Page4:部室にて。
〈徒導部〉創立二日目。
時は、本日最後の授業。
七時限目。
「――〈言葉〉という物は、それ自体に意味を持ち、個性を持ち、性格を持つ。
特に漢字はそれが著しい。一文字で、その様相を呈し、意思を露見させる事が可能で世界に存在する言語の中でもやはり永力との相性がよろしい。諸君も、〈過区〉では言葉遣いに、くれぐれも気をつけるように」
そこでキリ良く、鐘が鳴る。
「うむ、では、終わろう」
国語の教師が、授業終了の宣言をした。
それに呼応して、涼介が終礼をかける。
『ありがとーございましたー』
「ふぅ、終わったね、今日も」
静流が伸びをしながらつぶやいた。
「なんか最近キツイよな。早く帰ろうぜ?」
何かをすっかりと忘れている涼介の肩に、がしりと手が食い込む。
「っ、うおォ!?あ、亜梨羽?」
「逃がさない。部活あるから」
「あ、そうか…だから疲れ取れないのか。
…悪い亜梨羽、今日俺用事ぐわぁ!?」
亜梨羽の手が肩に強く食い込み、涼介が哀れな悲鳴を上げる。
「だぁぁ分かった分かった分かりましたよッ!
行きますよ!行けば良いんだろッ!?」
涼介はなかば自棄気味に叫んだ―――
――部室。
「で、何するんだよ」
涼介は、不機嫌面で質問する。
「分からない」
「うぉい!?」
「まぁもっぱらの所は、『自分を見つめなおすこと』だろうね」
涼介と要のやりとりに介入したのは静流だった。
「先生も言ってたでしょ?己の〈型〉を見つけなさい、って」
静流は、図書室から借りてきたらしい古い書籍を片手に携えている。
「カタ、と言われてもねぇ」
その横で、静かに座っていた琉稀が机に突っ伏しぼやく。
「ホントだよ、関連する知識を持たない問題をヒントもなしにどうやって解けってんだ」
涼介は、静流を見やる。
そして、手を宙に掲げた。
手の周囲の空間が膨張し、次にゆっくりと収縮する。
涼介の掌の周りには、幾つもの光の粒子が生まれ、その掌に収まってゆく。
「こうやって、永力を具現化して固定化することは出来る。
けどよ、こっからどうしろってんだよ?」
涼介が、掌から意識を放すと、淡く輝いていた粒子は、すぐに霧散してしまった。
「漫画みたいに、何か危険にさらされたら良いのかしら」
要はそう言いながら立ち上がり、涼介に近付いていく。
「な、何する――」
気だよ、とつぶやく前に、涼介は吹き飛んでいた。
「ってぇなオイッ!?」
要の永力を使用した見事なまでの一撃が決まったのだ。
「ダメか」
「ダメか、じゃねぇよ!反撃する暇も無かったぞ今!?」
「まぁまぁ」
涼介が完璧なイジられ役になっているのを見て、苦笑しながらも静流は言う。
「アリハさんの言うことはあながち間違ってはいないかもしれないじゃないか。
過区(あちら側)では、〈型〉を引き出すために、永力により生まれた異態進化生物と子供を戦わせたという記録も残ってるみたいだし」
「「「………」」」
なんとも恐ろしい発言を抜け抜けと。
三人は、静流を冷ややかな目で見つめる。
「あれ、僕なんか変な事言った?」
「…空気読めよなお前」
涼介は溜息をつくと、鞄を手にした。
「今日はコレくらいにして、また明日にしようぜ?」
その発言により、本日の活動は終わりを告げた。
そして、それぞれの帰路。
初めて、危機に晒される事となる―――――