第五十七段 人の語り出でたる歌物語の
(原文)
人の語り出でたる歌物語の、歌のわろきこそ本意なけれ。
少しその道知らん人は、いみじと思ひては語らじ。
すべて、いとも知らぬ道の物語したる、かたはらいたく、聞きにくし。
(舞夢訳)
人が語り出した特定の和歌をめぐる話を聞くのに、その和歌そのものが感心できない場合は、聞いていて面白くない。
多少でも、歌について勉強している人ならば、そんな歌に感心して他人には語らないものである。
全てにおいて、中途半端な知識しかない話をされると、苦痛にして聞きたくなくなる。
たいして知らない和歌と、それにまつわる話を、知ったかぶりして話す人がいたのではないだろうか。
兼好氏にしてみれば、「くだらない、この素人が」とでも、思ったのだろう。
この話で思い出したのが、
自分は体験したことのないMLB野球と野球選手(日本人選手を含む)を、「たいしたことない、技術が低い」と批判する元大物野球選手。
野球以外のスポーツについても、そのスポーツを実際に取り組んでいる人からは、「的外れな発言」を繰り返しているようだ。
やはり、人は驕り高ぶる程度が増せば、他人を軽視する程度も増す。
謙虚に、知らないことを学ぼうとする意識も、薄れていく一方。
結果として、無価値な発言は暴論に変わり、自分以外の他者に呆れられ、笑われていることに、気がつかない。




