ハイウルフの討伐(2)
【今回の登場人物】
村長…オーラド村の村長
「やっぱり何か変ですよこれ」
翌朝、村長が用意してくれた食料を食べながら俺たちは会議を開いた。
バスを警戒しているのかと思っていたが、そもそもBランク程の強さを持つ魔物がそこまで慎重になる事自体不自然である。
「ねえミスズ、ハイウルフってどの位の大きさだったっけ……」
「えーっと、大人のハイウルフならこれ位じゃないでしょうか」
ミスズは手を広げて大きさを表現する。
「確かそれ位だったよね前に遭遇したハイウルフも。……ちょっと例の巣穴を見て来るよ」
「いくら何でもそれは危険です」
必死で制止するミスズを振り切って俺はバスを降り、巣と思われる穴へと近づいた。
「やっぱり――」
その穴は明らかにハイウルフが出入りするには小さく、恐る恐る中を覗くと穴はとても浅く群れが生活するにはどう考えても不自然だった。
「あれはハイウルフの巣穴じゃないよ」
「でも村長さんから貰った地図では確かにこの場所になっています。間違えてしまったんでしょうか……」
「……騙された……とか?」
「でも皆さんも魔物が出て困っているようでしたし、嘘の巣穴の場所を教えても何も得する事は無いんじゃないでしょうか」
「あの時、村長はハイウルフの討伐にあまり積極的じゃなかったように思えたんだけど」
「私もちょっとだけ不思議に思いましたが、それは私達を心配してくれたからで……」
「俺も最初はそう思っていたけど、村長が討伐して欲しいのはおこぼれ目当てに集まって来た魔獣達だけ。ハイウルフには何か討伐して欲しくない事情がある……そう考えた方が色々と説明が付く気がするんだ」
「それは考え過ぎではないでしょうか」
「だと良いんだけど……とにかく一度村長の家へ戻ってみよう。そして村長の前では俺に話を合わせて貰えないかな?」
「分かりました」
こうして俺たちはバスを発車させ、村長の家へと戻って来た。
「「おはようございます」」
「やあ君達か、実は昨日あれから村に何種類かの魔物が出てね……ハイウルフはもう諦めてそっちの討伐をお願いできないだろうか」
まるで俺たちがハイウルフを討伐していない事を知っているかのような口ぶりだった。
「いえ、教えて頂いた巣穴とは少し離れた場所でしたが昨日の夜無事にハイウルフの群れを無事に討伐する事ができました。もしかしたらまだ残党がいるかもしれませんので引き続き警戒はして下さい」
「は、ハイウルフ達を……そ、そんな訳ないだろ」
額に汗をにじませながら村長の目が明らかに泳いでいる。
「どういう事でしょうか……?」
「あ、いや、あんな高ランクの魔物を一晩で壊滅させるなんていくら何でも信じがたいと……」
この反応で村長は何かを隠しているという事をミスズも確信したようだ。
「では、集まって来たというその他の魔物も討伐しようと思いますので、どのあたりに良く出没するかを教えて頂けませんか?」
こうして俺たちは魔物がよく出没するというポイントを聞き出し村長の家を後にした。
ふりをしてバスを近くの目立たない場所に隠し、こっそり村長の家を見張っていると少し経った頃に防具を装備した村長がせわしなく出て行くのが見えた。
「どこに行くんでしょうか」
「危険そうだしミスズはバスに居た方が良いんじゃないか」
「私も行きますっ」
そう言ってぎゅっと俺の手を握って来るミスズ。
村長に気付かれないようにと一定間隔を開けて尾行すると、森の中へと消えて行ってしまった。
「こっちは昨日私達が来たのと逆方向ですよね」
「さすがにこれ以上は危険だ、一度戻ってバスで村長を追いかけよう。最悪気付かれても言い逃れできる状況じゃないし」
急い戻った俺たちはバスへと乗り込み、村長が消えた森へと向かってアクセルを踏み込んだ。