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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第五章 魔法使い達の日常

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第97話 日高誠と消える名探偵 後編

このお話は「前編」「中編」「後編」の三話構成になっています。




 俺は細い路地を抜け、シャッターの降りたビルが並ぶ、薄暗い通りに出た。

 辺りを見渡すが橘辰吉の姿は無い。


「やられた……!」

 まさか、気付かれて撒かれたか? だとしたら最悪だ。

 俺はスマホを素早く操作し、水鞠にメッセージを打ち込んだ。

『悪い。見失った。どうしたらいい?』


 送信後、すぐに返信が来た。

 何故かメッセージの主は水鞠コトリでは無い。

 志本紗英の名前が表示されている。

「志本……?」

 すぐにメッセージを確認。


『十七時三十分に眼科の予約を取っているみたいだよ』

 メッセージと共に、病院の地図データが添付されていた。


 続けて志本からメッセージを受信。

『私も近くにいるよ。遠くから日高をサポートする様に言われてる』

「マジか」

 どうやら水鞠は志本にも仕事を依頼していたらしい。

 魔法ハッカーのサポート付きなら安心だ。

 俺は『了解』とだけ打ち込み、地図を頼りに病院へと向かった。


 しかし、眼科ってのが気になる。

 橘辰吉は魔法花火大会で魔法を使った際に失明のリスクがあったはずだ。

 平気そうに見えて、実はかなりのダメージを負っていた……?

 この可能性は高い。


 予約時間十分前に目的地に到着。

 俺は近くの建物の陰に隠れて橘辰吉を待つ。

 眼科は雑居ビルの地下一階だ。かなり古臭く、看板も小さい。

 闇医者かな? といった怪しい雰囲気だ。


 そこに本人が到着した。

 橘辰吉はキョロキョロと辺りを見渡した後、素早く地下へ降りる。

 うっわ。怪しすぎる! 何かの売人でももっと自然に振る舞うだろ……。

 そもそも服装が怪し過ぎて全然隠せて無いけどな。



 待つ事、三十分。

 地下から橘辰吉が姿を見せた。

 デカいサングラスをかけ、赤いノースリーブの軍服を着ている。

 そして何故か金髪になっていた。

「誰だよ!」


 何で眼科に行っただけでコスチュームが変わってんの?

 反地球連邦組織の大尉かよ! 何の勢力と戦っているんだよ。

 橘辰吉はサングラスを掛け直した後、肩を落としながらトボトボと歩いてゆく。


「ああ、もうヤメだヤメ! やってられっか。こんな茶番」

 俺はスマホを取り出して水鞠コトリの名前をタップ。

 水鞠と直接電話を試みた。


『どうしたのさ日高。追跡がバレたの?』

「いや、バレてない。多分」

『じゃあ、どうして電話なんてして来たのさ』

「確認したい事があってな」

『何?』

「ついさっき、眼科から橘辰吉が出て来たんだが、診察結果を知りたい」

『ああそれね。ちょっと待って』


 しばらく待った後、水鞠の通話が再開する。

『魔眼を使用した際の労災を申請したかったみたい』

「労災!? 魔法使いにもあるんだな。それで?」

『視力には全く影響が無かったから、労災は下りなかった』

「それでか……」

 あのガッカリ具合を思い出して納得した。

 いや、視力が無事だったんだからいいだろ。

 どんだけ金が欲しかったんだよ。

 

『じゃあ日高。追跡を続けて。アイツの居場所は志本さんに送らせるよ』

「ちょっと待て水鞠。その前にもう一つ確認したい事があるんだが、いいか?」

『何なのさ』

「橘辰吉がスパイだと疑う事になった原因なんだが、それってワタヌキ店長には伝えたのか?」

『雷旋復帰の情報が漏れた事?』

「そう。それだよ」


『言ったに決まって……。ん? そう言えば言って無かったかも』

「なるほどな……」

『それがどうかしたの?』

「多分、その情報を漏らしたのはワタヌキ店長本人だぞ」

『何を言っているのさ。登録をする前での公表はルール違反になるんだよ? 罰則モノだよ』


「その辺のルールは知らんが。可能性は十分あるから、本人に確認してみてくれ」

 自我の無い土雲家当主にペラペラと自己紹介する自己主張の激しい性格だ。

 あのオッサン、ノリで情報漏洩したかも知れない。

『あ、ちょうど綿貫が来たよ。確認してみるね』

「頼む」



『……! ……!? ……!』



 電話の奥で、水鞠の怒号が聞こえる。

 しばらくして息を切らせた水鞠が、

『綿貫だったよ……』

「だろうな。そんな事だろうと思ったよ」

『信じらんない。ベテランなのにこんなフザけた事……』

 声だけで水鞠の怒りが伝わって来る。

「じゃあ、俺の探偵業は引退でいいか?」

『うん。志本さんにもそう伝えて。アタシはこれから説教タイムに入るから』

「了解……。ほどほどにな」

 俺は通話を終了し、一息吐く。

 何だったんだよ……。もう死ぬほど疲れた……。

 早く帰ろう。



「お疲れさまでした日高誠君」


「おお!?」

 背後から橘辰吉が現れた。

 驚いた。死ぬほどビックリしたよ!

