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赤髪の魔女と使い魔  作者: 新在 落花


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5.森の外(2)

「すごいね!なんで人が多いの?」

「祭りだからな」


「この人達どこから来たの?」

「家だろ」


 ずっと続く質問責めに辟易しているアルファーは、ユリアーナの質問にぞんざいな返事をする。見かねたアガトがアルファーに代わって説明を行う。


「ここは王都から近い位置にあるから、この辺の人だけじゃなく王都からも祭りに来るんだよ」

「王都って?」

「国王陛下のいらっしゃる都だよ」


 国王と聞いたユリアーナが、眉を下げて見たこともないような顔をする。不思議に思ったアガトがユリアーナを覗き込むと、後ろからアルファーに頭を掴まれた。


「あんまり難しい言葉を教えると、そいつが混乱するぞ」

「わたし分かるよ!」


 ユリアーナは興奮して、アルファーの上着の裾をぐいぐいと引っ張って声を荒げる。


「はいはい。ほらあれ見てみろ」


 ユリアーナは目の前で繰り広げられる大道芸人の芸を見て、帽子のつばから隠れ見える顔を薔薇色に紅潮させていた。緑色の目を輝かせて、何個もの輪を四方八方に放り投げては、器用に受け取る芸に見入っている。


 話を逸らされた?


 アルファーの不自然な話の切り替えに、アガトはそう感じた。


「凄い!」

「そんなに大声出さなくても聞こえてるって。ほら手を離すな」


 興味あるものを見つけるとすぐに駆け出そうとするユリアーナの手を、アルファーはしっかりと掴んで離さないようにする。こんな人混みではぐれると見つけるのが面倒だ。


「アガト、足はどうだ?辛いなら少し休もう」


 傷は癒合し足も動くようになったとはいえ、まだ完治しているわけではない。祭りへ行くこともアルファーは一度は止めたが、ユリアーナが一緒に行きたいと言い張ったので同行することになった。


 突然声をかけられてきょとんとしていたアガトは、自分の怪我を心配されていることに気づいて、思わずはにかんだ笑顔を見せる。目を丸くしたアルファーの顔を見て、アガトは自分が笑っていたことに気づき気まずそうに目を伏せた。


「アガトもお嬢と手を繋いどけ。お嬢ならまだしも、お前がはぐれたら俺は見つけきれない」


 アガトがユリアーナの手に触れるか触れないかの距離まで手を差し出すと、ユリアーナはその手をぎゅっと手を掴んだ。


 あの天幕はなに?あの露店で売っているのは食べ物?とひっきりなしにアガトに質問が飛ぶ。一つ一つに丁寧に答えると、アガトは物知りだねと感心された。


 アガトの足を気遣ってできるだけゆっくり歩くために道の端を歩き、人の流れに乗って街の中央へと足を向ける。


 日が傾き始め、人の往来は更に増えた。道の端を歩いているとはいえ、流れよりはゆっくり歩いているためか人とぶつかることが増えた。アルファーはユリアーナを庇うように自分の前を歩かせ、アガトはその横を歩く。


「あの本可愛い」


 所狭しと本が陳列された天幕で、ユリアーナが一冊の本に目を奪われて声を上げる。表紙が見えるように立てかけてあるその絵本は、冠を被った少女が微笑んでいた。


 あっと思った時には絵本は別の客が手に取って、そのまま歩き出した。手に取ったのはアルファーより少し下くらいの歳の青年で、絵本と他の数冊の料金を店主に支払って天幕を出て行った。


「懐かしい本だな」

「知ってるの?」


「ユリアーナの名前はあの絵本から取ったんだ」

「そうなの?」

「名前なんかつけたこともないから、どんな名前にしようかとリィスと必死に考えて、あの本も参考にした」


 それを聞いて俄然あの本が欲しくなったユリアーナは、同じ本がないかと必死に棚を探すが、見つけることはできなかった。


「あの本欲しいな。また連れてきて」

「いい子にしてたらな」


 話を聞いてアガトも同じ本を探してあげたかったが見つかるとも思えず、後ろ髪を引かれる思いで本の天幕を後にする。


 祭りの主要会場となる噴水の広場に到着すると、通ってきた場所よりも更に人がごった返していた。


 アルファーがユリアーナに気を取られていると、前から杖を突きながら歩いてきた男とアガトがぶつかった。アガトが衝撃で尻餅をつくと、目深に帽子を被った男はアガトに一言詫びてすぐに歩き去った。


