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赤髪の魔女と使い魔  作者: 新在 落花


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12/32

12.王宮へ(1)

 ユリアーナ達を乗せた馬車は、王都へと向かって急いでいた。本来はゆっくりと休憩を挟みながら丸一日かかる距離だが、怪我人がいるため極力休むことなく馬を走らせている。このまま順調に進めば、夕方には王宮に着けそうだ。


 祭りに参加したり、領主の屋敷に押しかけたり、目隠しの森に立ち寄ったりとルーカスの予定外の行動が多く、当初の予定よりは四日ほど遅れてしまったが、無事に帰途につくことできて側近であるデールは胸をなで下ろす。


 道中は順調というわけではなく、森を出てしばらくするとアガトが熱を出した。目覚める気配のないユリアーナに代わって、デールがアガトに熱冷ましの煎じ薬を飲ませるが、熱が下がる気配は一向になかった。寒さに震えるアガトに外套をかけると、少し寒さが和らいだようだった。


 デールが街道沿いの町で医者に診せた方がいいのではないかとルーカスに進言したが、傷を与えたのがただの狼ではないため、正しい診断を下せるとは思えず断念した。


「その少年も王宮魔法士に見せた方がいいかもしれない」

「それはどういうことですか?」

「魔力を感じないか?」

「私には無理ですね」


 ユリアーナは背もたれに頭を預けて眠っているが、意識はないのに動物だけでなくアガトに添えた手もずっと離さない。


 馬車は二人が並んで座っても十分なゆとりがあり決して窮屈なわけではない。しかし、男二人で並んで座っているのがなんとなく嫌だとルーカスがこぼすと、デールが容赦なく冷たい視線を送った。


「あなたがこの子供達を拾ったんでしょう。どうやって王宮に入れるんですか?」

「このまま城門から入ろうと思うが?」

「まさか!許可なしに入れば王宮魔法士の魔法が阻みますよ」


「正直、どうにかなると思っているんだが」

「下手をすれば大怪我しますよ」


 楽観的なルーカスにデールが眉間にしわを寄せる。王宮には侵入者を防ぐため、王宮魔法士による魔法がかけられている。王族やそれに準ずる者、城門で許可を得た者以外が無理に侵入しようとすれば最悪死を招く。


 王族であるルーカスや貴族として許可を得ているデールは自由に出入りができるが、只人が簡単に立ち入ることを許される場所ではない。そこへ拾った子供を連れて行くなど正気の沙汰ではないとデールが憤慨する。


「そろそろ王都に入ります」


 馬車を囲んで騎乗していた騎士が車内のデールに声をかけ、しばらくすると土を踏んでいた馬の蹄の音が石畳を駆ける高い音に変わる。


 王宮をぐるりと囲むのように建てられた巨大な城壁は、一切の侵入者を拒むように高くそびえ立ち、城壁の数ヶ所にある城門にはいつでも数名の門番が立ち厳しい警備体制が敷かれている。城壁の内側は広大で、まるでひとつの街のようにもみえる。


 ルーカス達の乗る馬車は限られた者だけに許された最初の城門をくぐると、左右対称に建てられた宮殿が小さく目に映った。輝かんばかりの白亜の宮殿は、一枚の絵画のように優美で荘厳な印象を与える。緑豊かに整えられた庭園を越えて馬車が更に奥へと進むと、王族の居住する宮殿へとたどり着く。


 極限られた者しか立ち入ることを許されていないこの宮殿に、ルーカスはユリアーナとアガトを連れて行くつもりだ。


 最奥にある城門の門番が、魔法鈴が鳴らないことを確認してから門を開く。侵入者を防ぐ魔法がかけられているため、王族の乗る馬車のみ中の検分はない。不審者が一人でもいれば魔法鈴がけたたましく鳴り響き、魔法が侵入者を阻み中に入ることはできないからだ。


 馬車は御者の操縦するまま、城門をくぐって中庭を通過するとそのまま王子宮へと進む。デールが懸念していたようなことは起きず、眠ったままの子供達は何の抵抗もなく王宮から迎え入れられた。


「……信じられません。どうして通れたんですか?」


 デールは目の前でにわかには信じられないことが起き、顔面を蒼白にしている。魔法が正常に機能していないのか、あるいは魔法を破るような方法があるのか、すぐに調査するよう報告しなければと頭を抱えた。


「……家庭不和の種を拾ったか」


 ルーカスは予想していたとはいえ、本当に素通りできたことに驚きを隠せない。同時に敬愛する壮年の男を頭に浮かべ、怒りを露わにした。



 事前に人払いするよう言いつけていたため、王子宮の従者数名だけがルーカスを出迎えた。そこで王子と見たこともない子供が一緒にいることに驚く。


 ルーカスがユリアーナの膝に抱かれた鴉と黒猫を膝からおろそうとすると、もの凄い勢いでユリアーナがルーカスの手を払った。王子に対する許されない態度に、見た近くの従者が息を飲む音が聞こえた。手を払った衝撃で目を覚ましたユリアーナと、のぞき込むルーカスの目が合う。


「目が覚めた?」

「ここどこ?」


 混乱したユリアーナが周りをきょろきょろと見回すと、怪我をしたアルファー達が目に入った。

 何が起きたかを思い出したユリアーナが、にじんだ涙をぽろりとこぼす。涙を堪えて鴉と黒猫をそっと撫でると、手のひらに温かさが伝わって生きていることに安堵する。


 痛ましそうにユリアーナ見ていたルーカスが、鮮やかな赤髪を撫でるとにこりと微笑んだ。


「名前は?」

「ユリアーナ」


「それがあの絵本のお姫様の名前?」

「そう。アルファーとリィスが付けてくれた」

「可愛がってもらってるんだね」

「うん。大好き」


 ルーカスが安心したように笑って、ユリアーナを立ち上がらせる。


「緊急事態とは言え、勝手に連れて来てしまったからその人達にすぐに使いを出そう」

「お使いの人はいらないと思う」


 どういうことだ?とルーカスは首を傾げるが、ユリアーナは曖昧に笑った。そして視線をアガトに向けるとそっとその茶色の髪に触れた。


「その少年は高い熱を出しているから、すぐに安静にしないといけない。君も少し熱があるようだから一緒に休むといい。抱き上げるからその猫を下に置いて」

「駄目!」


 涙を流して拒否するユリアーナに、分かったからと両手で合図をする。


「君を抱き上げてからちゃんと君に渡すよ。このかごに入れれば落とさないだろう?」


 ルーカスがユリアーナを横抱きにすると、デールがユリアーナに手持ちかごに入れた鴉と黒猫を渡す。


「あなたは誰?」

「ルーカスだよ」

「ルーカス?」


 無知な少女が、呼び捨てなど許されない名前をいとも簡単に口にする。ルーカスが許しているとはいえ止めるべきかとデールが様子を見ていると、ルーカスが首を振って制止した。


 ユリアーナを抱き上げたルーカスが、従者に運ばれるアガトを注視する。どうにかなるとルーカスはある程度の確信を持っていたが、ここまですんなりいくと逆に不安になる。しかしどうしてだか、この二人は大丈夫なのだとルーカスの勘が告げていた。


「ここはルーカスの家?」

「そうだよ」


 森の家とは比べられないほどの広さに、ユリアーナが周りを見渡す。森の近くの町にも、祭りのあった街にもこのような大きな建物はなかった。

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