「なかなかの尾行術でしたよ。土魔法も見事です。かなりのクオリティですね」

「バレていたんですか……」

 すると、橘辰吉は笑みを浮かべ、

「ええ。楽しませて頂きました」


 流石は水鞠家の隠密担当。俺なんかじゃ歯が立つ訳が無かった。

 俺は最初から橘辰吉に遊ばれていたって事だ。

「いつから気付いてたんですか?」

 その問いを待っていたのだろう。

 橘辰吉は涼しい顔で前髪を掻き上げる。


「スーパードラック パッピちゃんの所ですよ」


「スーパードラック パッピちゃん……」

 何処だよそれ!?

 もしかして、病院に行く前に見失った時か?

 ……って事は。

 ついさっきじゃねーか! 全く気付かれて無かったよ!

 そして、「スーパードラック パッピちゃん」に俺は居なかったし……。

 この男、とんでもないポンコツだ!

 

 だが俺も大人だ。ここはツッコまないでおく事にする。可哀想だし。

「すみませんでした。仕事だったので……」

 それだけ言うと、橘辰吉は満足そうにして、

「理解しています。この所、不可解な情報漏洩がありましたので。こうなる事は想定済みでした」

「そうだったんですね」


 あの時、橘辰吉が居なかったら風麟海月の座標は判明しなかった。

 間違いなくMVP級の活躍をしたと言っていい。

 それなのにスパイ容疑をかけられたんだ。酷い話だとは思う。

 

「私はコトリ様を絶対に裏切りません」


 橘辰吉は眼鏡をクイと押し上げ、言葉を続ける。

「例え私に裏切る様な行動があっても信じて下さい。それはきっと、水鞠家の未来の為ですから」

 何かサラリと意味深な事を言っている様な気がするが。

 どこまで本気なのか、さっぱり分からん。

「了解です……」


「それよりも日高君。私が今一番知りたいのは、君の事ですよ」

「俺……?」

「ええ。特に──との……。いえ、弓の魔法使いと貴方の関係性です」

「どう言う事ですか?」

「合体魔法で立体魔法陣を打ち上げた時、貴方達の魔法シンクロ率は異常でした」

「ああ、あの時の……」

 ぶっつけ本番の割に、上手く行き過ぎた……とは思っていた。

「打ち上げに成功しただけでも奇跡です。しかも、あの魔法限界高度を越えるには……おっと!」

 

 橘辰吉は言葉を止め、鋭い視線を背後に向けた。

「どうしました?」

「いえ。この話題はまた次の機会に。私はこれで失礼しますよ」

 二本指で敬礼し、ウインクをかます橘辰吉。

 そして謎のコスチュームのまま踊るように立ち去って行った。


 代わりに現れたのは志本紗枝だ。

「日高! ここに居たんだ」

 志本紗枝は制服姿で、両手に大量の紙袋を持っている。

 志本はキョロキョロと辺りを見渡した後、首を傾げた。

「今、火咲さんが居なかった?」

「いや、俺は見なかったが……」

 こんな場所に火咲花奈が居る訳が無いだろ。

 どんな偶然だよ。絶対に見間違いだ。


 すると志本は納得の行かない様子で、眉をへの字に変えた。

「あれ? おかしいな……」

「そんな事よりも志本。何だよ、その紙袋」

 俺が指差すと、志本は「ビクッ」っとなって紙袋を背後に隠した。

「こ、これはね? その、追跡の仕事ついでに店に入っていたら、魔法ポイントが使える所が多くてね……つい……」

「買ってしまった、と……」

「だってね。ずっと欲しかったんだよ? 可愛いバックとか、洋服とか……」


「返品してこい」

「何で!?」

「何で、じゃねーよ。そんな高そうなブランド物、家に持って帰る気か? 親がビックリするだろ」

「だだだだだだ、大丈夫だよ! バイトしたって言うから」

「総額いくらなんだよ。絶対に親が心配するぞ? 誰かに見られて良からぬ噂が立っても知らないからな」

「だって、だって……」


「今すぐ返して来い。本当は自分でもヤバいって分かっているんだろ?」

 俺がそう言うと、志本は涙を浮かべ、

「分かってる。分かってるけど……」

「返してこい」

「分かりました! 返します! 日高の鬼! 悪魔!」

 叫んだ後、猛ダッシュで走り去ってしまった。


 まったく……。なんて日だよ。

 ちゃんと返品したのか、後で確認しておこう。

 橘辰吉を美味しくしようと企画したのですが、実力不足で中途半端になってしまいました。

 それならそれでいっか、と割り切れる所が橘辰吉のいい所かなと思っています。


 次回はゲーム回です。

 日高誠は真壁スズカが作った謎のゲームをする事に。

 本編とは絡まないお話です。

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