洞窟の調査(2)
【今回の登場人物】
ラフロ…家族を森で失ったレイク村の守衛
アルベロ…王宮兵の隊長
その日の午後、雑貨屋”旅のしっぽ”とラマノ商会は騒然としていた。
”私からラマノ商会と店にはしっかりと説明しておこう” その言葉の通り、国王様が直々に多くの護衛を従えて店を訪れたからだ。
さすがのマルセルさんも国王様直々に ”娘さんの安全は我々の兵が責任を持って守る” なんて言われてしまっては反論する事もできない。
というよりバスの性能についてやや過信しているマルセルさんはそこまで心配はしていなかった。
◇◇◇
バスの時計は午後三時 ――
十五名の兵を乗せたバスはレイク村の守衛詰所へと戻って来た。
今回の作戦は同行したアルベロと名乗る王宮兵側の隊長が仕切ってくれる事になり、俺とミスズ・レイク村の守衛ラフロさんは補助という役割になっている。
「それでは魔物が消えた洞窟の前まで移動しましょう。皆さんバスに乗って下さい」
俺達を含めると合計二一名、バスの定員はオーバーしてしまうので短時間だし何人かは立っていて貰うしかない。
「洞窟へ向けてしゅっぱーつ!」
こんな時でも元気なミスズの掛け声を合図にバスは森へと向けて出発した。
「あっ、あれですっ!」
詰め所を出発して暫く走り、ラフロさんが家族をさらわれたという場所を通り過ぎると例の岩が見えて来た。
「魔物達は昨日の夜、あの岩の隙間へと入って行きました」
アルベロ隊長の指示で兵達は装備を整え、順番にバスを降りてゆく。
「我々で一度洞窟の中を捜索してきますのでシュウさんとミスズさん、そしてラフロさんはバスで待機して下さい。どんなに遅くとも日暮れまでには戻ります。もし我々が戻らなければ中で何かがあったと判断して頂き村で応援を待って下さい」
「分かりました」
こうしてアルベロ隊長率いる王宮軍は洞窟の岩をずらし中へと入って行った。
「暇ですね」
「ああ」
あれから三〇分ぐらいは経つが洞窟へと入って行った兵達が戻って来る様子は無く、こちら側にも数匹の小さな魔物が出て来た事以外は特に変化が無い。
「俺達もちょっと洞窟を覗いてみるとか……」
「危ないからやめて下さいっ!」
なんかこう、せっかく異世界に来たんだし剣とか使って格好よく戦いたいよな……俺がそんな事を考えていると洞窟の奥からアルベロ部隊が戻って来た。
「「おかえりなさい」」
全員がバスへと乗り込んだ後、アルベロ隊長が呟いた。
「収穫があったよ」
洞窟の中を調べると、確かにそこには人間がいた痕跡があったという。正確な人数は分からないが足跡から推測するにおおよそ二~三名、思っていたよりも人数は少なかった。
穴はずっと続いており、その先は山奥の川辺に繋がっている。
正確な場所までは分からないが、この村のすぐ隣はもう隣国。もしかしたらこの洞窟は隣国の土地へと繋がっているのかもしれないというのがアルベロ隊長の見解だった。
「ひとまず穴の中に誰も居なかった以上、今これ以上調査する事はできない。夜を待ってハイウルフが街を徘徊している間にこの穴に乗り込んで我々で中の人間を捕まえる事にしよう」
「分かりました」
「それに当たり、シュウさん達には今夜ハイウルフの方をお願いできないだろうか。さすがの我々も八匹ものハイウルフを同時に相手して勝てる見込みは残念ながら無い」
「それは構いませんが、魔物達を討伐してしまっても良いのでしょうか?」
「ああ問題無い、ハイウルフが街に繰り出すという事はこの洞窟にも誰か指示を出している人物が潜伏しているという事だろう。それらを同時に捕らえなければ、特にハイウルフが野放しになるなど危険が大きすぎる」
こうして今夜の作戦分担が決定した。