Page2:あ〜あ。
第二話です。メインキャラ二人が巡りあう場面!
「失礼します」
職員室の前で自分が来たことを七文字で証明すると、
担任がゆっくりと顔を上げた。
「何ですか?」
やっと来たか、とかブツブツ言ってる声を遮って聞くと、
「お前、答え知ってただろ?」
と、したり顔で切り返された。
「…本当に分かりませんでした」
言いつつ、時計にわざと目を走らせる。
「…先生、用がないなら」
そう言うと、大きな溜め息を吐き出された。
「勘だけは良いな、ホント」
私はクルリと背を向けた。
と、肩に手が置かれる。
「まァ、待て」
「…何の用ですか」
ものすごく嫌な予感がするのは、気のせいではないらしい。
それを仄めかすような発言を、担任はした。
「一つ、な」
「結構です」
苦笑いを浮かべて言う担任に、即答で断る。
「まだ何も言ってねーだろーが」
「本能が知らせてるんです。それでは」
厄介事だ、絶対。
「…まァそう言うと思ってな」
肩から手を外すと、担任は懐から一枚の書類を出した。
「ほらよ」
『〈研修誘導委員長〉推薦書
生徒氏名:阿梨羽 要
推薦者:那安 新』
「先に手を打っといた」
「…何ですか、コレ」
唖然とその紙切れを見ていると、奴は例のごとくニヤリと笑った。
「見たまんまだ。お前を来週からの研修会の委員長に推薦する」
「意味分かりません」
「だろ?」
意外な返事で、眉を潜めるとこちらも納得いかない様子で担任改め、那安は続け
た。
「俺は〈委員長補佐〉あたりがいいと思ったんだがな」
そうじゃない。そういうことじゃないんだバカ。
「けど『あの子の成績で補佐なんて有り得ないざァます!』とか何とか言って、
ある教師が委員長にしろと猛反発してな。うるせェで大変だったのなんのって」
…平塚だ。ざァますは平塚だ。
「つーわけで、今日からお前は研誘委員長だ」
「嫌ですよ、面倒臭い」
「もう遅い。決定したかんな。頑張れよ」
二、三度肩を叩かれ、奴から職員室を追い出される。
これほどアイツを恨んだことはない。
「そうそう阿梨羽」
がらりとドアが再び開いて、那安が顔だけ覗かせた。口には例の笑み。
「今日中に、朝月と光武に連絡入れといてくれ」
何で、と聞く前にピシャリとドアは閉まった。
一回死んだらいいのに、なんて思ってないですよホント。
*
放課後の教室。
午後六時。
流石にこの時間帯になって、教室にいる生徒はいない。
大半は既に下校、または所属する部活動に精を出している。
――しかし。
教室にはまだ明かりがついていた。
涼介と静流である。
「だからね、この苦鉄質の苦はMg、マグネシウムの苦なんだよ。で、鉄はもちろん」
「Feか」
「そ。で中間質が来るでしょ?次は珪長質。この珪の字は珪素の鉱物すなわち石英を表してるんだよ」
「はぁ。じゃあ長はあれか、カリ長石や斜長石の長か。…難しいぞ、永力応用地学問題」
「仕方無いさ、僕も実技では鉱物はうまく操れないし。理論でも覚えとかないと」
この街独特の授業。
いや、このクラスの、と言うべきか。
――全ての授業が最終的には永力使役法に辿りつく。
このクラスの全ては、ターナルを中心に回っているのだ。
「国語の応用なら簡単なんだけどな」
言葉の性質を理解し、己の内と外界の永力を呼応させる。
ただそれだけの話。
いちいち、数学のように公式を使うこともない。
実に簡単だ。
「それは涼介だけの話でしょ?言語を使役・応用させるのは一番難しいのに」
羨ましいよ、と静流が苦笑する。
と、そのとき。
ガラリ、と教室の扉が開かれた。
「あ…」
扉から顔を覗かせたのは、亜梨羽だった。
涼介が、気にかかっている生徒でもある。別にそういう意味のではないが。
その亜梨羽はというと、こちらに心底嫌そうな表情で近寄ってきた。
「…委員長朝月、副委員長光武。話が」
一つの机を二人で使っていた涼介と静流を見下ろしながら、亜梨羽は言う。
「私はとても嫌なんだけど、今日から研誘の委員長になってしまった」
「え…?」
「ほぉ…」
「先公どもに、上手くおしつけられた…。
で、私だけきつい思いをするのも何なのでアンタたちも、
研誘委員に混ぜといたから。しかも委員長補佐クラスで。
ま、これからヨロシク」
反論の暇を与えず、亜梨羽はそれだけ言うと、
鞄を持ち、すたこらと教室を去っていった。
「ど、どんな理由だよ!?」
「ふふ、アリハさんらしいよね」
うぁぁメンドクセ〜!!!!!!!
と、いう叫びが、
夕刻の校舎内に響きわたった―――
ホント、嫌な役に任命されちまった。