「アガト大丈夫?」


 ユリアーナに手を引かれて立ち上がったアガトは、真っ白な顔をしている。繋いでいる手が震えている気がしてユリアーナは首をかしげた。


「……い、今ので少し足が痛くなったみたいだ。僕はここで休んでいるから、ユリアーナ達は先に進んで欲しい」

「置いていけるわけないよ。わたしもここで少し休む」


 少し先に路地裏へと続く横道がある。置いてある樽に座って休んでいるとアガトが言うのだ。確かにここであれば分かりやすく、後から見つけることも容易そうだ。

 ユリアーナは大分渋ったが、アガトの説得で祭りを一回りしたら戻って来るからと言い残して、アルファーと先を目指した。


 アガトが一人になると、見計らったように人影が近づいてきた。


「見つけたぞ。なぜ連絡を寄越さなかった?」


 先ほどアガトにぶつかった杖の男が横の樽に腰を下ろす。初老の痩せた男は、目深に被った帽子のまま小声で話しかけると、包帯の巻かれたアガトの足を見て鼻で笑う。


「森の道で馬車が滑落した。他は川に流されて死んで、僕はこの通り足を怪我して動けなくなった」

「さっきの連れは誰だ?」

「森の近くで死にかけたところを助けられて、世話をしてもらっている人達だ」


 探るようなヘインズの視線にアガトの心臓が早鐘を打つ。見下したような笑いをするヘインズがアガトの足を叩くと、振動と共にずきんとした痛みが伝わった。


「……魔女は見つけたか?」


 今までよりも更に声を潜めてヘインズが問う。


「この数ヶ月怪我のせいで動けなかったんだ、探すことなんてできなかった」

「さっきの娘は魔女ではないな?」


 ユリアーナ達の向かった先を親指で指して問う。ぶつかった時にユリアーナを見られていたことに舌打ちしたくなったが、取り繕って首を大きく振る。


「黒髪でも赤目でもないし、普通の少女だよ」


 魔女は漆黒の髪と闇夜に輝く深紅の目を持っているといわれているが、ユリアーナは赤い髪と緑の目をしている。魔女の色を持ち合わせていないと、アガトは魔女の特徴を列挙して否定する。


「お前をこのまま連れ帰る。他と合流し別の場所を当たれ」

「……お世話になったから、せめて別れだけは言わせて欲しい」


「裏切る気ではないだろうな。教会はいつでもお前を捜し出して始末するぞ」

 ヘインズは声を低くし、アガトの耳元で凄みを利かせる。アガトは男に本心を悟られないように何気なさを装って言葉を返す。


「裏切る気があるなら、この何十年でとっくにやっている」


 ヘインズはその答えに満足げな表情をして立ち上がると、アガトを見下ろして冷笑を浮かべた。アガトは男の立ち上がる気配にびくりと体を震わせる。怯えを悟られたくないのに、過去の忌まわしい記憶がそれを許してくれない。


「お前がどこへ逃げようとも、お前に刻まれた紋が居場所を暴く」

「……分かっている。逃げるつもりもない」


 アガトはヘインズと視線を合わさずに、彼が望むであろう答えを口にする。


「別れなど不要だ。どうせもう二度と会うことない者達だ」


 ヘインズはアガトを一瞥すると、付いてくるようにと顎をしゃくった。するとどこからともなく現れた黒服の男が影のようにヘインズにぴったりと追従する。


 どこに逃げても教会が追って来る。逃げようとしてもアガトの居場所は教会に筒抜けだ。

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