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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

とあぷぐで異世界に!?

作者: むに


 ども、TRPGは好きだけど基本見る専の人です。

 書いてしまったので暇な方は見てくださるとありがたいです。



 俺の名は、忠野(タダノ)太郎(タロウ)。名前の通り、普通の太郎だ。

 


 俺は今、一枚の紙と向き合っていた。それは、ドラゴン&ヒーロー、通称D&HというTRPGのキャラシート……まぁ、キャラ設定をするためのものだ。

 いきなり友人にD&Hしようぜと誘われたので急いでイラストを描いて、キャラシを作った。

 別に新規キャラじゃなくてもいいと言われたが折角だからな。



 名前は、アビス・トゥーベルグ。性別は女性で腰にまで伸びた銀髪と紅眼が可愛らしい見た目少女の100歳だ。

 そして種族は、ヴァンパイアという攻撃力の高い種族特性を持つやつ。

 メインクラスは、ビジョップでサブクラスは、ウォーリアという。


 吸血鬼という存在なのに聖職者というなんとも浪漫を感じさせて実に俺好みなキャラだ。

 スキルは、強いのを選んで……持ち物は、聖書と聖職者の服とブロンズソード……後は、冒険者セットだな。


 事前に書いておいたイラストをリュックの中に入れて、よし!行くか!



 俺は、ルルブやダイスやらTRPGに必要なものとついでに泊まるためのものを入れたリュックを背負って玄関の扉を開けた。





「は?」



 俺は、目の前の景色を見て思わず声を漏らす。何処までも続く草の生い茂った草原に風が優しく草を揺らす。

 玄関の扉を開けたら、コンクリートジャングルではなく、草原にいた……何を言っているのか分からないと思うが俺も分からん。


「一体何が……って、なんか俺の声高くなってないか?」


 というか、俺こんなに肌白くないし実にモチモチすべすべとしたまるで女の子のような……は…だ……ふぇ?

 女の子……いやいや、まさかな! いくらこんなラノベのような展開だからってまさか性転換するなんてことは……ない……いやまぁもう気がついてんだけどな。

 息子の感覚が全くないし、胸を触ったら微妙な膨らみがある上にそもそも服装が俺の着ていたパーカーではなくなっている。

 さらにだ。俺の持っていたお泊まりセットや、TRPGセットが入っているリュックが消えて代わりにポーチが腰に付いていた。


「むむむ、こりぁ異世界に転移したとしか考えられないんだよなぁ……ステータスとか唱えたらよく分からんキャラデータ的なのが出たりするんだけど……出ないな」


 これが夢ならばよかったのだろうが残念なことに俺の肌に触れている服の感触や風がここは現実だと主張してくる。

 くっそー、取り敢えずステータス的なの出てこい…………ステータスオープン!メニューオープン!情報開示!キャラシを見させろ!


 適当に思いつくことを言っていると頭の中にこんな情報がでてきた。



【名前】アビス・トゥーベルグ

【性別】女性(100歳)

【種族】ヴァンパイア

【練度】1

【メインクラス】ビジョップ

【サブクラス】ウォーリア


戦闘能力

【HP】100%

【MP】100%

【SP】100%

【物攻】5 【物防】2

【魔攻】2 【魔防】5

【俊敏】3 【器用】3


職業特性

神聖マスタリー1『聖属性補正+5%』

純粋マスタリー1『無属性補正+5%』

剣撃マスタリー1『カテゴリ・剣補正+3%』

戦闘の心得2『戦闘経験値補正+15%』


種族特性

月夜の祝福『夜の間ステータスアップ+10%』

吸血衝動『食事で得られるメリット半減、吸血でのメリット上昇』

日光の克服(デイウォーカー)『太陽の元で生活してもステータス低下無し、聖属性の弱点無効化』

闇を見通す瞳『暗闇状態の時に命中判定が低下しない。』


スキル

剣術1『剣を扱うことができる。剣撃補正+1%』

軽業1『身軽に動くことができる。回避補正+5%』

治癒魔法1『聖属性の回復魔法を扱うことができる。聖属性補正+1%』

障壁魔法1『無属性の防御魔法を扱うことができる。無属性補正+1%』

祝福魔法1『無属性の補助魔法を扱うことができる。無属性補正+1%』



 これは……さっき書いたD&Hのキャラシの情報と同じじゃねぇか。

 取り敢えず説明しよう。

HPやMPは省いて分かりにくいであろう【SP】だな。こいつはスタミナポイントと言って一定時間で減少していき50%を切ると動きが遅くなったり、HPやMPの回復速度が低下したりするが食べたり休憩したりすれば回復する。

