隣国の怪しい動き(2)
【今回の登場人物】
ムツキ…"雑貨屋 旅のしっぽ"の共同経営者
クラ…国王様の孫娘
ラフロ…家族を森で失ったレイク村の守衛
「こっちのお菓子も下さい! あっ、これも!」
朝から沢山の護衛を引き連れ "雑貨屋 旅のしっぽ" へとやって来たクラちゃんは完全に遠足気分。ムツキの店でお菓子を中心に色々な物を買い込んでいた。
まあ、もしもの時の為にも食料は豊富にあった方が良いし、ムツキも売り上げが伸びて嬉しそうなので良しとしよう。
「クラちゃん、そろそろ出発しましょ?」
「そうだね、まだ現地で守衛さんとも合流しないといけないし、早めに移動しておいた方が良いかもしれない」
「わかりました!」
バスの前面には王宮の紋章を掲示し、クラちゃんと王宮の衛兵三人が乗り込んだら準備完了! ムツキに店番をお願いした俺達は"旅のしっぽ"を出発した。
「それでは、再びレイク村へしゅっぱーつ!」
「ん~やっぱりバスの乗り心地は最高ですね」
クラちゃんは椅子に頬ずりしている。車内放送を使って暫くは移動だけで危険は無い事を伝え、衛兵の三人にも装備を解いてくつろいで貰う事にした。
途中、王都の門へ差し掛かるとバスに王宮の紋章が掛けられている事に気付いた守衛達がざわつく。
「こんにちは」
「兄ちゃん今日はまた何で王宮の紋章なんて……なっ! クラ様」
「みなさまご苦労様です!」
王宮関係者が同乗している場合はそのまま通過しても構わないらしいが、今回の事の発端である守衛さんにも簡単に事情を説明した上で俺達は王都を後にした。
「わっわっ、はっやーい!」
王都の門を抜けるとレイク村までは広くしっかり踏み固められた真っすぐの道が続いている。ここを走る時は八〇km/h近い速度を出す事ができ、この世界では最も走りやすい道の一つだ。
一通り騒ぎ立てたクラちゃんはさっきムツキの所で買ったお菓子をポリポリと食べ始めた。もう完全に遠足、いやただの観光モードになってしまっている。
バスは順調に走り続け、バスの時計が十時を差した頃にレイク村の守衛詰所へと到着した。
「「「こんにちはー」」」
「いやあ悪いね、お礼も出せないのに俺の我がままに付き合って貰って」
「それが……そうでも無くなってしまったんです」
バスの前に掛けられている王宮の紋章、バスから降りて来る三人の衛兵、そして自己紹介するクラちゃん。これらの事から想像以上の大事になっていると悟ったラフロさんは焦った。もし自分の話した事が単なる勘違いだったら……。
でもその事についてもしっかり考えてある。
「大丈夫です、もし隣国絡みが勘違いだったとしても問題ありません。今回クラちゃんはレイク村へ俺達と一緒に湖水浴へ来ただけですから。兵の方々はクラちゃんの護衛として同伴しているだけですし、王宮関係者の乗り物に紋章が付いているのは特に不思議でも何でもない事です」
「そうか、それは有り難い……」
という建前だったが、クラちゃんの恰好や持ち物、はしゃぎ方を見ると本当に ”ただ単に湖水浴に来ただけ” のように見えてしまうから不思議だ。
「では、ラフロさんも乗って頂いてハイウルフと遭遇したと言う場所へ行ってみましょう」
「えー! 泳がないんですか!?」
クラちゃん、それは後でやろう。
暗くなると森の中で痕跡を見つけられなくなってしまうかもしれない。明るいうちにできるだけ情報収集をしておきたいし、俺達はラフロさんの案内でハイウルフに遭遇したという場所へ向かってバスを発車させた。