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赤髪の魔女と使い魔  作者: 新在 落花


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26.夢を渡る(2)

 三人が王子宮の客間に戻ると、台車を押しながら不満そうな顔をするデールが待ち構えていた。台車には大量の書類と本が載っている。


 ユリアーナ達との出会いから知っているデールは、ルーカスからユリアーナに関する説明を受けている。王家の機密事項に触れ、それは自分が聞いていい話なのかと流石のデールも動揺した。


 ルーカスから機密を知らされた翌日、宰相に呼び出され口止めという名の脅しを受けた後、資料収集に駆り出された。手放しで信用できる者が少ないと宰相が嘆き、デールの父である侯爵へも協力を仰いだことを聞かされた。


 妥当な判断だとデールは思う。

 侯爵家は王宮騎士を多く輩出している。王宮騎士とは国王を主君とし、主君への絶対の忠誠を誓った剣士のことだ。王宮騎士団に属するものであれば、ある程度信用できると考えているのだろう。


 なぜなら元より王宮騎士は教会と仲が悪い。この国で騎士といえば、騎士団に入団し剣の修練を積み、主君から叙任された王宮騎士のことを指す。しかし教会に属する剣士が教会騎士団なる組織を結成し、自ら教会騎士を名乗っていることに王宮騎士達は憤慨している。

 デールの父も兄もあえて口には出さないが、教会騎士には難色を示している。


 ふと我に返ったデールは、宰相に指示された教会や教会派の貴族に関する書類の束を、ルーカスの前にわざと音を立てて下ろした。


「殿下はこちらに目を通して下さいね。この量に目を通すのは私だけでは到底無理です」

「今日はユリアーナに本を用意してるんだよ」


 デールの視線から逃げるようにくるりと体の向きを変えると、ユリアーナに一冊の本を手渡した。ユリアーナの気に入っている絵本はなかったが、好きそうな本を用意した。


「わたし読んでもいいの?」


 積み上げられた本を見てユリアーナが歓喜の声をあげた。台車に駆け寄ると一冊の本を持ち上げて早速本を開く。無邪気に喜ぶユリアーナを横目で見ながら、デールが台車から数冊の本を運ぶと、ユリアーナにも見やすいようにテーブルに並べる。アガトも並べられた本を手に取るとパラパラと中身に目を通す。何冊かに目を通した後、生ぬるい目をルーカスに向けた。


「なんで兄妹とか姉弟が出てくる話ばかりなんですか?」

「ちゃんとお姫様も出てくるだろう?」


 真面目な顔をしたルーカスが、ユリアーナの希望には沿っていると言い張る。

 ユリアーナは読んだ本の影響を受けやすいらしいと察したルーカスが、自分がよく思われるように兄妹仲の良さそうな本を探し回った結果だ。


「その下らない理由に付き合わされた私の身にもなって下さい」


 デールがうんざりとした表情でルーカスを見て、昨日の図書館での一幕を思い出していた。


 ユリアーナに渡す本を探すために図書館に連れて行かれ、どの絵本がいいかと延々と付き合わされた。子供向けの本の善し悪しなど分かるはずもない。しかも選定理由が下らなすぎて呆れて物が言えなかった。


 王宮図書館の一画で第三王子と側近の二人が真剣に絵本を読んでいる。図書館の司書達に一体何をしているんだという目で見られて、デールは居たたまれなかった。


「お嬢に変な知識ばかりつけるのをやめてもらえるか?」

「何でも真に受けて可愛いじゃないですか」


 使い魔は使い魔で好き勝手言っている。この緊張感のない空間は何だろうかとデールは室内を眺める。大体王宮に魔女や使い魔がいることから言って尋常ではない。


「アガトにもほら」


 ルーカスが数冊の本をアガトに手渡すと、不思議そうな顔をしたアガトが素直に受け取る。貴族の子供が読む教本が数冊ユリアーナの本とは別に用意してあった。アガトも公子だった頃は同じような教本を使って教育を受けていた。


「分からないところは聞いていいから、ちょっと読んで昔を思い出してみるといい」

「……ありがとうございます」


 アガトが弱音を吐いたことで気遣わせてしまったのだと申し訳ない気持ちになったが、ルーカスの配慮が嬉しくて破顔すると、満足げにルーカスが頷いた。


「ユリアーナは明日僕に付き合ってくれるかい?」

「いいよ」

「バートランド兄上に会って欲しいんだ」


 いつも飄々としているルーカスがいつになく真剣な面持ちで、ユリアーナに向き合っている。眠りに就いたままの第二王子に会うことは、以前からルーカスが言っていたことだ。

 ユリアーナは即座に首肯した。



-----



 第二王子が眠るのは、王子宮の厳重に警備された特別な一室だ。その階自体が限られた者しか入ることのできない上に、最奥にある部屋の扉は厳重に幾重にも魔法がかけられていて、魔法士団長にしか扉を開くことができない。


