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Page3:起動

いかにも怪しい部活動発足(笑)

「アリハ委員長になったの〜!?」

会うや否や、琉稀の第一声はこれだった。

「意外だー」

「…うまく巻かれたの」

那安め…と悪態を吐くと、琉稀はきょとんとした顔をした。

「那安って?」

「担任だよ」

呆れながら答えると、心底驚いたような顔をされた。

「アリハが人の名前覚えてるよ〜!」

「普通でしょ」

少しムッとして答えると、じゃァあ、と琉稀は前の生徒を指差した。

「お名前は?」

「………」

「珍しいなぁ〜」

槍でも降ったらどうしよう、と失礼極まりない発言を抜かす琉稀に、

悔しくも何も言えない私だった。

にしても那安遅いな、と思ってると戸が開いた。

「阿梨羽、朝月、光武、白乃(しらの

那安がちょい、と手招きする。

最近、何かしら奴に絡まれてる気がするのは何故だ。

あ、研誘委員長だからか。

え、何かした!?と不安の表情をしながらも立ち上がった琉稀に、

引っ張られながら、ざわめくクラスメイトたちを背に教室を出る。

気乗りしない。

それもかなり。

「先生、授業前なんスけど」

不服そうな朝月を、まぁまぁと那安は鎮めて歩き出す。

俺について来い、ってか。

「え、先生?」

「行ったらわかるでしょ。授業サボれるし」

状況を理解していない琉稀に、静流は笑顔でのたまう。

「そらお前はすぐ追いつけるだろーけど」

俺は無理なんだよ、と渋る朝月の横を無言で通り過ぎる。

「ア、アリハ?」

「琉稀、行こう。話進まない」

「ほら、アリハさんの方がしっかりしてる」

くすくすと笑い声と足音がする。

ゆっくりと優雅な音だ。

「え、ちょっと。何、委員会って?私も?」

それに慌てたような駆け足が加わる。

「…あれをしっかりって言うか?」

ふてくされたような、足音も混ざった。


「……先生」

しばらく固まっていたのだが、ようやく口が開けた。

「すげーだろ」

少し得意げな声が妙に勘に触る。


『 生 徒 誘 導 部 』


「な、何ですか、コレ」

琉稀の声からは不満などが一切感じられず、

ただ純粋な疑問を口にしたという感じだった。

「おー?」

ニヤリと笑って、那安は言い放った。

「お前らの、部室だ」

「…朝月」

静かに呼ぶと、あ?とこちらもかなり機嫌の悪そうな声が返ってきた。

「一発、そいつ殴って」

えぇ!?と焦った声が響き、

朝月は静かな挙動で拳を構える。

「こらこら、業務執行妨害になるから」

「意味分かって言ってんのか、お前ッ!?」

本気で殴りかかろうとした朝月を鎮める静流に、

朝月はまともに噛みついた。

「これはどうみたって授業前に呼び出して言うほどのものじゃねーだろ!?」

「何だ朝月。普通の教室じゃ不満か?流石に校長室は無理だぞ」

「朝月。委員長命令」

「アリハ〜!?」


こうして、我ら研誘委員は、何か名前がしっくりこないという、

那安の独断と偏見により委員会から部活というランク落ちを見事成し遂げ、

後先不安な物を沢山抱えたまま、突っ走り始めたのだった――――


…はぁ。

  

                 *


顧問は勿論俺な、と言いのけると、

那安はくくくと不敵に笑いながら去っていった。

「…どうしろって言うのよ」

呆然と立ち尽くす四人。

「とりあえず授業でしょ」

苦笑いする静流の一言で、全員は慌てて今来た道を戻り始めた――


――放課後。

の、前のHRで那安に「徒導部はしっかりと部活をするように」と言われ、

涼介、静流、要、琉稀の四人は嫌々ながらも、部室に納まっていた。

部室は、普段は倉庫として使われている小教室を急いで整えた、という風情である。

校舎の最上階に位置しているため、見晴らしは良い。

来区(こちら側)と過区(あちら側)を隔てる〈綻川(ほころびがわ)〉、夕光を反射し、綺麗な蜂蜜色に輝くその水面を遥か遠くに望み、川向こうでは古の胎動が伺える。

「つあ〜、何だよまったくよ…」

窓枠に顎を乗せてだらけながら、涼介がぼやく。

「同感ね」

一応の部長の座に納まる要が、顔を伏せたまま答えた。

「でもさ、なんか楽しそうじゃない?」

「「どこが?」」

楽観的な琉稀の発言に、涼介と要はすかさず反応する。

「え、いや、その…」

「まぁまぁ二人共落ち着きなって。

良いじゃないかこうやって落ち着ける空間を貰えたんだからさ。

勉強の場でも遊びの場でも、使い放題じゃないか」

「その為に合宿で命かけるかフツー?」

「朝月、正論」

琉稀はこのやりとりを存外楽しそうに見つめている。

「嫌がってただけじゃ始まらないよアリハ、朝月君?」

「白乃さんの言う通り。

僕たちは学年全生徒の命を預かってるんだから。

合宿までに何かしら対策を講じないと」

静流は我が意を得たりとばかりに畳み掛ける。

「過区がどんなところかの調査に、いざと言うときの…」

部室の空気が、異様に張り詰める。


「永力行使訓練」


「「「!!!」」」

――生徒が過区の者に襲われる可能性。

確かに、現状ではありえなくも無い事態である。

それを率先して阻止するために設立されたのが、この〈生徒誘導部〉。

命を賭し、生徒の安全を護り、全体を統率・誘導し、合宿を無事終了させる義務を持つ。

「己の立ち位置をしっかりとわきまえることだ」

「おわっ、先生!?」

「…なんでいるの」

いつの間にか現れていた、那安に皆は驚く。

「永力は、その使い方次第では、現代兵器を凌駕するまでの攻撃手段となりうる。

そう、こういう風に気配を殺すことも容易い。

それを、お前らは理解するべきだな」

那安はその口を、三日月形に歪める。

「俺はな、お偉いさん方と違ってこの合宿が無事に済むとは思っちゃいない。

だから、お前らを選んだんだ。委員会でも良かったんだが、あの規模じゃ俺が統率は出来そうになかったからな。少数精鋭で挑む。俺を失望させないでくれよ…?」

那安の、真剣な眼差しに、誰もが口を開くことが出来ない。

「俺に〈紅蓮焔(ホムラ)〉という永力の型があるようにお前らもそれぞれ魂の奥底に秘めているはずだ。何も外界の物資を変質させるだけがターナルじゃない。心の力も現実化させることが可能な訳だ。それを、過区の奴等は熟知してる。それに対し、永力研究に手を抜いていた来区は劣勢を強いられている。この学校が、永力専門授業を導入した来区では始めての教育機関だろうよ」

椅子に仰け反り、那安は喋る。

その手には、煙草がいつの間にか点火させられ握られていた。

「いいかお前ら。これから忙しくなるぞ…?」

四人は、否応無しに覚悟を決めざるを得なかった――――

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