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第十九段 をりふしの移る変わるこそ(3)

(原文)

「灌仏会のころ、祭のころ、若葉の、梢涼しげに茂りゆくほどこそ、世のあはれも、人の恋しさもまされ」と人のおほせられしこそ、げにさるものなれ。

五月、あやめふくころ、早苗とるころ、水鶏のたたくなど、心ぼそからぬかは。

六月のころ、あやしき家に夕顔の白く見えて、蚊遣火ふすぶるもあはれなり。

六月祓又をかし。


(舞夢訳)

「灌仏会や賀茂の祭りの頃になると、若葉が梢に涼しげな雰囲気を見せて繁っていく、そういう頃は世の中の情趣も深まるし、人恋しさも、より増すような気がする」と、誰かが言われていたけれど、まさにその通りだと思う。

五月になって、あやめを軒に挿すころや、早苗を取るころに、くいなが鳴く時の風情に、心細さを感じない人があるのだろうか。

六月になると、しがない民家に夕顔が、ほの白く見える。

そのまわりを、蚊やり火の煙がたなびいているのも、なかなかの風情。

六月祓も、また面白い。



※灌仏会:4月8日の釈迦誕生日を祝う行事。

※祭り:賀茂祭。

※六月祓:6月の晦日の夜に、水辺で祓の行事をする。邪気を払う重要な行事で、宮中、諸社、貴族屋敷で実施。「夏越に祓」とも言う。茅の輪くぐりや、人形流しなどを行った。


新芽の季節になる。

灌仏会や賀茂祭の時期になると、花を愛でられないからこそ、人恋しくなるのだろうか。

初夏特有の、感傷的な気分という人もいる。

日中の暑さと、初夏の夜風の冷たさ。

これはこれで、なかなかの風情と思う。

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