しゃーない。じゃあ、俺は先に帰るぞ。またな日高」

「おお」


 吉田が一組の教室から出て行ったあと、視界の隅からユラリと影が近付いて来た。

 ストレートの長い髪を靡かせ、三ノ宮菜々子がニヤリと笑う。

 この展開になると学校生活の始まりを実感するなぁ。


 三ノ宮菜々子は俺をジッっと見た後、

「変わったよね……」

「三ノ宮まで俺にそんな事を言うのか」

「確かに日高君は変わったと思うけど、私が言いたいのは、吉田君の方……」

「吉田が?」


「確実に変わった。特に今日は凄く変わっていた」

「日替わりで!? 俺には何だか分からんのだが、どんな所が変わったんだ?」

「分からない。怪異に取り憑かれている可能性がある」

「いや、何でそうなるんだよ」


「花火大会のあとから怪異の気配が強くなった。その辺りから吉田君の様子が変わった」

「花火大会……」


 確かに、あの時は従者のアバターらしき物体が校舎内に増えていた様な気がする。

 なので三ノ宮の言っている事は正しい。

 だがしかし、吉田の変化と怪異の関連性は無い。全くの偶然だ。


 三ノ宮菜々子は長い前髪から右目を覗かせ、

「学校も始まったし、不思議ハンターを本格的に始動する。罠を強化させ、怪異の捕獲を試みる」

 そう言って、太いゴムが重なり合う謎の物体を見せて来た。


「へえ。それが新しい罠か」

「そう。以前のパーツと組み合わせて追加ダメージを与える」

「そ、そうか。周りに迷惑をかけない様にしろよ」

「日高君も何か気付いた事があったら教えて……」

 そう言って三ノ宮菜々子が一組の教室を退室した。


「吉田が変わった……か」


 三ノ宮は吉田に好意を寄せている。

 だからこそ微妙な変化にも気が付くのかも知れない。

 それで無くとも、三ノ宮は魔法とは別の特殊な能力の持ち主だ。一応、気にしておいた方が良さそうだな。



 * * *



 いつもの様にノックを三回。

 科学室のドアを開くと、そこには異様な光景が広がっていた。

 ブルンブルンと唸りを上げるテニスラケット。

 テニスウェアを身に纏う美少女が一人。


「いつからここは魔法テニス部になったんだ?」

「あ、日高」

 志本紗枝がスイングを止めて振り向き、首を傾げた。

「あれ? 何だか眠たそうだね。寝ぐせも付いてるよ」

「この目つきは生まれつきのものだ。髪は癖っ毛な」

 そう言って、お約束のやりとりを済ませた後、中央の席に腰を降ろした。


「志本。テニスの練習なら他でやってくれよ」

 すると志本はテニスラケットを俺に向かってズイと突き出し、

「実は私、どうしてもやってみたい事があるのよ」

「魔法テニスならやらないぞ」


「違うよ。魔法アバターの作成だよ」

「魔法アバター?」

「そう。凄く便利そうじゃない? 絶対欲しい!」

「それでテニスラケットって訳か」


 志本紗英はエヘヘと笑い、

「アバターになる物は本体と結び付きが強い物を選ぶらしいのよ。私はこれしか無いでしょ」

「それはそうかも知れないが……」

 志本に素の性格が出て来ている今、アバターのキャラに不安要素しか無い。


「何? 日高は私がアバターを持つのが不満なの?」

「い、いや。そう言うわけじゃ……。そもそも、そんな簡単に作れるものなのか?」

「それを今から訊こうと思っていたのよ」

「誰に?」

「あ、来たよ」


『レッツゴー!』


 突如流れるユーロビート。

 科学室の照明が落とされ、色とりどりのレーザービームが重なった。

 扉が開かれ、姿を現したのはギャルメイクされた金色のヤカンだ。


 ヤカンから生えた紐の手足をリズミカルに動かし、パラパラを踊りながら入室。

 ひとしきり踊った後、曲の終了と同時にギャルポーズでキメた。

 そして、それが無かったかの様に「スウッ」と跪く。

『我を貫くものは無し。水鞠家最強の壁 ここに……』

 水鞠家当主直属 真壁スズカのアバター 壁ヤカンが登場した。


 壁ヤカンはキョロキョロと科学室を見渡し、

『おや……? コトリ様のお姿が無い様だし?』

 すると志本紗枝が笑顔で手を挙げ、

「私が呼びました!」

『ナヌ!?』

「ちょっと教えて欲しい事があって……えへへ」

『……お前! また通信機能をハッキングしおったな! ヤメロ言うただろ! アホか!? 予定と違うからおかしいと思った!』

 あーあ。マジ怒りさせちゃったよ……。ギャルキャラが完全に崩壊しているし。


 志本は反省する素振りも無く、

「こうでもしないと来てくれないと思って……」

『当たり前だし! あーしはこう見えても忙しいし!』

「ごめんなさい! ちゃんと魔法セキュリティホールの場所は教えるから! 話を聞いて下さい!」

『そ、それなら仕方ないし……。話だけは聞いてやるし』

 志本の方が上手だった…!