 お次は【俊敏】だ。これは回避判定や移動判定に使用する。

 【器用】、生産判定や命中判定に使用される中々に重要なステータスだ。


 初期ポイントは、50Pで10はステータスに振られてヒューマンのみ好きに振ることができる。

 このポイントは、スキルやらにも振らねばならないために色々と考えが必要だ。

 ちなみに戦闘や生産で経験点が貰える。それをレベルアップに使うか、スキルアップ、またはクラスアップに使うかは全てその人次第だ。




「さてと、一体どうすりぁいいのかねぇ」



 その後もいろいろ確認してみたが服装は、聖職者のような格好をしていて腰にはブロンズソードとポーチ。ポーチの中は異次元空間的なのになっていてそこには水やら保存食、テントやらロープなど冒険者に必要そうなものが入っていた。


 どうやら俺は、TRPGのキャラクターで異世界、またはそれに類似する何かに来てしまったらしい……のだが驚くべきことに動揺が少ない。

 これもこの世界に来てしまった影響なのだろうか、まぁせっかくだ。楽しんでいこうじゃないか、もしかしたら俺と同じ境遇のやつと会えるかもだしな。



 ところで俺は、どっちに向かえばいいんだろうな。何処を向いても草原だし……ま、太陽に向かって歩けば何か見つかるだろ、幸い水と食料はあるからな。







 あれから数日が経ったのだが……草原ばっかで人の気配なんて全くない。ただ嬉しいことに『草原狼』というやつと遭遇して食料を補充できた……まさか自分があんなに軽やかに動けるとはな……それに解体判定も成功できたからさらに食料が増えた。

 その上、この体は休憩してるだけでSPが回復するのであまり食料消費が少ない……まぁ食べてないと栄養不足でSPも回復しなくなるんだけど


 にしてもTRPGのように判定して行動できるのは有り難くもあり、怖くもあるんだよな。ダイスというのは運と言って良い、もしかしたら致命的な失敗(ファンブル)を引き起こしてしまう可能性もなくはない。

 


「……そろそろこの忌まわしい草原から抜け出したいところなんだが」


 人影が全くなく、代わり映えしない景色に嫌気が差して暇だったので一人でロールプレイをしていると何か聞こえた。


 これは……悲鳴か?

 ちょうど進行方向だな。ロールプレイをしなきゃな。俺っ娘もいいとは思うが俺の求めるキャラクター像ではないからな。

 移動判定を振ろうじゃあないか。さぁてストレッチはもう既にしている。緊急クエスト【声の主を救え】開始だ!



 見事なスタートダッシュを決めた俺は、普通とは考えられない速度で景色が遠ざかっていくのを横目に走り続ける。

 戦闘して手に入れた経験点を戦闘の心得に注ぎ込んで4となっていた。今では戦闘経験点が25%増えることになっている。つまり経験点2.5、手に入るのだ。

 そのおかげで剣術が4、軽業が3となっているがレベルは上げていない。単純に経験点が足りないからだ。レベルアップには現在レベル×100が必要なのでレベルアップは難しい。


 考えているうちに現場へ到着したようだ。そこには踏み固められた地面に倒れている馬車、そして同じく血を流して倒れている冒険者や業者と思わしき者達。

 こんな惨状を引き起こしたのは緑の肌にとんがった耳と突き出した鼻。そうファンタジーには常連のゴブリン、しかも5体だ。

 ゴブリンは、レベルが2となって適正なのだ。冒険者の装備を見るにまだまだ初心者だろう。

 ゴブリンには狡猾な知恵を持つとあるので弱そうなこの馬車を狙ったということか。


 ん? あの馬車、ここからじゃ見えにくいが檻みたいになってないか?

