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第六十段 真乗院に盛親僧都とて(2)

(原文)

きはめて貧しかりけるに、師匠、死にさまに、銭二百貫と坊ひとつをゆづりたりけるを、坊を百貫に売りて、彼是三万疋を芋頭の銭と定めて、京なる人にあづけおきて、十貫づつとりよせて、芋頭を乏しからず召しけるほどに、又、異用に用ふることなくて、その銭みなに成りにけり。

「三百貫の物を貧しき身にまうけて、かくはからひける、誠に有難き道心者なり」とぞ、人申しける。

この僧都、ある法師を見て、しろうるりといふ名をつけたりけり。

「とは、何物ぞ」と、人の問ひければ、「さる物を我も知らず。若しあらましかば、この僧の顔に似てん」とぞ言ひける。


(舞夢訳)

さて、この僧都は極めて貧しかったので、彼の師匠が亡くなる際に銭を二百貫と僧房一つを譲られた。

しかし、この僧都は譲られた僧房を銭百貫で売却し、計三百貫を芋頭購入の資金と決めて、それを都の知人に預け、そのうち十貫ずつ取り寄せて、芋頭を何不自由なく召し上がっているうちに、他の費用としては使うことなく、三百貫全額を使い果たしてしまった。

「三百貫などという大金を貧しい身で受け取って、芋頭だけで使い切ってしまうなど、実に稀で執着の無い人と思う」

と世間の人の評判となった。

また、この僧都は、とある法師を見て、「しろうるり」というあだ名をつけた。

「それは、どのようなものですか」と人に聞かれると、

「そんな物は私はしらない、仮にあるとしたら、この僧の顔と似ているだろう」

と言った。



「芋頭第一主義」なのだろうか、計三百貫を全て芋頭だけで使ってしまう。

当時の三百貫は、田地ですれば三町以上(300アール以上:3ヘクタール以上)が購入可能。

それを、そもそも安価な芋頭を買うだけに使うのだから、どれほど買うことができて食べることができたのか、しかも他人には与えないとなると、呆れる以外はない。

「しろうるり」は未詳、この僧都が、ほぼ即興で思いついた言葉のようで、あだ名をつけられた僧侶は、「のっぺりとした平たい」顔なのだろうか、そんな程度。


さて、他人が呆れていたとしても、その芋頭大好き僧都から

「自分の金を、何に使っても、問題はないだろう」

「貴方にに迷惑をかけているわけでなし」

「文句を言うほうが、おかしい」


と返されれば、「実にその通りでございます」と、返すしかない。


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