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大商会のおもてなし

【今回の登場人物】

シュウ…バスと一緒に転移した主人公

ミスズ…王都にある商家の娘

マルセル…ミスズの父であり、ラマノ商会の経営者

 俺とミスズが食事から戻ると屋敷の前でミスズの父親が出迎えをしてくれた。


「ようこそいらっしゃいました、ささこちらへ」


 この立派な建物、正面は小売や卸といった商いを行う ”ラマノ商会” で、隣に繋がっている建物が住居として使われている “屋敷” になっている。


 ミスズのお父さんに案内されて通された部屋の中央には大きなテーブルが置かれており、席に座るとそれまで親しげだったミスズの雰囲気が一変して『大商会の娘』モードに切り替わったのが分かった。


「改めて、私はこのラマノ商会の娘 ラマノ・ミスズです」


「私はラマノ・マルセル、このラマノ商会の経営者でありミスズの父です。魔物の集団に襲われた所を助けて頂いたと聞きました。娘の命を救って頂き心から感謝します」


「いえいえ、とんでもありません。皆さんがご無事で何よりです」


「食事は済ませたと聞きましたので、どうぞデザートでも召し上がってください」


 テーブルの上に並ぶ色鮮やかなデザート、みずみずしい新鮮なフルーツをたっぷり使ったスイーツ、そして口直し用であろう少々のサラダ。


 昼食でもてなす事が出来なかったので、せめてもと善意で慌てて用意してくれたようだが、目の前に広がる光景は少し前に黒猫亭で見た物と同じだった。


「あ、ありがとうございます」


 もしかしたら、この世界は日本と違って甘いものが主食なのかもしれない。そんな考えがより濃厚になってきた俺だった。


「これはほんの少しですが、娘を助けて頂いたお礼と、そして王都まで乗せて頂いた分の馬車代と護衛代です」


 そう言って渡された革製の巾着袋を確認すると、中には金貨が二〇枚入っていた。ミスズの話を元に考えると、宿代や食費だけであれば最低金貨二枚で一か月は過ごせる計算になる。


 お礼の意味をせいぜい料理でのもてなし程度と思っていた俺は動揺を隠せなかったが、そこへ追い打ちをかけるように温厚だったミスズが怒り気味で父を責めたてた。


「お父様、謝礼がたった金貨二〇枚というのはどういう事ですか! この人の助けが無ければ私は間違いなく魔物に襲われ命を落としていました……」


 ミスズに詰め寄られ慌てたマルセルさんは、近くにいた給仕に命じてもう一袋用意させ、最終的に俺が受け取った金貨は合計で百枚になった。


「ちょっとこれは多すぎませんか!?」


「そんな事はありません、王都滞在中に何か困った事があればいつでも言って下さい。今晩はうちに泊まって頂いて構いませんので」


 そこまで言った所でミスズが割り込む。


「お父様、シュウ君はしばらくネネさんのお店の二階に住む事になったんです」


「ネネさんと言うと黒猫亭の事か?」


 何か事情を知っているのかマルセルは一瞬難しい顔になった。しかし直ぐに表情は戻り、今バスを停めている裏手のスペースは今後も自由に使って良いと言ってくれた。


 そして案の定、マルセルさんからもアレに関する質問が来る。


「シュウさんは遠い国から旅をされて来たと聞きましたが、あのバスという乗り物で旅をされているのですか?」


「はい」


「私も商売上様々な荷馬車を見てきましたが、あのような乗り物は見た事が無い。武器や防具もお持ちでないと聞きましたが、一体どのようにして……魔法か何かですか?」


 『魔法』その言葉を聞いて俺はハッとした。


 俺は苦し紛れにヒール!を連呼していたけど、あながち間違いでも無かったのかもしれない。今まで誰かが魔法を使っているような素振りはなかったけれど、その事について尋ねた事も無かった。


「この国には魔法があるのですか?」


「いえいえ、魔法を使える者などこの国にはおりません。しかし古くからの言い伝えで魔法のような物の存在があるという事を聞いた事があったので」


 なるほど、魔物がいるから魔法が存在するという訳でも無いんだな。魔物と呼ばれているだけで実際はただの獰猛な野生動物という感じなのかもしれないし。


「私も魔法は使えません。私が乗って来たバスは祖国の技術を結集して作られたとても堅牢な乗り物なので、少々の魔物の襲撃程度ではビクともしなかったのでしょう」


「百匹のオームボアが少々な訳ないでしょっ!」


 ミスズは横で騒いでいるがマルセルさんの興味はバスの強度だけでは無かった。


「聞いた所、五日の距離を一瞬で移動されたと」


「はい、馬車のように生き物を動力としていないのでとても早く移動できますが、詳しい事はお教えできません」


「私も商人の一人、そのような凄い秘密を簡単に教えられない事は十分に理解しています」


 決して勿体ぶった訳では無く、車の走る仕組みを馬車の知識しか無い異世界人に納得して貰えるよう説明できる自信なんて無いからだ。


「しかし、王都の権力者の間ではもう既にバスの事が噂になっています。良からぬ事を考えたり利用しようとする者がいるかも知れませんので気を付けて下さい」


 これは防犯面や自分の立ち位置も少しは考えた方が良さそうだ。そしてマルセルさんは最後に一枚の書類を俺に渡した。


「これは通行証申請のための書類です。王宮の窓口でこの書類を提出すれば通行証を発行して貰えるので門での手続きが必要無くなります」


「有難うございます、それは助かります」


マルセルさんにお礼を言い、俺はネネさんのお店へ戻る事にした。

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