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赤髪の魔女と使い魔  作者: 新在 落花


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18/32

18.一堂に会する(2)

 王都から馬車で半刻ほどの場所に、尖塔がそびえ立つ大聖堂がある。建築された当時は柔らかい乳白色であった大聖堂は、年数を重ね趣ある色合いに変化している。

 建物は至る所を彫刻や大きな窓で流麗に装飾され、採光用の高窓から入った光が女神が描かれたステンドグラスを照らして聖堂に美しい影を落とす。


 大聖堂の正面は複数の入り口を備え、どの入り口も多くの信者達で溢れかえっていた。建物の中心にある祭壇には、大理石で彫刻された女神像が掲げられている。


 大聖堂の最奥で、膝掛け椅子に腰掛けたヘインズが苛立たしげに杖で床を叩いている。この部屋は教皇の次位である大司教すら入室を許されない教皇のための居室だ。厳重に警備されたその場所への入室をヘインズは許されている。


「ジョン!なぜ勝手なことをした?」


 部屋の中にはもう一人、銀髪の少年がヘインズから離れた椅子に座っている。ふて腐れた顔をして、睨みつけるヘインズにそっぽを向いた。


 ジョンはいけ好かないヘインズに目に物見せてやろうと、アガト捜索の使いを先回りして目隠しの森へと行った。


 結果としてアガトには逃げられた。しかしヘインズに責められているのことが気に食わない。なぜヘインズごときから叱責を受けなくてはならないのか。


「祭りでは騒動を起こし、勝手に森へ行っては魔女を取り逃がす!なぜ事前に報せなかった!」

「あの女は魔女じゃない」

「お前の浅慮のせいで、アガロットまで逃がしてしまったではないか。あれは貴重な成功例なんだぞ」


 引きずるほどに長い銀色の髪を靡かせながら、純白の長衣を着た三十代半ばの男が入室して来た。


「教皇聖下」


 ヘインズは立ち上がって恭しく礼をするが、ジョンは椅子に座ったまま入って来た教皇をちらりと見ただけだった。

 うねりのない真っ直ぐな銀髪。女性と見紛うような中性的な顔立ち。髪と同じ銀色の目が座ったままのジョンを見る。


「あまり勝手なことをしてはいけませんよ」


 聞いているだけで心が穏やかになるような、心地よい音のゆらぎがジョンをたしなめた。


「目隠しの森にいたのは魔女だったようです」

「魔女じゃないって言ってるだろう!魔女ではないがあの女は何かがおかしい。俺の魔法を破った」

「魔女ではない根拠はなんですか?」


「あいつから嫌な魔力を感じた」

「女神の魔力ですか?」

「分からない。それに出来損ないの罪咎の紋が綻んでた」


 ジョンは目隠しの森で見たアガトのことを思い出す。森で対峙した時、確かに罪咎の紋の綻びを感じた。元々アガトの紋は完全な状態で刻まれてはいない。居場所は特定できるが、内面にまでは作用が及んではいないのだ。


 教皇は空を見つめゆっくりと瞬きをすると、ヘインズを見て囁くように告げる。


「アガロットの場所を特定なさい」



-----



 アガトの話を誰もが固唾を呑んで聞いていた。目の前の少年の壮絶な過去になんと声をかければいいのか、誰も言葉を持っていなかった。そして最後に告げられた教皇の介入。


「まさか教皇聖下が黒幕か?」


 黙ったままの国王に代わってルーカスが口を開く。ヘインズが怪しいとは睨んでいたが、まさか教皇自身が関わっているとまでは予想外だった。


 教皇とは教会の最高位の聖職者だ。教会は国王の配下にあるとはいえ、時には貴族よりも強い発言力を持つ。代々の教皇は大聖堂から出ることはなく、人前に姿を現すこともほとんどない。教皇に代わって、枢機教や大司教が教会の仕事を取り仕切る。

 王族であっても教皇本人と会うことはないため、現教皇が数十年も姿を変えずにいることに気づくことなどできるはずもない。


「これは厄介だな」


 やっと口を開いた国王が眉間にしわを寄せて黙考する。どう考えても頭の痛い話だ。一番手を着けてはならないところに話が及んでいる。

 まずはアガトの話が真実であるかを確認し、確認できれば裏付けをとらなくてはならない。


「だからアガトは食べ物への警戒心が強いのか」

「……はい」


 森の家でも与えた物に対して、ユリアーナが口にしたものしか素直に食べることがなかった。しばらく経つとさすがに警戒することはなくなったが、王子宮の食事でも少し口に含んで様子を見てから続きを食す。


 そうだったのかとユリアーナがアガトを覗き込むと、申し訳なさそうにアガトが頷いた。


「俺達は人間社会のことは分からないが、つまりアガトはあんた達の遠い親戚なんだろう。だったらアガトをあんた達に任す」

「どういうことだ?」


 アルファーの発言に国王が片眉をあげてわざと問う。アルファーが言わんとしていることは十分に伝わっていたし、そう言い出すだろうとも予想ができた。教会にユリアーナが狙われている以上、居場所を変える必要がある。


「こいつの体調が戻り次第、俺達は王宮を出る。かと言って森にも戻れそうにないから、場合によっては国を出る」


 はっと顔を上げたユリアーナが、アルファーに挑むように口を開いた。


「アルファーは前にわたしが森で子犬を拾った時、責任が持てないから飼っちゃ駄目って言った」

「は?こんな時に何を言ってる?」


「責任が持てないから子犬は連れて帰らなかった。でもアガトはわたしが拾って帰ったの。私は責任を取らないといけない。だからアガトは置いていかない」


 隣り合って座っているユリアーナがアルファーをじっと見つめる。アルファーは大きなため息をついて、それを今言うか?と無言でユリアーナを見つめ返す。


「いい教育してるな」

「ユリアーナにとって、アガトは子犬か」


 半ば呆れながら王子兄弟がユリアーナとアルファーの無言の攻防を眺めている。


 アルファーとは反対のユリアーナの隣りに座るアガトは、ぎゅっと手に力を入れて二人を見守っていた。置いていかないでと言いたいが、自分が足手まといになることは目に見えている。ジョンに襲われた時も何の役にも立たなかった。それでもユリアーナの側を離れたくなくて、二人の結論をじっと待つ。


 膠着した雰囲気の中、ルーカスがユリアーナの前まで歩きその手を取った。ユリアーナがルーカスを見上げると、ルーカスはにこりと笑いを浮かべた。


「結論をすぐに出す必要はなんだから、ユリアーナもアガトも元気になるまでここにいたらいい。教会の介入が分かった以上、ユリアーナ達が外に出るのは危険だと思う。王宮は守られているから安全だよ。それにユリアーナもここにいる間に、もう少し自分の魔力について知った方がいいと思うんだ」

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