深夜の捕縛作戦(3)
【今回の登場人物】
ラフロ…家族を森で失ったレイク村の守衛
アルベロ…王宮兵の隊長
ミツカ・ヨツカ…レイク村で宿屋を経営する姉妹
≪ ドスンッ ≫
今まで経験したよりも明らかに大きな衝撃がバスを襲い、その直後巨大なハイウルフは地面に倒れ込んだ。やはりこのバスは大きさなど関係なく魔物に対しては耐性を持っているらしい。
「ラフロさん、とどめをお願いします」
「お、おう」
いくら無力化され倒れているとは言え、あそこまで巨大な魔物に近づくのはやはり恐い。その心理は俺も良く分かる。
しかし、王宮の兵はほぼ全滅しており実戦経験の無い俺やミスズが役に立つとは思えないので、ここはラフロさんに頑張って貰うしかない。
ミスズにはバスの中で待機していて貰い、俺は近くで怪我を負い木に寄りかかっているアルベロさんの元へと向かった。先に身体を気遣ってあげたい所だが、現状ではまず最初に確認する事がある。
「アルベロさん、アレ以外に魔物はまだいますか!?」
「いや、魔物はあれ一匹だけだ……討伐への協力感謝する」
アルベロさんは弱々しくそう呟いた。他に魔物がいないとなればバスから離れてもひとまずは安全だろう。
魔物への止めを終えたラフロさんにも協力して貰い俺達で負傷した兵達をバスへと運び込んで行く。車内ではミスズが傷の応急手当てを行っており、幸いにも命を落とした兵はおらず全員意識はしっかりとしていた。
巨大な魔物の死骸を放置するのは何か気が引けるが、今は負傷した兵士達の治療を優先するべきだ。
明るくなったら守衛さん達に手伝って貰って回収しに来よう。だけどその前に一つだけ……
「ラフロさんお願いがあります。魔物の死骸は後で運搬しますので、奴がつけている首輪だけ切り取って持って来て貰えませんか?」
「了解した」
そう、魔物の死骸については後で回収でも良いが、魔物の従順と首輪が関係している可能性が少しでもある以上、あれを放置してこの場を離れるのは抵抗がある。
「では、村に向けて出発します。皆さん山道は少し揺れるので気を付けて下さい」
ラフロさんの話だと村には治療を受けられるような場所は無く、薬屋が一軒あるだけだという。本来なら詰め所で手当をしたい所だが、少し大きめの民家程度の建物。十七名の怪我人を受け入れるには少し小さすぎる。
「どうしましょうかっ……」
応急手当が済んでいるとは言え、少しでも早く薬を塗りしっかりとした手当をした上で休ませてあげなければいけない。
「ミツカとヨツカの所へ行こう」
あそこなら宿屋なのでそれなりのベッドが確保できる。今回の件は国王様からの正式な依頼もあるので宿泊費だって必要経費として説明すれば王宮の方でどうにかしてくれるかもしれない。
まだ今は深夜、到底薬屋が開いているような時間では無いがそこは小さな村。ラフロさんが薬屋に主人の家へ直接出向いて交渉をするという事で村へと入った所で降ろし、俺達は先に宿へと向かう事にした。
「ミツカー! 起きてー!」
俺とミスズが宿の扉をドンドンと叩いていると中に明かりが灯り、やや怒り気味にミツカが出て来た。
「ちょっと! 今は真夜中ですよ! 一体何なんですか!」
「緊急事態なんだよ! 負傷した兵士が十七人もいるんだ、ちょっと助けて貰えないか」
「えっ!! わ……分かりました部屋を用意しますので連れて来て下さい」
その後妹のヨツカも起きて来て、ラフロさんは薬屋の主人を連れて来て……宿は深夜にもかかわらず大騒ぎになった。