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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第五章 魔法使い達の日常

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第98話 日高誠とゲーム回 前編

 家から自転車を走らせて八分少々。

 県道沿いを進み、三角屋根が目印の「タジマ書店」にやって来た。


 店内の客は十人ほどだろうか。

 夕方過ぎという事もあり、帰宅前のサラリーマンが目立つ。

 俺はいつもの流れでレンタルDVDの新作を確認した後、スポーツ雑誌コーナーへ移動した。

 そしてサッカー雑誌を手に取り、レジへと向かう。

 

 その途中。ド派手なギャルが目の前に現れ、俺の行手を阻んだ。

 金髪碧眼ツインテール。

 身体のラインが強調されたベージュのタンクトップにカーキのショートパンツ姿だ。

 ──真壁スズカ。

 何で当主直属の魔法使いがこんな場所に居るんだよ。


「日高誠! 何でここにいるし!?」

 それはこっちのセリフだ。

 こいつに絡んでもロクな事が起きない。早く離脱しなければ。


「俺は雑誌を買いに来ただけで、すぐ帰りますけど」

 そう言って、やる気の無い感じで手に持っていた雑誌を見せる。

 すると、真壁スズカは素早いステップで距離を縮めて来た。

 ……顔が近い!

 距離を拡げようと動いたが、真壁スズカに手首を掴まれて妨害されてしまった。


「ちょうど良かったし。暇ならあーしに付き合うし。こっちへ来るし」

「ちょ、話を聞いてますか? すぐに帰りたいんですけど!? イテテテ!?」

 凄まじい腕力だ。抵抗出来ん……!

 俺は万引きで捕まった犯人の様な扱いで、金髪ギャルにズルズルと引き摺られてゆく。

 


「さあ、入るし!」

 連れ込まれたのは薄暗い部屋だ。

 細長い部屋で、奥にはデカいスチールラックがあり、手前には四人掛けの簡素なテーブルが置いてある。

 搬入ドアの手前には台車が置かれていて、返品用と思われる雑誌が山積みになっていた。

 ここは本屋のバックヤードで間違い無いだろう。


『おや? 騒がしいと思ったら、日高君ではないですか』

 パイプ椅子には青い羽根のオカメインコが止まっていた。

 橘辰吉の魔法アバター「鳥吉(とりきち)」だ。

 鳥吉と真壁スズカと俺か。また異色なメンバーが意外な場所で揃ったものだ。


「これから一体何が始まるんですか?」

「緊急会議だし」

 そう言って真壁スズカがテーブルに着く。

「会議?」

「まずは座るし。話はそれからだし?」

 ……嘘だろ?

 俺を敵視する真壁スズカが俺を会議に誘う?

