第三十七段 朝夕へだてなく馴れたる人の
(原文)
朝夕隔てなく馴れたる人の、ともある時、我に心おき、ひきつくろへるさまに見ゆるこそ、「今更かくやは」など言ふ人もありぬべけれど、なほげにげにしく、よき人かなとぞおぼゆる。
うとき人の、うちとけたる事など言ひたる、又よしと思ひつきぬべし。
(舞夢訳)
普段、常に隔てなく親密にしている人が、しかるべき時に対して一歩引き、改まった態度を取る時などに、
「何を今さら、そんな態度を取らなくても」
と言う人もあるけれど、それはそれで、誠実にしてわきまえを持った人と思う。
その逆に、普段は親しく接したこともない人が、うちとけるような事を言った時も、これはうれしいと思うに違いない。
この場合の「人」を女性と捉える解釈もあるけれど、そうは思わない。
「親しき中にも礼儀あり」のことだと思う。
どんな親しい関係であっても、時と場合により、けじめは必要だと思う。
また、この人とは合わないなあと疎遠にしていた人と、ちょっとした言葉のやり取りで、突然仲良しになることがある。
それはそれで、少し世界が広がったような気持ちにもなるし、確かにうれしいことなのだと思う。
やはり人間と人間の付き合いの基本は、「一期一会」。
そんなことを思い出させてくれる一段と思う。




