初めての依頼(4)
【今回の登場人物】
アレン…オーラド村の母へ会いに来た二児の母
村長…オーラド村の村長
出発までは残り三時間ほど……これは一度戻ってアレンさんにも相談してみた方が良さそうだ。
「夕方までにはまた戻って来ますのでお店を開けておいて貰えませんか?」
俺達は魔物に気を付けながら一度バスへと戻る事にした。
よほど魔物が怖いのか帰り道ミスズはずっと俺の腕に抱きついている。あれ……なんだか楽しそうな表情に見えるんだけど……怖いんじゃないの?
家を訪れると出てきたアレンさんの表情は険しく、危険ですからとすぐに家の中へ通してくれた。どうやら帰宅後に村のこの状況を聞かされたらしく心底困っているといった様子。
「シュウさん、ミスズさん……村を散策されていた筈ですが大丈夫でしたか!? 村が大変な事になっていると私もさっき聞いたばかりで」
「俺達もさっき村長さんのお店で村の状況を知りました」
俺はすぐに村長との話をアレンさんにも伝え、討伐する為の時間が必要なので王都への出発を少し遅らせて貰えないかという話を切り出す。
「アレンさんいかがでしょうか。もちろん王都まで日帰りでとの約束ですので今日中の帰宅をご希望であれば予定通りに戻ります」
片道三時間なので明日また出直しても良いのだが、正直なところ面倒くさい。素直に魔物が巣から出て来てくれれば三時間もかからないけど、長引けば出発が遅れてしまう可能性もある。
「いいえ、もちろん私は構いません、どうか両親が安心して暮らせる村を取り戻してください」
「ありがとうございます」
「どうぞ気を付けて下さい」
アレンさんの家族に見送られ早速バスへと乗り込んで再び村長の家へと向かう。
「もう一度来る手間が省けて良かったですね」
「でもハイウルフちゃんと出て来てくれるかな」
「お腹空いたら出てきますよきっと」
今から高ランクの魔物の群れを討伐しに行くとは到底思えない呑気な会話をしながらバスを走らせてた。できるだけ早く巣穴からおびき出す為にハイウルフが好みそうな食べ物を村長に用意して貰おう。
バスを村長の家へと横付けすると中から慌てた様子の村長が現れた。特に何か事件が起こった訳では無く、見知らぬ巨大な乗り物が停まったから驚いて出て来ただけらしい。
「あなた達でしたか……一体何事かと思いました」
「先ほどのお話通りハイウルフの討伐に行きたいと思いますので巣まで案内して頂けませんか?」
「はい。……えっ、今からですか?」
「「まずはお昼ご飯を食べたいです」」
結局まだお昼ごはんにありつけていない二人は腹ペコだった。腹が減っては戦はできぬと言うし美味しい料理でも頂きたい所だがさすがにそこまで贅沢は言っていられない。
そうですか……と俺達を招き入れ料理でもてなしてくれた村長。討伐に備えて魔物が好みそうなエサと、長丁場になった場合に備えて念の為に俺たちの食料も用意して貰った。
「とても美味しいお食事でした。どうもごちそうさまでしたっ」
「ではそろそろ出発しましょうか」
食事を終えた俺たちはエサと食料をバスに積み込み、道案内要員として村長もバスへ乗るように促す。
「えっ、私もこれに乗るんですか?」
「魔物の巣に歩いて行かれるんですか?」
まさかと言った表情で尋ねて来る村長と、それに対してサラっととんでもない事を言うミスズ。
「い、いえ……村のハンターを案内につけようかと。それに武器とか……もっとこう時間をかけて準備された方が宜しいのでは」
確かに村長の気持ちもわかる。突然変な乗り物に乗って現れた武器も持たない二人組に「今から一緒に魔物の巣へ行こう」と言われたらそりゃあ混乱するのも当然。
しかし出来るだけ早く済ませてしまいたい俺達にそんな無駄な時間は無かった。