 ……これ、もしかしたら奴隷商人かもな。ま、とりあえずゴブリンを倒してから考えることにしよう。



 再び俺は駆け出すと俺の接近に気がついたゴブリンAが手に持つ古びた剣を横に振って斬ろうとするがスライディングして回避し、隙だらけの横っ腹にブロンズソードを食らわしてやると痛みでよろめいて古びた剣を落としてしまう。

 さらに追撃だ。ふらふらしているゴブリンを足払いして体制を崩すと腰を上手く捻って回転力を加え、刃をしっかりと立てるとゴブリンの首を狙って剣を振るう。

 斬撃は見事に首へと命中し、頭と胴体を切り離すことに成功した。


 ここまで上手く動けたがゴブリンBCDEがまだいるのだ。

 バックステップで距離をとり、背中にあるバックホルダーから聖書を取り出して詠唱する。

 ゴブリンは、慎重なのか俺を包囲している。それぞれ古びた剣を持ち攻撃してくるので正面のBが繰り出す攻撃を剣で絡めとると足で腹を蹴って包囲から抜け出す。


 なんでこんなに動けるのかは分からないが今は好都合だ。

 詠唱が完了し、俺のMPを消費して魔法が発動する。


〈アタックブースト〉


 攻撃力を上げる魔法を使うと一気にMPが25%減少するが気にしない。

 ゴブリンは、いつのまにか背後に回っていたらしく。その鈍い剣で攻撃しようとしてくる。前に逃げようにも同じく攻撃しようと剣を振るってくる。

 取り敢えず正面突破だ。ダメージ覚悟で倒す!


 俺が剣を振おうとすると命中するかを決めるためのダイスの音が聞こえる。成功値は、7以上。脳内に浮かぶ数字は“20”……くははは! まさかここで決定的成功(クリティカル)が出るとは……ダメージは、2倍となり、さらにアタックブーストの効果が加算され、12点ダメージだ。


 ゴブリンのHPは、8点でオーバーキルとなる。



 剣を振るう。しかしてその一撃は、会心的な一撃。疾き一撃に回避は叶わず。吸い込まれるように首を切り離し、ゴブリンをまた一体討伐する。


 その代わりと言ってはなんだが背後にいたゴブリンの一撃を食らってしまう。ダメージは、34%。かなり痛いダメージだ。



 だがそんなのは関係ない。



 まず、背後にいるゴブリンBに攻撃を仕掛けるが避けられる。

 

 また攻撃する、判定成功。命中だ。

二撃目は、弱ったゴブリンを倒すに十分な一撃だった。



 最後に残ったゴブリンは、まるで仲間を失った悲しみに打ち震えるようにしつつもその瞳は、復讐してやると語っていた。


 戦闘で高揚しているのか、俺の口から勝手に言葉が漏れ出す。



「ふん、最初で力量を見定めていればお主らに被害はあまりなかったというのにのぉ。そんな目をしても仲間は帰ってこぬぞ。」



 ゴブリンは、俺の言葉が分かったのか分かっていないのか、それは定かではないがとにかく挑発されたとは分かったらしい。



 ゴブリンの怒りが含まれた一撃を、剣で防ぐ。

 その一撃は重く重く、このゴブリンがどれほど仲間想いなのかを知るには十分だった。



 ──だが



「それは我に関係のないことだ。」



 一閃。


 またまたクリティカルでも出たかのように首へと吸い込まれていき、ゴブリンは絶命した。


 この世界に来て何回か繰り返した命のやり取り、その最後の一撃は、どれも切なかった。

 なんともやり切れないがそれと同時に高揚感とも呼ぶべきものが溢れてくる。


 




