第五十三段 これも仁和寺の法師(1)
(原文)
これも仁和寺の法師、童の法師にならんとする名残とて、おのおのあそぶ事ありけるに、酔ひて興に入るあまり、かたわらなる足鼎を取りて、頭にかづきたれば、つまるやうにするを、鼻をおし平めて、顔をさし入れて舞ひでたるに、満座興に入る事かぎりなし。
(舞夢訳)
これも、仁和寺の法師の話である。
とある稚児が、いよいよ法師になるということになり、今までの稚児姿との名残を惜しむ会を開き、稚児に関係する人々が芸を披露して遊ぶことがあった。
その中で、一人の法師が、酔って興に入るあまり、近くにあった足つきのかなえを取って、頭にかぶったけれど、途中でつまってしまい入りづらい。
そこで、鼻をおさえて顔を入れて、舞いはじめると、満座の人々は興にいることが、限りない。
稚児が法師になれる年齢となり、剃髪するので、最後の稚児姿を楽しむ宴会を開く。
宴会では、法師たちも酒を飲み、それぞれの諸芸を披露して遊ぶ。
中には、酔い過ぎて、とんでもないことを始める法師もいるようだ。
「足鼎」は、足が三本ついている鼎。おそらく逆さまにかぶれば、足の部分が鬼の角になるとでも、思ったのかもしれない。
そもそも寺院で酒を飲む、稚児への倒錯した感情、規律正しくあるべき寺院のこれが実態だったのであろう。
しかも、格式高くあるべき、皇室ゆかりの仁和寺である。
誰も注意する人がいなかったのだろうか。
さて、鼎をかぶった法師には、とんでもないことが待ち受けているけれど、それは次回以降にします。




