隣国の怪しい動き(3)
【今回の登場人物】
クラ…国王様の孫娘
ラフロ…家族を森で失ったレイク村の守衛
ミツカ・ヨツカ…レイク村で宿屋を経営する姉妹
「確かこの辺りだったと思います……」
村から十分程、簡素な村の門を通り過ぎてほんの少し森に入ったこの場所で、木の陰からいきなり出て来たハイウルフに家族をさらわれたという。
「ここって、村からほとんど離れていませんよね」
「そうですよね……バスに乗っていたから特に短く感じましたけど、歩いたとしてもそこまで遠くは無いと思いますし」
俺とミスズはこの時同じ事を考えていた。やっぱりあの夜聞いた遠吠えはハイウルフの物で、この辺りから聞こえていたんじゃないだろうか。
「ここから北の方にハイウルフ達は逃げて行きました」
「よし行ってみよう」
俺はゆっくりとバスを発車させた。衛兵の三人とラフロさんは防具を身にまとい武器の準備も万端、もし魔物による奇襲を受けたとしても問題は無い。まあそもそもバスに乗っている以上は奇襲も何も関係ないんだけど。
「特に変わった所は無いですね」
「そうだな、馬車が通った跡はあるけれど魔物の足跡も……獣道や巣らしきものも見当たらないな」
「泳ぎに行きましょうよ~」
クラちゃんは早速飽きてしまったらしく、つまらなさそうにお菓子を食べている。ラフロさんの話によるとハイウルフを見失ったのはこの辺りらしく、残念ながら今の時点ではこれ以上の手がかりは無い。
「やっぱりそう上手くは進まないか……」
「そうですね、特に何も不審な点は見当たりませんし」
それから衛兵の方々にも協力して貰ってバスから降り周辺を捜索してみたけどハイウルフに結び付きそうな痕跡は何も発見する事ができなかった。
「ひとまず村に戻りましょうか」
「だね、これ以上ここに居ても収穫は無さそうだし」
ラフロさんを詰所まで送って別れ、俺達はミツカとヨツカの宿で作戦を練る事にした。
「いいですかっ! 今度は五部屋用意して下さいねっ!!」
前回の教訓もあり今回は部屋数をきっちり確認するミスズ。同伴している衛兵さん三人がそれぞれ一部屋づつと、俺、そしてクラちゃんとミスズは同じ部屋で合計五部屋だ。
「えっ今回もお二人は同じ部屋に泊まる物だとばかり……」
「「なっ!!」」
「冗談ですよ、今日はお客さんも少ないので部屋には余裕がありますから自由な部屋割りで使ってください」
フンッと鼻息荒く鍵を受け取ったミスズはクラちゃんを連れてそそくさと部屋へ行ってしまった。
「荷物置いたら食堂に集合なー!」
ミスズの背中に向かってそう叫び、俺と衛兵三人もそれぞれ鍵を受け取って部屋へと向かった。
数十分後全員が食堂へと集まったので作戦会議をスタート、さっき別れてしまったけどこの会議にはラフロさんも参加して貰った方が良かったな……。
「ミツカとヨツカに聞きたい事があるんだけど、最近夜中に犬の遠吠えのような声を聞いた事は無かった?」
「「あります」」
「最近犬か何かの遠吠えが聞こえる事があるんですよ。でもこの街に犬なんていないし何だろうね~ってヨツカと話していた所なんです!」
「「本当に!?」」
俺とミスズの声が重なった。しかも詳しく話を聞くと最近はほぼ毎日の出来事になっているらしく、そうなれば今日も聞けるかもしれない。
「ちなみに……夜、いや深夜に宿から出たり外を見た事ってある?」
「そんな事はしませんよ。私もヨツカも朝が早いんですから夜更かしはしません!」
俺達が次にやる事は決まった、深夜の張り込みだ。