大量のオームボアの死骸が消えた理由(2)
【今回の登場人物】
ムツキ…"雑貨屋 旅のしっぽ" の共同経営者
転がり落ちたハイウルフをミスズに手伝って貰いバスへと積み込みなおす。
「でもどうやって死んでいるかどうかを判断すれば良いのでしょうか」
確かにバスで倒した魔物は一切傷が付いておらず、パッと見ただけでは気を失っている時との区別はつかない。
さすがに心音までは確認していないが、それでもバスへ積み込む頃にはだいたい体が冷たくなっており、まだ温かい個体がいれば違和感を覚えた筈である。
「でも体が冷たくなっていれば死んでると判断しても大丈夫なんじゃないかな。今回のはたまたま見落としてしまっただけって事で」
「そうですよね、私もこれから気をつけ……」
そう言いかけた所で鈍い音と共にミスズの身体が大きく前方へと飛んだ。
―― ミスズッ!
一瞬何が起こったのか理解できなかった俺はとっさに叫んだ。そして次の瞬間あり得ない光景を目にする事になる。
「ハイウルフが生きてる!?」
さっき確かに全てのハイウルフが冷たくなっている事を確認した。それなのに、六匹中の二匹が生き返っており俺に向かって低い唸り声をあげている。
生き返った理由の詮索は後だ、もしこのハイウルフが街に逃げてしまうような事があれば大惨事になってしまう。それ以前に俺達の命が無い。どうにかうまく誘導してもう一度バスに接触させなければ。
俺は全力でバスの入口へ向かって走った。しかし運動音痴の俺と比べたら敏捷性は明らかに魔物の方が上。すぐに追い付かれた俺は突進を食らい、足を噛まれその場にうずくまる。
相手はBランクの魔物だしここで抵抗しても勝てる見込みは無い。どうにかして魔物の気を逸らした上でバスに乗り込まないと……
そこで俺はムツキに貰った謎のお菓子がポケットに入っていた事を思い出した。
「エサだぞっ」
魔物が言葉を理解するとは思えないが、村長に手なずけられていたのであれば食べ物と認識してくれるかもしれない。
俺の思惑通りに菓子へ食いついてくれる事は無かったが、魔物の目線が逸れた一瞬を狙って何とかバスの入り口まで這って移動する事ができた。
ハイウルフが俺の行動に気付いてバスへと向かって来る。最後の力を振り絞って無理やりドアを手で閉めた瞬間、二匹の魔物が扉を壊そうと突進して来た。
しかし魔物にバスの扉は破れない。
バスに触れた瞬間二匹のハイウルフは体から力が抜け、地面に崩れ落ちた。
「まだだ……」
ひとまず場は落ち着いたがいつまたこの魔物が生き返るか分からない。
大怪我を負った左足を引きずりながらトランクルームの中から短刀を取り出し、全てのハイウルフの心臓を深く一突きした俺はその場に倒れ込んで意識を失った。
「……くん ――」
「シュウくんっ! ――」
しばらくして俺はミスズにゆすり起こされた。
「良かった……気が付いて……」
安心したようなミスズのその顔は涙と泥で汚れていた。
「ミスズは……大丈夫だった?」
「私は大丈夫。突き飛ばされた先が草むらだったからクッションになったみたいで軽く身体を打っただけ。それよりシュウ君の身体が……早く処置をしないと」
俺の左足にはミスズによってタオルがきつく巻かれ応急処置がされていた。
「ミスズ、ハイウルフをバスに積むのを手伝ってくれないか」
心臓を突いたのでさすがにもう大丈夫だと思うが、いくら何でも魔物をここに置いておく訳にはいかない。念には念を入れてトランクルームの中に入れておかなければ。
車外に倒れる二匹のハイウルフを協力して積み込んだ俺達はトランクルームの扉を閉めた。
ミスズによる応急処置のおかげで血は止まり、痛みはある物の何とか歩ける状態になっている。しかも負傷した足は幸いな事に左足。このバスはマニュアル車では無いので右足だけ使えれば運転する事はできる。
とは言え正直なところ今の俺が安全に運転できるとは思えなかった。
「ミスズ、代わりに運転して貰えないか?」
ここは王宮のすぐ近く、普通に走行すれば二~三分で王宮まで着くような距離だ。
「やってみますっ」