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第二十段 なにがしとかやいひし
(原文)
なにがしとかや言ひし世捨人の、「この世のほだし持たらぬ身に、ただ空の名残のみぞ惜しき」と言ひしこそ、誠にさも覚えぬべけれ。
(舞夢訳)
何と言う名前の世捨て人であったのだろうか。
「この世には、何一つとして執着などない身分であるけれど、ただ空の風景だけは、失いたくない」
と語ったそうだ。
実に、その通りと思う。
空の名残、つまり眺める空、風景になる。
物質的な執着、利権や名誉などの執着は興味ないけれど、空だけは眺めていたいらしい。
心にも身体にも余裕が無い時は、空の景色など、かまってはいられない。
世捨て人に限らず、空を眺めていられる時は、心にも身体にも、余裕がある。
できるだけ、そんな時を増やしたいものだと思う。




