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第六十四段 車の五緒は
(原文)
「車の五緒は、必ず人によらず、ほどにつけて、きはむる官・位に至りぬれば、乗るものなり」とぞ、ある人仰せられし。
(舞夢訳)
「五緒の車は、必ずしも身分や官位にはよらず、しかるべき御家柄の御出身のお方が、官位を極めることにより、乗ることができるのである」
と、ある御方がおっしゃった。
※五緒の車:牛車。五条の染革を左右、中央、さらにその中間に平行につける。その他、七緒、四緒もあった。
御家柄により、昇進可能な官位の限界が決まっていた。
近衛家、九条家、二条家、一条家、鷹司家は摂政・関白。
久我家、西園寺家は太政大臣など。
兼好氏の在世持は、現代日本とは異なり、身分と用いる衣服、車は、厳密な秩序維持が求められていた。
別の言い方をすれば、役人は、その秩序維持が、政治そのものというか最重要課題、それを破れば、即失脚のリスクが発生してしまう。
でたらめな暴言、愚行を繰り返す現代の政治家や官僚たちには、考えられない細かな神経を使っていたのだと思う。




