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第四十四段 あやしの竹の編戸のうちより(2)

(原文)

御堂のかたに法師どもまゐりたり。

夜寒の風にさそはれくるそらだきものの匂ひも、身にしむ心地す。

寝殿より御堂の廊にかよふ女房の追風用意など、人目なき山里ともいはず、心づかひしたり。

心のままに茂れる秋の野らは、置きあまる露にうづもれて、虫の音かごとがましく、遣水の音のどやかなり。

都の空よりは雲の往来もはやき心地して、月の晴れ曇る事さだめがたし。


(舞夢訳)

御堂のまわりに、法師たちが集まって来た。

夜の冷たい風に乗って薫って来る香の匂いも、深い情趣がある。

寝殿から御堂の廊下に動いている女房たちの、芳香を漂わせている様子などは、このような人里離れた山里とはいえ、心遣いの深さを感じる。

特別に手入れなどせずに茂ってしまった秋の野のような庭に見えるけれど、たっぷりとおりた露に覆われ、虫が哀し気に鳴き、それを遣水の音がおだやかにさせている。

また、この周辺は、都の空よりも雲の流れを早く感じる、

月が見えたり隠れたりが、続いている。



兼好氏は、笛を吹く貴公子の後をついて山里まで歩き、なかなか情趣深い御仏事を見る。

漂ってくる芳香、たっぷりとおりた露、虫の鳴き声、おだやかな遣水の音。

山里だからというわけはなく、秋風が少し強めの夜なのだろう、月にかかる雲の動きも早くて、月が何度も見え隠れする。

ただ、兼好氏としては、ここが都ではなく、人里離れた山里との意識が強い。

思いがけない貴公子、山里とは思えないような情趣あふれる御仏事と雰囲気のあるお屋敷。

様々な違和感の中で、「おや?これは面白い」と、思ったのだろう。


ちょっとした散歩で、思いがけない興味あふれる発見をする。

これも、散歩の楽しみの一つである。

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