 残心をし、血糊をしっかりと拭き取ってから鞘にしまう。

 生存者が居ないものかと聖書片手に倒れた馬車の周りを散策してみるが冒険者や商人らしき人物も既に事切れてしまっていた。

 救えなかったか。そう思った瞬間、耳に呼吸音のようなものが飛び込んでくる。

 俺は目を見開いて生存者を探そうとして、そう言えば忘れていた場所があったことを思い出す。

 それは布が被せられて見えなくなっていた檻なのだが血に染まっていて死んでるものかと思ったのだ。


 横転した檻の布を取るとそこには金髪の少女が今にも死にそうな顔で倒れていた。

 俺は、急いで檻を開けて彼女に治癒魔法〈ロー・ヒール〉を使うと呼吸が安定した。もう一度使うと完全に回復したようで見る限り怪我はなかった。



 落ち着いたところで少女を観察してみることにした。

 ……いや、さすがに寝ている少女に対して劣情を催すなんてことはない。そして俺はロリコンではない。


 麻の袋に首と手を入れる部分を切っただけの服とも呼べぬ布切れを来ており、体は薄汚れてしまっている。

 顔はとんでもないほどの美少女なのだが体に骨が浮き出るほどに痩せており、きっと栄養不足で筋力が弱くなっていて怪我を負ってしまったのだろう。


 それを見て可哀想だと思ったのか、それとも人を助けられたなかったという後悔なのか、涙が溢れ出してくる。

 冷徹だと思っていたこの精神は、案外脆かったらしい。





 商人や冒険者が持っていたものを拝借させて貰い、食糧はさらに補充された。

 冒険者セットの中に入っていた魔物避けを撒いて安全を確保したら、馬車を解体して出てきた木材で焚き火を作る。


 草原には木なんて生えてなかったからずっと粉っぽい保存食だったんだよなぁ。いやぁ馬車に鍋もあったし有難いことだ。

 水で洗った木の棒に狼肉を刺すと火で炙っていく。


 それにしても俺、この世界に来てから血とかグロテスクなものを見てもあんま動揺しなくなったんだよな。冷めたというか、そういうものだと認識してんのか、それとも吸血鬼になった影響か。

 ま、地面に落ちた血を見て勿体ないとは、思ってしまったから、確実にそれが原因だろう。



 火を眺めていると、もぞもぞと毛布が動く、目の前にかかる金色の髪を邪魔そうに背中に回すとパチパチと辺りを把握しようと瞬きをしている。

 その瞳は、俺を捉えた瞬間。凝視してくる。


 辺りに静寂が響き、音と言えば火がパチパチも弾ける音と俺と彼女の呼吸音くらいだろう。


「……?」


「む、気がついたか。お主はゴブリンに襲われて横転した馬車の中で倒れてあったのだ。記憶にあるか?」


「……ん」


 どうやら記憶にあるらしい。ちなみに俺がこんな喋り方をしているのはロールプレイの一環である。

 少女の視線は、火で焼いている肉に向けられる。本人は気が付いていないようだが涎が垂れてきている。


「ふむ、そろそろいいじゃろ。」


 串焼きを2本取って一本を少女にやると視線でいいのかと問いかけてくるため、頷いてやるととても良い食べっぷりで喉に詰まってしまうか心配になる。


「これこれ、そんなに勢いよく食べても肉は逃げぬぞ。もっと落ち着いて……」


「………ッ!!」


「言わんこっちゃない」


 ポーチから水袋をやる。いつもより賑やかな夕飯に頬が釣り上がるのを自覚しつつ肉に齧り付いた。






 ポーチからテントを取り出すと少女は驚いたが何も言わずに外で寝ようとするので中に引き摺り込んで寝た。

 狭いテントの中で水で濡らした布で拭いたおかげか、女の子特有の良い匂いがした。




 その後、少女について来るかと問いかけると頷いたために道沿いに進むことにした。

 道中にわかったことだがこの少女、名前をニーナと言い奴隷として売られる最中だったという。

 元々あの馬車には沢山の奴隷がいたのだが途中の街で売れていったのだとか。

 そして俺について来る理由は、行く宛がないこともそうだがニーナには奴隷紋章という主人に強制的に従わせるものがついており、主人が居ないと奴隷は死んでしまうそうだ。


 ということで俺の旅に仲間が増えた。口数は少ないがそれでも孤独よりは良いからな。

 そして俺達は、ニーナが向かうはずだったクレセリアの街に向かうことにした。


「さて、目指すはクレセリアだ!」


「……ん」



 こうして俺と彼女の物語(シナリオ)が動き出した。

 果たしてこの先にどんな未来が待ち受けているのか、そしてこの旅の行方は、例え(KP)ですら知らない。





【アビス・トゥーベルグ】

 元男。TRPG好きでさまざまなジャンルを遊んでいる。

 気が付いたらキャラシに書いたキャラクターとなってしまっていたが高速で順応した。

 TRPG『ドラゴン&ヒーロー』でできることができるようになっている。

 細かいことは気にしないタイプ。


【ニーナ】

 奴隷。元々は、とある村の口減らしとして売られていった。

 奴隷紋章というものが刻まれており、主人となるものに逆らうことができない。

 なお、アビスには感謝の意と奴隷としての常識を込めてついていくことになった。

 口数が少ない金髪の美少女。



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