祝福の実の真実
アルクードの言葉で、エルティナは今回の視察の本当の目的を知った。
ただ祝福の実の収穫祭に出ればいい、というものではないのだ。
この土地を知り、問題点を探る。
そして、土地を豊かにし、そこに生きる民に富を与える。
それを達成しなければならない。
ここで成果を上げれば、停止された聖遺物予算、またの名をガチャ資金がエルティナの手元に入ることになるのだ。
それを理解したエルティナは、意気揚々と宮殿を出発した。
目指すは祝福の実の畑。
まずは、この土地の特産物を知ろうと思ったのだ。
そうしてたどり着いた丘の上。
祝福の実の畑を見下ろし、エルティナはまっすぐに前を見据えた。
「では、まずは祝福の実の木を根絶やしにしましょう」
「ねだやし」
「代わりにカボチャとおいもを植えるの」
「……なぜでしょうか?」
真面目に頷くエルティナにアルクードが眉間を押さえながら質問をする。
そんなアルクードにエルティナは笑顔で答えた。
「女の子はあまくてほくほくが好き」
「馬鹿じゃないですか」
リアルガチに。
「湿地帯だって言いましたよね。カボチャも芋も水はけが良くないと育ちません」
「あら、そうなの」
いい案だと思ったのだけど、とエルティナは首を傾げる。
「そもそも土地を発展させるってどういうことなのかなって考えたのよ。そうすると、人を呼ぶ必要があるかなって思ったのよね」
「なるほど……」
「ほら、この聖遺物のゲームだけど、私だけがプレイしているわけじゃないの。たくさんの人がやるからこそ、お金が集まり、お金が集まれば、キャラも良くなり、シナリオも増える。まず人ありきなのね、って」
「それは慧眼か、と」
エルティナの言葉にアルクードは頷いた。
エルティナはポンコツだが、物事の本質を見抜く力がある……と、ほんのときおり、たまに、すごくときどき思う。
「だから、女の子が喜ぶようなものを作って、それを食べに来てもらうといいかと思ったのよね。モンブランとか」
「もんぶらん?」
「そう。栗やカボチャ、おいもで作れるんだけど……」
モンブランという異世界のケーキをアルクードに見せるために、聖遺物を取り出すエルティナ。
すると――
「女神の慈愛が飛んでる……!!」
さっきまでまったく通じていなかった、女神の慈愛ががっつり来ていた。
「なるほど。祝福の実は女神様が降ろしたものですから、女神様の力が強いのかもしれませんね」
「ああー! 久しぶりのこのログイン画面! ……うー、連続ボーナスは切れちゃったけど、うん、大丈夫、今日からまたがんばればいい。幸い、新しいイベントはまだ開始されてない。よし、まずは、いつも通り経験値を稼ぐために周回を――」
せっかくの改革案をすっかり忘れ、聖遺物に熱中するエルティナ。
そんなエルティナを見て、アルクードはふぅと息を吐いた。
「殿下。ガチャのために資金を得るのでは?」
「そうね。ちょっとゲージがなくなるまで待って。大丈夫、1ターン撃破でいくから」
エルティナはそう言うと、すばやくタップ&スワイプ。
そうして、数分の後、アルクードを見上げた。
「待たせたわね。周回は終わったから、調べたわよ。これがモンブラン」
「これが……」
アルクードがエルティナの持つ聖遺物を覗きこめば、そこには細いクリームがぐるぐるとたくさん載ったおいしそうなケーキ。
「同じモンブラン、でもいろんな味があるんですね」
「そうなの。モンブランとイケメンは一緒の概念なのよ」
「一緒とは?」
「すべてを許すその包容力。 栗は正統派、かぼちゃは色気、おいもは幼馴染。いちごはあざとショタで抹茶は大人の余裕よね…!」
「つまり」
「オンリーワンだからこそのワンフォーオールでオールフォーワンなのよ!」
「馬鹿じゃないですか」
アルクードはエルティナの輝く碧色の瞳に冷静に突っ込む。
そして、おや? と首を傾げた。
「ところで、聖遺物は異世界の情報を手に入れることができるのですか?」
「あら、言ってなかったかしら。そう。検索窓というのがあってね、そこに文字を入力すると情報を手に入れることができるの」
そう。スマホがあれば なんでもできる。
「では、祝福の実のことも調べられるのでは?」
「……! そうね! 祝福の実は聖遺物。つまり、異世界のもの……!」
アルクードの言葉から、手がかりを得たエルティナ。
すぐに聖遺物に文字を入力していく。
「『赤い実 酸っぱい 湿地』と……。……! わかったわよ、アルクード!」
「祝福の実の異世界での名前は『クランベリー』」
「くらんべりー」
「そのまま食べると酸っぱいから、ジュースやソースの加工するって書いてあるわ」
「なるほど。そのまま食べるものではなかったのですね」
「あんなに酸っぱいんだもの、そのまま食べるなんておかしいと思っていたのよ! でも、これで正しい知識でより祝福の実を広められるわね!」
「そうですね。ジュースやソースにするのであれば流通させやすくもなります」
「これは成果と言えるわね!」
「はい。女王陛下もお喜びになるか、と」
ふふんと胸を張るエルティナにアルクードも笑顔を向ける。
「ガチャ資金ゲットよ!」
やったわ!! と小高い丘の上でエルティナははしゃぐ。
思ったよりも簡単に達成できた執務に、エルティナは気を良くする。
そして、そうなると、もっといろいろとやってみようと思い――
「祝福の実を広めるのはそれでいいとして、やっぱり私はここに人を呼びたいわ」
エルティナが見下ろすのは、小川の横に低木がずらっと並んだ景色。
小高い丘から見るそれはなかなかの絶景である。
「アルクード、見て。異世界ではクランベリーは水に浮かべて収穫するそうよ」
「水に浮かべて?」
「そう書いてあるわ。クランベリーは中身に空洞が多く、水に浮くんですって。だから、畑に水を張って、木を揺らす。すると、木から実が離れ、たくさんの赤い実が漂う。それを集めれば収穫完了よ」
そこまで言うと、エルティナはふふんと笑った。
「女神の末裔である私が船に乗り、赤い実を集める」
――これって最高の見世物じゃない?