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眠れない二人

 大きな湖が近くにあるだけあって、出された料理はどれも新鮮な魚を使ったとても王都では味わう事ができない料理ばかりだった。


 さすがに生魚を食べる習慣は無いようで刺身が出てくる事は無かったが、ヨツカに刺身を説明すると興味津々。川魚は刺身じゃ食べられないって言うけど湖の魚はどうなんだろう? でも、そもそもここは異世界。寄生虫とかいう以前に生魚を食べてはいけない?


 いやでも食物連鎖上、魚も何かに食べられる筈なので人が食べられないって事は無いんじゃないだろうか……。頭をフル回転させ、こんなどうでも良い事を一生懸命考えているのには理由がある。


 それは少し前の出来事だった ――



「ヨツカちゃんの料理美味しかったですねっ」


「王都じゃ肉と野菜が中心だし、久しぶりに魚を食べた気がするよ」


 美味しい料理を堪能した俺とミスズは上機嫌で部屋へと戻って来た。


「じゃあ今日はもう疲れたし早めに寝ましょうか」


「そうだね、明日はまた王都まで帰らないといけないし」


……


 そのあと二人の間にはしばらく沈黙の時間が流れた。というのもミツカの用意してくれたこの部屋の真ん中には大きなベッドが一つ。部屋の隅に小さなソファーはある物の、そこで寝るとなると少し窮屈な感じがする。


「ミスズがベッド使いなよ、俺はソファーでいいからさ」


「なっ、駄目ですよそんな所で寝たら疲れは取れませんからっ」


 顔をほんのり赤くし、うつむいたまま俺の服をきゅっと引っ張りミスズは小さな声でつぶやいた。


(いっしょにねましょう)


 せっかくミスズがそう言ってくれたのを断る事なんて出来ず、今夜はミスズと同じベッドで寝る事になった。


「お、おじゃまします……」


「もうっ、お邪魔しますってなによっ」


 交代でシャワーを浴びた後、恐る恐るベッドへと入るとミスズの乾ききっていない髪からはほんのりシャンプーの香りがした。


「「おやすみなさい」」


 そう言って部屋の電気を消したが、もちろんこんな事は初めて。さすがにこの状況ですぐに寝付けるほど肝は座っていなかった。暗くて顔は見えないけれど隣からはミスズの息遣いが聞こえて来る。


 そういえばここの湖にいる魚って生で食べても大丈夫なんだろうか? この状況を乗り切る為に俺が出した答えはソレだった。どうでも良い事を一生懸命考えていれば気も紛れ、そのうち寝付けるかもしれない。


「……シュウ君起きてる?」


 そんな俺の努力を知ってか知らずか、ミスズが小さな声で話しかけて来た。


「ああ、起きてるよ」


「静かだから寝たのかと思っちゃった」


「全然眠れなくて……」


「私も……湖楽しかったね。また一緒に来ようね」


「三日後にまた来るけどね」


「もう、そういう事じゃないの!!」


 少し怒ったような声でミスズがそう言った直後、遠くの方から低い遠吠えのような声が聞こえて来た。


「今のって……」


「あれはハイウルフの声っぽいですよねっ」


「やっぱりミスズもそう思う? じゃあ守衛さんが言っていた事って……」


 再び無言になった俺とミスズはいつの間にか眠りに落ちていた。さっきよりも二人の距離は縮まり無意識のうちに手を握り合いながら。



「なななななっ……」


 それからしばらくして目を覚ましたミスズは自分が手を繋ぎながら寝ていた事に気が付いた。


 あまりに突然の事でパニックになり、顔を真っ赤にして慌てて起き上がったミスズは外の空気でも吸って気持ちを落ち着かせようと窓を少しだけ開けた。


「……?」


 今窓から何か変な物が見えたような気がしたけれど……。落ち着きを取り戻したミスズはそっとベッドへと戻り、恐る恐る手を繋ぎ直して再び眠りへとついた。

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