表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤髪の魔女と使い魔  作者: 新在 落花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/32

29.前兆(1)

 第二王子の散り散りになっていた意識が、ひとつに固まっていくような感覚に陥る。これは誰かの夢に渡った徴だ。


 ぱっと目の前が明るくなって、周りを見渡すとそこは貴族の喫煙室のようだった。視線を部屋の中央に向けると、肘掛けのある椅子で三十歳くらいの男が葉巻をくゆらせていた。


「あなたはどなたですか?」


 紫煙の中にいる男に第二王子が質問を投げかける。第二王子の方が夢での主導権を握っているため、夢うつつの夢の主は質問に逆らわずに答えてくれる。


「私はマイルズ・アクトン。最近、領地を継いで子爵になりました」

「前領主はどうして亡くなったのですか?」


 爵位は当主が死亡すると最年長の男子がその後を継ぐ。マイルズが当主になったということは、前の領主が死亡したということだ。


「先日、父と兄が領地視察中に事故で一緒に亡くなって、私が家を継ぎました」


 貴族の子息であっても貴族扱いされるのは、父親が爵位を持っている間まで。兄が襲爵した後は次男のマイルズは平民になるはずだった。そこに降って湧いた当主の地位だ。


 称号を有する当主でありながら、腰が低いと感じたのはそのせいかと第二王子は納得する。夢の中で多くの貴族と放す機会があった。高慢で貴族であることをひけらかすような相手が多かったが、マイルズは人好きのする性格に見える。


「それは突然のことで大変でしたでしょう。今、何かお困り事はありますか?」 

「家令が優秀なので領地運営もどうにかなっていますが、正直荷が重い。兄は父から様々なことを教えられていましたが、私は将来どうやって自分の身を立てるのかばかりを考えて、家には関わらずにいました。家を継いで意外だったのは、思ったより教会の介入があることですね」


 マイルズが浮かべた、腑に落ちないという表情を第二王子は見逃さなかった。


「教会になんと言われるんですか?」

「教会は領地運営にまで口を出してくるんです。あとは、王宮騎士と王宮魔法士に助けを求めるようにと言われました」


「なぜですか?」

「今、領地で獣による被害が相次いでいるんです」


 領地では獣害事件が発生している。領民や家畜が襲われ、死傷者も出ている。領地の自警団でも被害を未然に防ごうと見回りなどを強化しているが、それを掻い潜るようにして被害は一向に収まらない。


 ただの獣にしては全く人に尻尾を見せない。その鮮やかな手法に知能を持つもの、魔獣の仕業ではないかと教会騎士団と教会魔法士の派遣を要請したが、王宮騎士団と王宮魔法士を頼れと断られたのだった。


 魔獸とは魔性の魔力を帯びた獣だ。もしそうであれば領民で結成された自警団などでは太刀打ちできない。


「なぜ教会騎士団と魔法士に断られたのでしょう」

「……それは……」


「教会が何をさせようとしているのか話しなさい」


 マイルズが言いにくそうに言葉を詰まらせたので、第二王子が質問を強める。


「……王宮の騎士と魔法士を減らし、王宮の警備を手薄にさせるためだと」


 更にいくつかの質問をしたところで、夢が白く霞み出した。夢に滞在できる時間が過ぎたのだ。最後に夢のことを忘れるようにと暗示をかけると、第二王子は夢から外に出された。