 あり得ない展開だ。


「夕飯までには帰りたいんで、急いで下さいよ」

「それはキミ次第だし」

「何ですかそれ。そもそも何で俺なんです? あまり役に立てるとは思えないのですが」

「実は他の人間とは既に会議済みだし。残るはこの二人だけなんだし」

「最後の最後って事か……」

 志本紗英が参加した時に、俺も一緒に呼べよって話だ。本当に酷い。


 三人が席に着いた所で、ようやく謎の会議がスタートした。

 真壁スズカは、どこぞの指令官の様に両手を前で組み、声のトーンを下げる。


「実は、西隅谷(にしすみたに)店の売上がまた下がったし……」


「はい?」

『ああ、タジマ書店の西隅谷店ですね?』

 すかさずフォローする鳥吉。

「即急な対策が必要だし。存続のピンチだし」

『何と!? そこまでとは……。本屋が無くなる事は、魔法業界にとって深刻な事態です』

「な、何か大袈裟過ぎませんか?」


 真壁スズカは首を横に振る。

「全く大袈裟な話では無いし? 本屋と魔法使いは古くから深い繋がりがあるし!」

「そうなんですか?」

 鳥吉は頷き、

『魔法の素質がある者は本屋に惹かれる……と言われています』

 何を訳の分からない事を言って──。

「……あ!」

 思い出した。そう言えば俺にもあった。


 魔法試験の時だ。

 俺はビデオをレンタルしにこの店に来ていた。

 そこで魔法トレーニングの本をゲットしていたのだが……。

 思い返してみると、偶然とは思えないタイミングだった。


「一時期は書店員の半分以上が魔法の素質を持っていたし」

「す……すごいな書店員……」

『電子データで管理していなかった時代は、書店員が魔法で管理していたと言われています』

「今でも書籍に挟まっている紙の管理カードは呪符の名残りだし」

「ちょ、本当ですかそれ。いい加減な事を言わないで下さいよね」

 やっぱり冗談半分で聞いておこう。でないと精神が持ちそうに無い。


 真壁スズカは真剣な表情で左手で三本の指を立て、

「最盛期は九店舗を持っていたタジマ書店も残るは三店舗だけだし。数々の対策も効果は無いし。そこで知恵を貸して欲しいし」

「タジマ書店が復活するには……か」

 あの真壁スズカが俺にここまで言うとは。よっぽど厳しい経営なのだろう。


 そもそも全国的に本屋の減少が問題になっている上に、駅の近くの好立地は巨大書店が幅を利かせている。

 ネット書店もあるし、郊外店の小さな本屋は厳しい状況と聞く。

 タジマ書店のヘビーユーザーである俺にも深く関わる話だ。ここは協力させて貰おう。


「了解。じゃあ、素人考えで良ければ」

『ワタクシも同様ですが、意見させて頂きます』

「じゃあ鳥吉から何か言うし!」

 オカメインコを指差す真壁スズカ。

『ムムッ!? いきなり来ましたか』


 鳥吉はしばらく考え込んだ後、

『オリジナルのポイントカードを発行してみては?』

 真壁スズカは首を横に振る。

「既にあるし。ビッグタイトルの発売日に合わせてポイント二倍になっているし」

 鳥吉は右の羽根を挙げ、

『では、雨の日をポイント二倍にするとかはどうです?』

「やっているし。土日も二倍にしているし」


 そうだ。簡単に思い付く事は既に全部やっている。

 俺もここで買う時にはポイントカードにハンコを押して貰っているのだ。

 真壁スズカは俺を指差し、

「日高誠は何かあるし?」


 いやあ、そう言われてもなあ……。

「じゃあ、何かオリジナルの店舗特典を付けるのはどうです? 漫画キャラクターの栞とか、たまに本屋で配っているみたいじゃないですか」

 美希はそれが欲しくて、わざわざ遠くの店舗まで行って漫画を買ったらしい。嬉しそうに自慢して来ていた。

『おお! それはいいですね!』

 鳥吉も乗り気だ。


 あからさまに表情を曇らせる真壁スズカ。

「全くキミ達は何も分かってないし。クズだし」

「言い方が酷過ぎませんか!?」

「まあ、素人がイメージを掴めないのはしょうがないし。だからコレを用意して来たし」

 真壁スズカが机に出したのはプラスチックのケースだ。

 いや、ケースじゃ無い。これは……。

「ビデオゲームのカセットですよね」


 俺の言葉に、鳥吉がトサカをピンと立たせる。

『おお! 日高君は知っているのですか?  かなり古めのゲーム機のカセットだと思いますが』

「ええ。父の影響で。古いゲーム機は一通りやっています」


『おお! 私も結構持ってましたよ。ツーディーオーって知ってますか?』

「それは知らないです」

『じゃあ、バーチャルボ……』

「それも分かりません」

『そ、そうですか……』


 真壁スズカは胸の前で両手を叩き、

「これはあーしが作った書店経営ゲームだし。これで今のタジマ書店の状況を分からせるし」

「作ったんですか? ゲームを!?」

「ま、実は元にあるゲームを改造しただけだから、二時間くらいで出来たし」

「二時間……」

「日高誠。折角だから、キミにはこのゲームの試遊をやって貰うし!」


 どうやら、今回は「ゲーム回」というやつらしい。

 しかしこの流れ……。

 どう考えてもダメな結末にしかならない気がする。

 後編に続きます。

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