二人の見た夢
【今回の登場人物】
ムツキ…"雑貨屋 旅のしっぽ"の共同経営者
「それでは皆さんお揃いになりましたので、バスへと移動しますっ」
翌日のお昼過ぎ、宿の前にはツアー参加者が集まっていた。一泊二日の湖水浴ツアーも終わり後は王都へ帰るだけ。
「「みなさんまた遊びに来てくださいねー」」
ミツカとヨツカに見送られながら我々一行は裏手に停めているバスへと移動を始めた。参加者達の話を聞いてみると「新鮮な魚が食べられて良かった」「湖水浴が気持ちよかった」「家族で楽しめた」などポジティブな意見が多く、今回のバスツアーはおおむね成功と言っても良さそうだ。
それどころか次のツアーは何時なのかと急かしてくる人もいる。でも守衛さんから聞いた件もあるし、しばらくツアーは開催できそうにないかな……。
乗客から荷物を預かりトランクルームに積んでいると、やはり湖の近くという事もあってかお土産に魚を購入している人が多い。バスなら王都まで二時間ちょっと、腐る心配も無いのでお土産や今夜の夕食用にと買い求めたのだろう。
「それでは王都に向けてしゅっぱーつ!」
もう道は完璧に覚えているので地図なしでも迷ってしまうような事は無い。バスの時計は午後二時、これなら夕方頃には"旅のしっぽ"に到着できそうだ。
「ふぁぁ~」
「シュウ君寝不足ですか?」
「ああ、昨日色々と考え事をしててね。あと変な夢も見ちゃったし……」
「あっ、私も変な夢見ましたよっ」
「ミスズはどんな夢見たの?」
「う~ん……私がミツカちゃんの宿から外を眺めていたら、なんと村の中をハイウルフが歩き回っているんですっ! 守衛さんのお話に影響されてしまったんでしょうかね。シュウ君はどんな夢でしたか?」
「俺は……幼稚園児位に戻っていて、みんなで手を繋いで遠足に行っている夢だったな」
「あっ、そっ、そうですかっ……手を繋いで……へー……」
額に汗を浮かべ少し様子がおかしいミスズ。しかし俺はそれよりもミスズの夢の方が気になっていた。寝るときにハイウルフの鳴き声のような物が聞こえていたし、それは本当に夢だったのかな。
その後バスは驚くほど順調に進み、王都の門が見えて来た。小さな魔物と遭遇する事はあった物の、バスに乗っている以上何の問題も無く燃料補給も兼ねているので適度に出てきてくれるのは有難い。
そしてバスが門に到着すると、乗客の通行手続きの合間を縫って守衛のおじさんがやって来た。
「それで、ラフロとは会えたか?」
「はい、話を聞いたんですが単に家族を連れ去られたって訳でも無いらしいですね」
「そうなんだよな、俺も信じられない話なんだけど」
「さすがに隣国が関係するとなると一度国王様にも相談した方が良いかなと思い日を改める事になりました」
そんな事言っても信じてくれるかねーと懐疑的な様子の守衛さんだったが、まあ宜しく頼むよと一言残し俺達を通してくれた。バスは王都内をゆっくりと走行し雑貨屋へと向かっている。さていよいよツアーも終了だ。
「みなさま、無事に "雑貨屋 旅のしっぽ"へと到着しました。今回はツアーへのご参加ありがとうござますっ」
ミスズのその車内放送が終わると同時に拍手が巻き起こった。雑貨屋の前には出発時と同様、ツアー参加者の家族や見物人などが多く集まっている。
「「ありがとうございました」」
ツアー参加者全員を見送り終えた頃、俺たちの元へとムツキがやって来た。
「おかえりなさい! 今回は予定通りでしたね」
「ただいま。まあ一つ厄介な事になりそうな依頼を貰って来たけどね……」
俺はレイク村で買ったお土産の菓子をムツキに渡し、今日の所は早めに部屋へ戻る事にした。明日は王宮に行かないと……