003_惑星パンドラ
今回は少し短めですが、次回は7000字程度を予定しています。
もし銀河に中心があるのなら、パンドラは一番外れの惑星と自信を持って言える。
私の名前はハイドリヒ・オイゲン。
何故、惑星パンドラにわざわざ軌道宇宙ステーションまで作って研究し続けているのか。その理由を教えよう。
数年前、惑星パンドラの探査ロボットが私に驚くべき報告をしてきた。
新たな画期的エネルギーが見つかったのだ。
その名は「フェイゾン」。
原子力技術の供給が私たちの需要を追い越した今、ウランに変わる新たなエネルギー源が必要になった。
惑星パンドラで見つかった「フェイゾン」を使えば、現在ある全てのエネルギー問題を解決できる。
しかし、私は帝国の真の目的を知っている。
銀河帝国は、数十年前から惑星をも破壊できる究極兵器の研究に着手していた。
だが、計画は途中で頓挫した。
惑星を破壊できる様なエネルギーを核では、生み出せないのだ。
この青白く輝く「フェイゾン」さえあれば帝国は一年もかからず兵器を完成させてしまう。
「パパ、何考えてるの?」
私の娘であるシャルルが言った。
妻や娘の前では仕事の事を考えないと決めていたのに。
「何でもないよ、星を見ていたんだ」
私はぶっきらぼうに答えた。
少女の目線は私の手元にいった。
「それは何?綺麗だね」
「フェイゾンさ。私の努力の結晶だよ」
「ふーん」
まだ彼女は5歳だ。
本当なら銀河の中心で色々なものを見せたかったが。
今の彼女にとって銀河の中心はこの軌道ステーションなのだ。
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「小隊を集合させよ、お前達は出撃する」
少佐からその言葉が出たのは、そのしばらく後の事だ。
デル達は他の五、六部隊とともにシャトルに乗り、アカデミーから軌道に向かった。
突然の事だった。
全員が装甲服を着て、ライフルを持っている。
訓練用ではなく、本物のスタンダード・イシュー・ライフル(帝国軍で採用されている銃)で、フル装填されていた。
シャトルの小さな窓から、荘厳かつ不気味なバトルシップを初めて目にした。
最初はかなり小さく見えたが、シャトルが近づくと、その巨大さに圧倒された。
「これは現実だよな」
エミールが言った。
その声には畏敬の念が籠っていた。
こんな所まで来られるとは予想もしていなかったという感じだ。
「将軍は行き先とか、任務について言ったか?」
ジャックが尋ねた。
「言わなかった」
デルが答えた。
「言うはずないさ」
ハスクが言った。
「上層部の計画を末端の俺たちに教えるはずが無い。任された任務の事だけを考えて、そいつを俺たちにやらせるだけさ。」
一番ベイに到着すると、訓練通りきっちりと隊列を組んで船を降りた。
通常にずらりと係留されたスツーカは、ドッキングベイの明かりを受けて輝いている。
シュミレーションで嫌と言うほど見てきたものと同じだが、奇妙なことにはっきりとした違いがあった。
しみひとつない完璧な仕立ての制服を着た、年配の甲板士官が待ち受けていた。
部隊ごとに仕分けをし、それぞれの宿舎を指示する。
デルたち四人が割り当てられた兵舎は、地上で使っていたものとよく似ていた。
違いといえば、船上の兵舎には“本物の”帝国軍正規兵がいるという所だけだ。
兵士たちは、ベッドを探し当てて装備を下ろした、新入りに、全く目もくれなかった。
新入りたちがやっとヘルメットを取って落ち着く間も無く、船内の拡声装置から命令が聞こえた。
「総員、ハイパージャンプに備えよ」
一分もしない内に、船が微かに揺れたかと思うと、船は光よりも早く飛び始めた。
ハイパージャンプの旅は一時間程だった。
時間と方向から推定して、パンドラ星系だろう。