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第六十段 真乗院に盛親僧都とて(3)

(原文)

この僧都、みめよく、力強く、大食にて、能書・学匠、弁説人にすぐれて、宗の法灯なれば、寺中にも重く思はれたりけれども、世をかろく思ひたる曲者にて、よろづ自由にして、大方人に従ふといふ事なし。

出仕して饗膳などにつく時も、皆人の前据ゑわたすを待たず、我が前に据ゑぬれば、やがてひとりうち食ひて、帰りたければ、ひとりつい立ちて行きけり。

斎・非時も人にひとしく定めて食はず、我が食ひたき時、夜中にも暁にも食ひて、ねぶたければ昼もかけこもりて、いかなる大事あれども、人の言ふ事聞き入れず、目覚めぬれば幾夜も寝ねず、心を澄ましてうそぶきありきなど、尋常ならぬさまなれども、人に厭はれず、よろづ許されけり。徳のいたれりけるにや。


(舞夢訳)

さて、この僧都は、容姿抜群で、体力もあり、大食漢であって、能筆であり学問もあり、雄弁であるなど、格別に優秀な人であり、この宗派になくてはならない法灯のような人であった。

ただ、寺の中では、尊敬を集めていたけれど、世間の常識などは軽視するような変人なので、全てに自由気ままで、ほぼ他人に従うなどということはない。

法事をつとめて、その後の饗応の席につく時など、全員の前に御膳が並び終わるのを待つことなどはない、自分の前に御膳が置かれれば、早速一人で食べ始め、食べ終わって帰りたくなれば、ひとりで立ち上がって帰ってしまう。

通常の日の午前、午後の食事についても、他の人と一緒に定時に食べるなどということはせず、自分が食べたい時であれば、夜中であっても暁であっても食べて、眠たくなれば昼であっても、自分の部屋に閉じこもってしまう。

どれほどの大事が発生しても、他人の言うことなど聞き入れず、目がさえていれば、幾夜でも寝ない。

雑念を消し去るためなのか、詩歌を吟じて歩きまわるなど、一風変わった生き方をした人であった。

しかし、それでも他人から嫌われず、全てにおいて一目置かれていた。

それを考えると、この僧都は、徳がきわめられていたのだろうか。



芋頭第一主義の僧都は、変わり者ではあるけれど、僧侶としての実力が高く。周囲から一目置かれていたとのこと。

現実問題として、芋頭タロイモが、そこまで美味しいとか、食べ飽きないとする人は、全くマレな存在。

おそらく、古今東西、この僧都以外にはいなかったし、これからも出てこないのではないだろうか。


もしかすると、そういう浮世離れをした人だから、案外、仏道にもすんなりと入り込め、理解ができたのではないかと思う。


いずれにせよ、こんな僧侶であれば、兼好氏が書き残したくなるのも、よくわかる。

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