 このことを父王達に伝えたいが、一度目の邂逅以来ユリアーナと夢が繋がらない。焦燥感に駆られながら思わず唇を噛んだ。




「私があの娘に会わせてあげましょうか?」


 突然聞こえた声に驚いてその方向を見ると、黒髪に深紅の目の魔女がいた。口元に黒子のある魔女が、三日月型の目をして第二王子を見ている。


 魔女の出現に第二王子は警戒するが、魔女はさして気にしていないようで足下の老犬をなでている。


「なぜここに?」

「夢は魔女が得意とする媒介なの。それに私もあなたも半死の状態だから、繋がりやすかったのね」


「力を貸す代わりに、私もあの娘に会わせてもらうわ。私ではあの娘に直接干渉することができないの」

「見返りは何を求める?魔女は対価を求めるのだろう」


 魔性の女が何を目的にユリアーナに近づこうとしているのか。第二王子が対応を誤れば、ユリアーナの身にも危険が及ぶのではないかと背筋に冷たいものが走った。


「それはあの娘に頼むからいらないわ」


 目的はユリアーナ一人だと魔女は言う。第二王子に求める見返りはないのだ。


「ユリアーナに何をさせるつもりだ?」


 目の前の美しい魔女が、とびきりの笑顔で第二王子に告げた。


「殺して欲しい魔女がいるの」



-----



 魔法士団長室で、しかめ面のユリアーナを苦笑いしたルーカスが眺めている。


 ユリアーナはあの日以来、第二王子との接触を数回試みているが、再び夢で会うことはできていない。それでも、ルーカスと魔法士団長は気落ちすることもないが、諦める様子もなかった。


 ユリアーナは今日も魔法士団長がつきっきりで魔法の制御ができるようにと、魔法士団本部で訓練を続けている。原理は分かったような気がするが、魔法が暴走しがちでどうにも制御ができない。


「ルーカスや王さまも魔法が使えるの?」

「僕と兄上は全くだよ。父上は膨大な魔力をお持ちだけど、自分に関する魔法しか使えないよ」

「魔力があっても魔法が使えないの?」


「そうですな。魔力をお持ちでも使えるように訓練せねば、自在に操ることは難しいのです。国王は無意識にご自身を守ることには長けていらっしゃいますが、魔法に割く時間があれば政務について学ぶとおっしゃって特に魔法に興味をお持ちになりませんでした」


 魔法は王宮魔法士がいるのだから、自分がやらなくてもいいだろう言って、若かりし頃の魔法士団長がいくら勧めても魔法に興味を持たなかった。折角の女神の魔力がもったいないと思ったが国王の意志は固かった。


「ユリアーナは魔法で何ができるようになりたいんだい?」


 ユリアーナが休憩のための机に突っ伏している。上手くいかない魔法に苛立ちを感じて、眉を寄せているユリアーナにルーカスが問う。


 第二王子のことを頼んだのは自分とはいえ、ユリアーナがどうしてここまで必死に魔法の訓練を受けているのかが不思議だったのだ。


「森で襲われた時に何もできなかったのが嫌だった。わたしのためにアルファー達が怪我するのは嫌」


 膝の上にいた黒猫が、ユリアーナに顔を上げて見つめている。その視線に気づいたユリアーナは艶やかな毛並みをゆっくりと何度も撫でる。ユリアーナの座る椅子の背もたれに留まっていた鴉が赤髪をつんつんと引っ張ると、そのまま肩の上に上った。


 アルファー達が身を挺してユリアーナを守ろうとしたことが、まだ胸の奥で燻っている。次もまたユリアーナが危険な目に遭えば、アルファー達は同じことをするだろう。


「わたしが魔女の魔力を使えるようになったら、アルファー達にも魔力が戻るから」


 今のユリアーナは魔女の魔力が相殺されているため、その使い魔も無力なままだ。ユリアーナが魔女の魔法を制御できるようになり、魔力を自在に操れるようになれば、自ずと使い魔も同じことができるようになる。二人の身を守るためにも、魔女の魔力の制御はどうしても必要なのだ。


「女神の魔力ならまだしも、魔女の魔力はお勧めできませんな。姫君の体が持ちません」


 ユリアーナの言に魔法士長が渋い顔をして首を振る。


 女神の魔法は基本的に王族にのみ受け継がれる魔力だ。王族と言っても基本的には直系に出やすく、その中でも国の中枢に座する者に現れやすい。女神の魔力とは、国を守るために綿々と引き継がれる魔力ではないかとも言われている。


 降嫁した王妹の子アガトが、女神の魔力を持つのは珍しい例だ。魔女を母に持つユリアーナが、女神の魔力をもって生まれたことは信じがたい事象だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