 頼りないなぁ……最強の壁……。簡単に貫かれているぞ。



 科学室の中央の席に俺と志本が向かい合う。

 机の上には壁ヤカンがドカリと座った。

『アバターが欲しい?』

「そう! だから、やり方を教えて欲しくて……」

 両手を合わせ、お願いポーズでウインクする志本。

『構わないし』

「本当!?」

「マジかよ……」

 意外だ。簡単に承諾しやがった。


 壁ヤカンは腕を組み、深く頷く。

『でも、魔法アバターを操るにはかなりの修練が必要だし?』

「はい。覚悟の上です」

『学校の宿題や炊事・洗濯・ゴミ出しをやらせて楽をしようとするつもりでも無駄だし。

後でデータを共有したら自分でやった時と同じ感覚になるし? 正直ダルいし』

「それでもいいです!」


 いや、そんな事をアバターにさせていたのかよ。

 むしろやり辛いだろ。そう言う事は本体でやれよ。

 壁ヤカンの説明は続く。

『アバターと本体はリアルタイムでの情報共有は出来ないし。未来改変に関わる出来事は勿論、ストーキング・のぞき行為をしても視覚や記憶は一切消えるし? それでもやるし?』

「構いません!」


 確認事項がいちいち不純過ぎる…!

 まあ、誰もが考える事だとは思うけどさ……。不安になって来たぞ。

 

 壁ヤカンは蓋を鳴らすと、

『分かったし。じゃあテニスラケットを足元に置いて、あーしと同じ動きをするし?』

 そう言って空手の構えの様な姿勢で立つ。

「ハイ!」

 志本も席から立ち、机から離れて同じポーズをして見せた。


 壁ヤカンは「ハア!」と気合を入れ、正拳突きを二発放つ。

 おお? これは今までに無いパターンだぞ?

 さらに蹴りを二発放ち、その場で一回転。素早く腰を落とす。

『マジカル アバターメイキング! アジャスト ハァ! ゲッツ!』

 両手をピストルの形にして突き出した。

 いやいや。結局ゲッツかよ! これを本当に志本はやるのか?


 ガクン、と崩れ落ちる志本紗枝。

「……ダメだった! 何も起きないよ!」

 もうやっていた。そして失敗だった様だ。


 その状況を見て壁ヤカンは「フォッフォッフォ」と超人の様に笑い、

『アバター作成をナメんなし? まだ百年早いし!』

「ショック……」

「残念だったな志本」

 正直言って成功しても面倒臭いキャラが増えるだけだった。

 悔しそうにしている志本には申し訳無いが、これはこれで良かったのかも知れない。


 壁ヤカンはテーブルから飛び降り、扉に向かって歩いてゆく。

『じゃあ、あーしは帰るし。バイバイキー! ……ん?』

 壁ヤカンは立ち止まり、頭のフタを開いた。

 中からスマホを取り出し、画面を確認する。


「どうしたの?」

「何かの緊急連絡ですか?」

『違うし。弟子の魔法アバターが校舎の侵入を試みている様だし』

「弟子?」

「ああ、坂鳴チカか!」

「日高、知っているの?」

「まあな。向こうからいきなり挨拶に来たんだよ。面倒だから志本も気を付けろよ」


『あーしの弟子をナメんなし? 新人にしてアバターも使える様になった優良株だし!』

「アバターを? 従者になれるだけあって凄いんだね」

 志本は感心しきりだ。


『まあ、自信過剰な所が欠点だし。アバターにとって、この東谷高校への侵入は最難関だし。来るなと言ってあったのに、あーしの言い付けを守らなかったし』

「三ノ宮の罠がありますからね……」

『ここに来るには三年早いし。追い返してくるし』


「俺も一緒に行きましょうか?」

『余計なお世話だし! アイツらの罠パターンは全て攻略済みだし。ここ数か月はあーしの金ピカボディには傷一つ付いてないし! 絶対に付いてくんなし!』

 そう言って壁ヤカンはプリプリと怒りを爆発させながら、化学室から出て行ってしまった。


 本当に大丈夫かな……。壮大なフリになりそうな気がする。

 二体とも捕獲されてみろ。あの三ノ宮の様子だと、救出は困難を極めるだろう。

 ……仕方がない。


「志本。やっぱり心配だから、俺も様子を見に行って来るわ」

 視線をいつものテーブルに移すと、志本は椅子に座った状態で、うつ伏せになっていた。

「志本……?」

「…………」

 返事が無い。

 何だか様子がおかしい。ピクリとも動かない。


「志本……!? おい! 志本!?」


魔法アバターの話は四話構成となります。

よろしくお願いします。

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