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第二十四段 斎王の、野宮におはします

(原文)

斎王の野宮におはしますありさまこそ、やさしく面白き事のかぎりとは覚えしか。「経」「仏」など忌みて、「なかご」「染紙」など言ふなるもをかし。

すべて神の社こそ、捨てがたく、なまめかしきものなれや。

ものふりたる森の気色もただならぬに、玉垣しわたして、榊にゆふかけたるなど、いみじからぬかは。

ことにをかしきは、伊勢・賀茂・春日・平野・住吉・三輪・貴布祢・吉田・大原野・松尾・梅宮。


(舞夢訳)

斎王が野宮におられる時の御様子ほど、優美で情趣深いものはないと、思っている。

「お経」や「御仏」などとの言い方を忌み、「なかご」とか「染紙」とおっしゃられるそうで、それも雰囲気がある。

そもそもにして、全ての神の社は、見逃すことができないような優雅さを感じる。

古色蒼然とした森の様子からは、ただならないものを感じさせられるうえに、神殿の周囲を玉垣で囲み、榊に木綿を掛けてある様子など、誠に尊いものである。

その中でも、特に雰囲気を感じさせる神社としては、伊勢・賀茂・春日・平野・住吉・三輪・貴布祢・吉田・大原野・松尾・梅宮となる。


※斎王:未婚の内親王、女王で、天皇の御代が変わる時に任じられて、伊勢神宮に奉仕する。「源氏物語」の「賢木」にも記載あり。

※野宮:斎王が伊勢神宮に赴任する前に、斎戒を目的に、一定期間籠った仮宮。嵯峨野にあり、その遺跡が現在に残る。

※経、仏などを忌みて~:神域に入るため、仏教的な用語仕様を避ける。

 「なかご」:仏が堂の中央に安置するものであることにちなむとの説がある。

 「染紙」:経の料紙が黄、黒、紺に彩色されていることにちなむとの説がある。



兼好氏は、吉田神社に関係する卜部氏の庶流出身。

おそらく、神域の雰囲気には、幼き頃から馴染みがあったのだと、思われる。

全般的には、淡々とした文章であるし、強い主観が入っていない。

その理由としては、「神は感じるもの」ということ。

特段に細かな表現を使ったとしても、「人」が表現しきれるものではないと、兼好氏自身が考えていたのではないだろうか。


鬱蒼とした森の中、神域を進んで行くと、誰しも感じる感覚。

ただ、怖ろしく、神に見られている感覚、姿勢も襟も糺すような感覚であって、確かに、なかなか言葉では表現しづらいものである。


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