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第三十八段 名利に使はれて(3)

(原文)

智慧と心とこそ、世にすぐれたる誉も残さまほしきを、つらつら思へば、誉を愛するは人の聞をよろこぶなり。

ほむる人、そしる人、ともに世にとどまらず、伝へ聞かん人、又々すみやかに去るべし。

誰をか恥ぢ、誰にか知られん事を願はん。

誉は又毀りの本なり。

身の後の名、残りてさらに益なし。

是を願ふも、次に愚かなり。


(舞夢訳)

知恵と心においてこそ、世間で名誉を残したいところであるけれど、深く考えて見れば、そういう名誉を好むということは、世間からの評判を好むということになる。

問題は、ほめてくれる人も、批判してくる人も、いつまでも生きているわけではないということ。

様々な評判を伝え聞いた人であっても、同じように、まもなく世を去っていくことは避けられない。

それを考えれば、誰の評価に不安を覚え、誰に知ってもらおうと願うのだろうか。

そもそも、名誉というものは、批判の原因でもある。

死後の名声などは、後世に残っても、現世には無益である。

そんな死後の名声などを望むのも、地位を望むことに次いで、愚かなことだと思う。


「名誉欲」の愚かさを指摘する文である。

「高山に巨木無し」

高い山に立つ木は、風あたりが強くて、木が大きく育たないとの意味。

名声が高ければ、それを批判する人も必ず出て来る。

全ての人間の心から、嫉妬心を取り除くことなど、出来た例はないのだから。

また、誉める人も、批判する人も、伝え聞く人も、いつまでも生きているわけではないし、死後の評判など、現世では何の薬にも毒にもならない。


そもそも、他人の揺れ動く評価を、自分の心の満足の基準にしていれば、自分の心も、揺れ動く。

そうであれば、いつまでたっても、心の平安などはありえない。


兼好氏の周囲にも、そんな人がいたのだろう。


「あんた、アホか?気は確かか?」

「人の噂なんて下らんこと、気にせんと、生きなはれ」


案外、こんなことなのかもしれない。


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