夜の張り込み(3)
【今回の登場人物】
クラ…国王様の孫娘
衛兵三人…クラちゃんの護衛で同行している王宮の兵
「あのハイウルフ達は何をしているんですかね」
クラちゃんも加わり五人でカーテンの隙間からハイウルフの様子を伺っている。どこにも魔物達を操っている人間の姿は見当たらず、彼らは四匹だけで自主的に行動をしているようだった。
「あっ、こっちからもハイウルフが来ましたよっ」
「えっ本当に? って……うわっ!」
その声がする方を振り向くと、そこにはさっきまで椅子から落ちそうになりながら寝ていたミスズがいた。
「うわっ、じゃありませんよ。何で起こしてくれなかったんですかっ!」
「ご……ごめん」
「しかも私のお菓子食べたでしょ」
「ご……ごめん」
「それよりあっちからもハイウルフが来ているんですよ」
ミスズの指さす方に目をやると、反対側からもハイウルフが四匹やはり縦一列にきっちりと並び村の中心に向かってゆっくりと歩いて来る。
「奴ら近くまで来ちゃいましたけど、どうしますかっ!?」
「バスを攻撃して来る様子も無いし、俺達には気づいて無いんじゃないかな。もう少し観察してみよう」
前後から接近するハイウルフ達はバスの近くで合流し、暫く互いに合図を送り合ったような仕草をした後で村の中へと一斉に散らばって行った。
「あれ、どこかへ行っちゃうんでしょうか……」
「いや、でもあの魔物はミツカの宿の近くに座り込んだよ」
「本当ですね……」
魔物が村を荒らしたりする様子は無く、家の軒下に置かれている野菜などの食料に手を付ける事もしていない。
ましてや村民を狙っているような雰囲気も感じられず、ハイウルフ達はただ村内の様々な場所に散らばり座り込んでいるだけだった。
「何をしているんでしょうかっ」
「何かを待っているのかな」
感覚的にはもうニ〇分ぐらい経った気がした。遠くの方から遠吠えが聞こえたのを切っ掛けにしてハイウルフ達は一斉に立ち上がり、森の方へと歩き出してしまった。
全員で相談した結果、少し間を開けてバスで追跡してみようという事になった。エンジン音で気付かれないかと心配していたが、幸いな事にハイウルフ達は気付いていないのか気にしていない様子だった。
見失わない程度の間隔を開けて俺はバスをゆっくりと発車させた。隣にはミスズが座り、クラちゃんと兵の三人は後ろの方の席で警戒に当たっている。
まあ兵の方々の主任務はクラちゃんの護衛なので安全を考えればそれも仕方ないだろう。
「森へと入って行きますよ」
「ここってお昼にも来た……ラフロさんの家族がハイウルフに連れ去られたっていう場所の近くだよな」
「そうですね……やっぱりハイウルフは居たんですね」
「「あっ、あれは!」」
遠くから追跡していた俺達はハイウルフが岩の間に開いた大きな隙間に入って行くのを目撃した。しかもそれだけではない、ハイウルフが隙間へと入った直後に岩が動き、完全に入り口が閉ざされてしまった。
これでは昼間に来ても到底そこに洞窟があったとは気が付かない。
「一旦引き返して応援を呼ぶべきだ」
それを見た兵の一人が少し興奮したような声でそう提案した。入口の岩を動かして閉めたのは人間の可能性が高く、状況から考えると隣国の兵士かもしれない。
穴の中には何匹の魔物がいるか分からないし、あれだけ大きな岩を動かせるという事を考えれば兵士は最低でも三~四名はいる筈である。
こちらは簡易武装の兵が三名、俺とミスズ・クラちゃんは乗り込んだとしても足手まといにしかならない。バスが入れない場所でこれ以上深追いするのは危険すぎると判断し、引き返すかこの場所で入り口を見張るかの選択になった。
「バスに乗っている以上魔物の脅威はありません。いつでも逃げられる体制を維持して夜明けまでここで出入口を見張ってみませんか?」
「そうですね、また出て来るかもしれませんし、それなら危険も少ないと思いますっ」