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赤髪の魔女と使い魔  作者: 新在 落花


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7.森の外(4)

 予想外のことを言われ、デールは周りに誰もいないことを確認して小声でルーカスに問いかける。


「陛下ですか?」

「デールは何も感じなかったか?」

「私に魔力はありませんから」


「それにしても見事な赤髪だったよね。将来は美人になりそうだ」

「それはそうと、この事態の収拾はどうなさいますか?」


 デールが手に持つ箱の猫に見えた獣はすでに動いていない。箱の中に横たわる猫の死骸は、すでに死後硬直しているので死んだのは随分と前なのだろう。


 少なくとも捕獲されたことが原因で死んだわけではないようだ。証拠となる猫の死骸は王宮魔法士に調査をさせることにして、王宮に持ち帰るために箱を厳重にしまいこむ。魔力の残滓から何か分かればいいのだが、果たして尻尾を掴むことはできるだろうか。


 早めに捕獲できたので、重傷者は出たが幸いにも死者はなく被害は抑えられた。確認が必要なことはいくつもあるが、まずはこの騒ぎを収めることが先決だった。


 祭りの会場では、いくつもの倒れた天幕を撤去する人、怪我人を救助する人、恐怖や興奮が収らない人などで混乱を極めている。


 犯人である猫はすでに捕獲してあるが、魔力を持たない人々は何が起きたかを知ることはできない。疑心が新たな騒動を招く前にこの場にふさわしい原因を提示して、収めてしまった方が得策だろうとルーカスは考えた。


「突風が起きたとでも言って、デールの名前で事態の収束を図っておいで」

「気が進みませんが、仕方ありませんね。騎士を数人お借りします」


 突風による天幕の倒壊だったという案はデールによって、訪れていた領主へと説明された。デールは領主よりも家格が上の侯爵家子息であるため、その説明はすんなりと受け入れられた。


 デールがルーカスから借りた騎士までが事態の収拾に手を貸すことになり、領主からは過剰な謝意を受ける。若き領主は領地を継いだばかりなせいか、格上貴族のデールと繋がりを持ちたがり、なかなか離してくれなかった。


 しばらくしてやっと解放されたデールがルーカスの元に戻ってきたが、領主との応対内容の報告をしつつ、早々にこの場を離れることを提案した。


「そういえば、さっきヘインズを見たよ」

「ヘインズというと、教会の?」

「何をしていたんだろうね」


 思わせぶりににルーカスが呟くが、声は祭りの喧噪の中に飲まれていった。


 ヘインズは教会に属し役職も持たない者でありながら、なぜか教会の中で聖職者にも顔が利く男だ。どうにか足がかりをつかみたいものだと、ルーカスは厳重にしまわれた箱を見つめる。



-----



 混乱した会場外の露店ではユリアーナが見たこともない果物や食べ物が売られている。薄い生地に焼いた肉を挟んだものや、チーズと芋を焼いたものなど食欲をそそる匂いが辺りに充満していて、ユリアーナの空腹感を刺激する。違う天幕では木彫りの動物が売られていて、可愛らしい造形に思わずユリアーナの口元が緩む。


「アルファー、お腹空いた」

「何か食べてみるか?」


 ユリアーナは首を振って、元来た道を指さす。


「アガトを迎えに行ってから一緒に食べる」

「この人混みで見つかるか?」


 アルファーは嘆息してうんざりとした顔をするが、窺うようにじっと見上げるユリアーナにアルファーは根負けした。


「さっきの場所から動いていないといいけどな。ん?」


 背の高いアルファーがふと気づいて声を上げる。ユリアーナもつられてそちらを見ると、人混みの間から、ふわふわとした薄茶色の髪が見えた。必死に人を避けて前に進もうとしている小さな少年はまさにユリアーナが捜しに行こうとしてたアガトだった。


「アガト!」


 ユリアーナが破顔してアガトに駆け寄ると、足は大丈夫かと問いかけた。泣きそうな顔をしたアガトが小さく頷くと、安堵の表情を浮かべてユリアーナの手をつかむ。


「手を繋いでもいい?」

「いいよ。迷子にならないようにちゃんと繋いでてね」

「迷子になるのはお嬢だろう」

「なんでアルファーはそんなことばっかり言うの!」


 二人の軽快なやり取りを聞いてやっと人心地がついたアガトは、繋いだユリアーナの手を離さないように必死に縋りついていた。手の震えはもうなくなったが、恐怖を伴う男への不快感がまだ澱のように沈んでいた。




 初めての外の世界を満喫したユリアーナは、念願の絵本を手にして満足げに頬をほころばせていた。今にも踊り出しそうな軽快な足取りで歩いている。一方のアガトは沈んだ表情でユリアーナとしっかり手を繋いだまま、ユリアーナに引きずられるように足を進める。


 アルファーは二人の正反対な顔つきを見ながら、さっき見た嫌な顔を思い浮かべていた。祭りの主要会場でユリアーナが本を受け取っていた青年。アルファーが二度と見たくないと思っていた顔によく似ていた。年齢からいって本人ではないだろうが、瓜二つと言っていいほどに似通っていいたため不快感が沸き起こる。


 帰り道でユリアーナがリィスへのお土産を買いたいと言い出し、並べられた木彫りの置物の中から厳選して形の気に入ったものを三個購入した。



-----



「お前は祭りで何があったんだ?」


 ユリアーナが部屋へ戻った後、わざわざアルファーがアガトの所へ戻って来て問い質す。いつもの陽気な雰囲気はなく、無機質な硝子玉のような目がアガトを射すくめるように見ている。


 部屋の光源である蝋燭の火が消えているので、暖炉で燃える火だけが二人を照らしている。薄暗い部屋の中で、アガトには暗くて見えるはずのないアルファーの表情がはっきりと見えるような気がした。


「あの置物はなんで三個あるんですか?」

「一個はお前に買っていたよ」

「猫はリィス、鳥はあなたに。もう一匹はなんですか?」

「犬だそうだ。お前が子犬みたいなんだとよ」


 それを聞いたアガトが自嘲するような笑いを浮かべた。


「凄いなユリアーナは本質を的確に見抜く。僕は教会の犬なんです」


 アルファーは声色からアガトが泣き出したのかと思ったが、むしろ淡々とアガトは話し始めた。


「あの時死んだ二人もか?」

「そうです。教会の命を受けて一緒にこの森を探っていました」


「教会なのか?国王ではなく?」

「はい。僕たちは教会からの命で魔女を探しています」

「魔女?」


 魔女と聞いてアルファーの顔色が変わる。


 アガトは誤魔化しなく、全てを打ち明けようととしている。アルファーはユリアーナを守るため、あらゆる危険から彼女を遠ざけなくてはならない。邪魔をするものがあればユリアーナが気に入っているアガトであっても排除する。それはアガトをこの家に入れる時に決めたことだ。


「はい。探しているのは教会だけではなく王宮も魔女を探しています。なので表向きは王命で教会が魔女探索をしていることになっています」


 てっきり魔女を追っているのは国王だと思っていたアルファーは、思いがけない話に面食らう。王宮から追われることはあっても、教会に探される理由が思いつかないからだ。


「実際は違うのか?」

「教会は何かの思惑を持って魔女を探しています。王宮と手を組んだのは都合がいいからでしょう。あなた達は魔女を知っていますね」


 確信を持った物言いでアガトがアルファーに問いかけた。

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