深夜の捕縛作戦(2)
【今回の登場人物】
ラフロ…家族を森で失ったレイク村の守衛
アルベロ…王宮兵の隊長
「ハイウルフが来ましたっ!」
ミスズが少し興奮した様子で俺の所へ駆けて来た。バスの正面から昨日と同じく縦一列に並んだハイウルフが八匹……あれ?
そう昨日は四匹づつ二組に分かれて村内を徘徊していた筈のハイウルフが今日は八匹が縦一列に並んで歩いて来たのだ。
「理由は分からないけど、これなら手間が省けて有難い。昨日みたいに村内へ散ってしまうと討伐が大変になるからさっさとやってしまおう」
「そうですねっ」
「エンジン音やバスの接近に驚いて逃げて行ったりしないかな……」
野生のハイウルフとは違い、もし奴らを逃してしまうと今回はちょっと面倒な事になってしまう恐れがある。そんな俺の不安をラフロさんが一掃してくれた。
「いや、それは大丈夫だ。ハイウルフは基本的に敵には向かって来る習性があって走る速度もそこまで早くない。万が一逃げられたとしてもバスの速度であれば十分追い付ける筈だ」
「それなら安心して討伐できます。よし、行こう!」
「はいっ、しゅっぱーつ!」
俺はバスのエンジンをかけた直後、魔物へ向かってアクセルを全力で踏み込んだ。バスはもの凄いエンジン音を響かせて魔物に向かって突進していく。
「なっ 逃げた……」
敵には向かって来る習性があるとラフロさんは言っていたが、八匹のハイウルフはバスが自分たちに対して敵意を持っていると判断したのか方向を変え一目散に森へ向かって走り出した。
ラフロさんも目の前で起きた事が信じられないようで言葉を失っている。
しかしハイウルフの走る速度についてはラフロさんの言う通り、見た目に反してそこまで早くは無くどんどんと距離を詰めて行ったバスに接触して八匹のハイウルフは一瞬のうちに地面へと倒れ込んだ。
「ラフロさん、奴らは一時的に気絶しているだけです。とどめをお願いできませんか?」
そう、バスと接触した魔物はそのうちに息を吹き返す。魔物から証言が取れるとは思えないのでここは安全を考慮してとどめをさせておくべきだろう。
魔物の処理を終えたラフロさんを乗せ、俺達はまず詰所へと向かった。
どどめをしたので安全とは言え魔物の死体は街中に放置したまま。
手の空いている守衛さんにお願いし、魔物の死体を片付けて貰おうという事で立ち寄ったのだ。
「ハイウルフが八匹……そりゃ村人に目撃されたら大事件だな。分かった俺達で片付けておくから」
「「「お願いします!」」」
こうして俺達は岩穴へと向かって急いでバスを発車させた。
「あっちは上手くいったでしょうか……」
「きっと大丈夫だよ」
村の門を抜け洞窟の近くまで来た俺達は想像してなかった光景に息を飲んだ。
木の根元には何人もの兵達がケガをしてうずくまっており、到底誰かを捕縛できているような状況には見えなかった。
すぐさま助けに行こうとバスのドアを開けたその時、
―― 来るな!
アルベロ隊長の声が響くと共に、暗闇の中から馬ほどの大きさはあろうかと言う巨大なハイウルフが姿を現した。
「「「な、なんだあれ!!」」」
ミスズもラフロさんもあんなに巨大なハイウルフは見た事が無く、キングボアのようにハイウルフが突然変異するという話も聞いた事が無いという。
あそこまで巨大な魔物に突撃されたらさすがのバスでもヤバイんじゃないだろうか……。そんな気もしたが、この細い山道で大型バスを転回させて逃げるにはそれなりに時間がかかってしまう。
どっちみちあの巨大ハイウルフに襲われてしまうだろうから、ここはバスの力を信じるしかない。
「二人とも座席にしっかり捕まって!」
大声で俺はそう叫びながらバスのドアを急いで閉めた。それと同時に巨大ハイウルフがバスに向かって猛突進してくる。