深夜の捕縛作戦(1)
【今回の登場人物】
ラフロ…家族を森で失ったレイク村の守衛
バスの時計は午後九時、俺とミスズ・ラフロさんはバスに乗り昨日と同じ場所で待機している。アルベロ隊長率いる部隊はというと装備を整え洞窟の入り口近くに隠れ潜んで監視についていた。
「今日もハイウルフは来るかな……」
「さあ、でも今までは毎日来ていたんですよねっ」
家族を連れ去られたラフロさんの為にもできるだけ早くこの事件を解決してあげたい。
「それにしてもハイウルフ達は村の中で何をやっていたんでしょうか」
「何かを見張っていたとか?……ミスズはどう思う?」
「お散歩して疲れたので休憩……な訳ないですよねっ。ラフロさん、何かご存知ないですか?」
「さっぱりだよ。この街に毎晩探し回る程の価値がある物があるとは到底思えないし、ましてや何を見張るって言うんだよ。それよりもハイウルフが深夜に徘徊しているのに今まで誰も気づかなかったという事が衝撃だよ」
確かにこの村は夜の十時にもなれば明りは完全に消え、外を出歩く人など居なくなってしまう。
唯一村の出入口を管理する守衛さん達だけは起きているが、この村は王都と違い周囲を壁に囲まれている訳では無いので詰所や門に居たのでは気付かないのも仕方ない。
「そろそろです」
昨日遠吠えを聞いた時間になったが、今の所ハイウルフの声はまだ聞こえて来ない。まあ毎日遠吠えをするとは思えないし暫く待ってみよう。
「……遠吠え? そういえば何で彼らは鳴いていたんだろ」
「何でって……そりゃあハイウルフなんですから遠吠えしても不思議はないんじゃないですかっ」
「でもあのハイウルフ達は一列になって歩く程しっかりと調教されている……そんなハイウルフが意味も無くこんな村の中やバスの近くで吠えるのかな」
「まあ、確かに言われてみればそうですね」
「深夜に解き放っているという事は村人に気付かれたく無かったんだろうし、俺が魔物を操る側だったら無駄吠えはリスクしか無いから徹底的に止めさせると思うけど……」
そこまで言って俺は前々から感じていた違和感の正体に気が付いた。
「何で魔物の首輪に隣国の紋章がついていたんだろう……」
「えっ、それは隣国がハイウルフを調教しているからじゃないですか? 特に不自然な事じゃないと思いますけど」
「いやそういう意味じゃ無いんだミスズ。隣国からすればここレイク村はあくまでも他国の土地。そんな場所にわざわざ身分証をぶら下げて侵入する必要は無いんじゃないかな? 紋章を付けていなければ見つかったとしても単に魔物が村に侵入しただけと思わせられるのに」
「「た……確かに」」
ミスズとラフロさんが同時に納得したような表情をした。
「でもっ……じゃあ、隣国の仕業と思わせたかったという事でしょうか」
「それなら昼間に堂々と侵入すれば良い訳だし、意図が不明すぎるよ」
「そうですよねっ」
「―― 首輪を外す事が出来なかった」
「「えっ!?」」
「もしかするとハイウルフ達があんなに大人しくて統制が取れているのは首輪が関係しているんじゃないかな。ミスズの言う通り隣国の関係者が調教しているから首輪には隣国の紋章が付いている。でもそれを外す事が出来ないので、少しでも人目に付きにくい深夜を狙って村に繰り出しているとしたら……」
「じゃあ鳴き声は……」
「通信手段……ハイウルフ達に指示を出したり、いわゆる通信をするための手段だとしたら……」
「そういえば昨日ハイウルフ達が遠吠えを聞いた直後に森へ向かって歩き出しましたよね。”帰ってこい”という意味だったんでしょうか」
「もしそうだとしたら洞窟にも人間以外にハイウルフ達を統率するボス的なハイウルフがいる可能性があるんじゃないだろうか……」
さすがにハイウルフ一匹であれば十七人も王宮兵がいればどうにかなる。しかし隣国兵の捕縛もとなると何人かの犠牲者が出てしまう可能性は否定できない。
今夜ハイウルフが現れたら早めに討伐して洞窟へと応援へ向かおう。