 侵入者を拒むその仕掛けは無理に突破しようとすると、命を落とすことすらある。城門の魔法と同じ原理だ。万が一魔法士団長が死んだ場合は、次なる者にしか解錠ができないようになっていて、侵入することは非常に困難だ。


 ユリアーナとルーカスが連れ立って上階に続く階段を上っているが、アガトやアルファー達の姿はない。王宮でも極一部の者だけが知る第二王子の現状。王宮の厳重な警備の中、使い魔や王族以外の者を連れて行くことはできないと告げると三名は渋々従った。


 アルファーはルーカスのことはそれなりに信用している。ユリアーナに害を与えるようなことはしないだろうと踏んでいるからだ。それでもアルファーとリィスは、ユリアーナとは繋がっているから何かあれば止めてもすぐに行くからなと、脅すことも忘れなかった。


 上階の踊り場で待ち受けていた魔法士団長は、やって来たルーカスの顔がいつになく緊張していることに気づいたが、知らない振りをしていつも通り話しかけた。ユリアーナは目立たないように頭からすっぽりとローブを被っている。


 魔法士団長がユリアーナの額に手を当てると、一瞬ふわっとした温かさを感じたがすぐにその感覚は消えた。


「今の何?」

「この先に進むための魔法です」


 豪華で装飾の多い廊下を歩くと、最奥の部屋にたどり着いた。扉前を守る騎士達がルーカスと魔法士団長に一礼すると、扉前から身を引いた。前に進み出た魔法士団長によって開かれた扉を通り抜けると、ユリアーナが眉根を寄せて歩みを止めた。


「ここ嫌な感じがする。アガトの頭と同じ」


 先を歩いていた魔法士長がユリアーナを振り返ると、隣に立つルーカスに身を寄せて顔をしかめていた。近づけば近づくほど産毛が逆立つような嫌な気配がユリアーナに纏わりつく。アガトの後頭部からも同じ気配を感じるがこの部屋の中はもっと濃厚だ。


 不安になったユリアーナがルーカスの手を握ると、ルーカスはユリアーナの手が小さく震えていることに気づいた。


「ごめんね。僕には全く分からないけど、これ以上は無理そうかい?」


 ルーカスは兄のことも大事だが、怯える少女に無理をさせるつもりは毛頭なかった。


「……ルーカスは王子さまに会って欲しいんだよね?」

「そうだけど、君に無理をさせるつもりもないんだよ」


 意を決したユリアーナがローブから顔を出して、じっと前を見据える。ひとつ先の部屋には広い寝台があり、開かれた天蓋カーテンの間から、その上に横たわる人影が見えた。


「アガトと同じということは、やはり教皇か?」

「姫君にこれ以上のご無理を強いるわけにはいきますまい。少なくとも収穫はありましたので、また後日といたしましょうか?」


「……もう少し行ってみる」


 二人の会話を聞いていたユリアーナがぎゅっとルーカスの手を握ると、少しずつ部屋の奥へと歩き出した。心配したルーカスがユリアーナの顔を覗き込むが、大丈夫だと首を縦に振った。


 寝台には茶色の長い髪をした二十代半ばの青年が横たわっている。二十年も眠りに就いているようには見えず、ただ眠っているだけにしか見えない。


「もう少し近づいてみる」


 寝台のすぐ横に立ったユリアーナが、静かに見守るルーカスと魔法士団長の前で第二王子に手を伸ばした。その途端、崩れるように寝台の上にユリアーナが倒れ込んだ。


「ユリアーナ!」


 叫び声を上げてユリアーナを抱き起こそうとするルーカスを、魔法士団長が必死に止めた。


「殿下!どうかそのままで。見て下され!」


 魔法士団長が示した先では意識もなく自由に動くはずのない第二王子の手が、ユリアーナの手を掴んでいた。あり得ないことが起き、言葉が出ないルーカスの腕の中から魔法士団長がユリアーナを解放し、そのまま第二王子の横に寝かせた。


 ユリアーナの手を掴む第二王子の表情はいつもと同じく、穏やかな顔をして眠っている。


「兄上……?」

「少しお待ちいたしましょう。もしかするとお会いになっているかもしれません」

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