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魅惑の湖水浴ツアー(2)

 バスに乗り込んだ俺とミスズは参加者へ軽く挨拶をした。いつも車内放送はミスズに任せていたけど、いざ自分で持って喋ってみると緊張するものだ。


 車内からはいつも通り、いやいつも以上にフカフカの椅子や綺麗な装飾、明るい照明などに驚きはしゃぐ声が絶え間なく聞こえている。


 普段から豪華な馬車に乗っている貴族とは違い、馬車に乗ること自体も少ない多くの庶民にとってバスは異常とも言える空間だったのかもしれない。


「では今日のこれからの予定をご説明しますっ」


 マイクの音量を少し上げ、ミスズが説明を始めた。今日はこのままレイク村にあるミツカの宿まで行き、裏手にバスを止めさせてもらう。


 部屋は乗客用に六室と、俺とミスズで一部屋づつの合計八部屋を確保して貰っている。各々チェックインをした後は明日の昼過ぎまで自由行動だ。


 宿のすぐ裏が湖なので泳いでも良いし、宿でのんびりしても良い。別に観光地へ連れて行く訳でも無く、到着後は完全に客任せのフリープランなので俺たちがする事というのはそう多くない。


「それでは、レイク村へ向けてしゅっぱーつ!」


 車内からは一斉に歓声が沸き起こる。


 俺はゆっくりとアクセルを踏みバスを発車させた。周りには見送りや見物人が大量にいるので暫くは特に注意して運転しなければいけない。


 ここから約ニ〇分ぐらいは王都内をゆっくり走行する事になる。路面は整備されているので揺れも非常に少なく、乗客達はいつも自分が歩いている街をバスから見下ろすという感覚を優雅に楽しんでいる。


 というのもミスズによるティーサービスが始まったからだ。路面状態が良く、揺れの少ない今でしか出来ないこれは勿論サービスではない。ムツキから車内販売用にと託された物で試飲の為に配っているだけである。


 普段なら絶対に売れない物も "旅" という特別な状況の中では売れる。まるでお土産屋にある木刀のように。


 ミスズの車内販売も終わろうかという頃、バスは王都の西門へと到着した。


 門を通過する為には通行証の提示が必要になり、乗り物に乗る乗客たちもそれぞれ個別に提示する必要がある。その間を縫っていつもの守衛さんが話しかけて来た。


「そうか、今日は例の湖水浴の日だったな。気を付けて行って来いよ……と言っても魔物に襲われる心配も無いし兄ちゃん達なら大丈夫か」


「でも何があるか分かりませんからね……」


 いつも通り、そんなどうでもいい会話をしながら俺とミスズの通行証を確認し終えた守衛さんはこう続けた。


「レイク村へ行くんだったらちょっと相談があるんだが、いいか?」


「何でしょう?」


「この間レイク村で守衛をやってる俺の親友と久々に再会したんだけど、家族で森へ入った時に運悪くハイウルフと遭遇しちまって、奥さんと娘をさらわれたって言ってたんだ」


「えっ、ハイウルフって人をさらうんですか!?」


「まあ、さらったって言うか……奴らからすればエサとして持ち帰ったって所だろうな」


「でもそれなら恐らくもう……」


「ああそんな事は俺もあいつも分かってるよ。だけど骨ぐらいは拾ってやりたいみたいでな。俺も手伝ってやりたいけど、二人やそこらで行ってハイウルフなんかに出くわしたら命の保証なんて無い。


俺もあいつも依頼を出せる程の金銭的余裕はないから、無理な事は言えねえけど、良かったら少しだけでも相談に乗ってあげて貰えないか?」


「分かりました、向こうで話を聞いてみます」


 別に依頼料なんて必要ない、困っている人がいるなら助けてあげないと!(何かあった時に役立つかもしれないし、守衛さんに恩を売っておくのは悪くない)


 相手の所属と名前を聞き終えた頃に、乗客の通行証確認もちょうど終わった。


「それでは、しゅっぱーつ!」


 ミスズの掛け声でバスは勢いよく王都の門を通り抜けた。ここからは未舗装の道、さっきよりは揺れるかも知れないが今日は天気も良いしトラブルなく着けそうだ。

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