初めての依頼(3)
【今回の登場人物】
村長…オーラド村の村長
しばらく間を置いて俺とミスズの顔から血の気が引いた。
今確か、村に魔物がって。日中でも危険だって……。何しろ今の俺達は完全にバスへ頼りっ切りなので武器と言う武器は持ち歩いていない。
「急に魔物が村へ現れるようになったんですか?」
「ううん、前は小さいながらも活気のある村だったんだけどね。半年ぐらい前かな……ハイウルフの群れが街の近くに巣を作っちゃってから魔物が妙に寄り付くようになってね。今となってはこの惨状って訳」
ハイウルフという魔物に心当たりがあった。
「ハイウルフって……前にレイク村へ行く途中に討伐した高く売れるって言うレア食材じゃなかったっけ?」
「そうです、ヨツカちゃんが料理してくれて美味しかったですよね」
そんな二つの意味で美味しい話が目の前にあるのに放っておく訳にはいかない。
「あの、その話を詳しく聞きたいんですが、村長さんか責任者の方のお家ってどちらでしょうか」
「私の父が村長だけど」
「「えっ!」」
「みんな店を閉めちゃったけど、村民の為にも村長の娘である私が店を閉める訳にはいかないじゃない。だからこうして営業してるんだけど、あなた達は強いハンターなの?」
「あーいえ、ただの運送業者といった所です。でも過去にキングボアを三匹討伐してますので、それなりに魔物は大丈夫です」
魔物は大丈夫って何? キングボアを三匹討伐!? 店員のお姉さんは理解不能といった表情だったが、それが本当であれば流石にスルーする事はできないらしい。
「ちょっと待ってて、二階にお父さんがいるから呼んで来るわ」
しばらくすると慌てた様子の男性が一人階段を駆け下りて来た。
「あなた達ですか、キングボアの討伐に参加された腕利きの……魔物が大丈夫な運送業者さん?というのは」
間違ってはいないけれど、何か違和感だらけの妙な人達になってしまっていた。そしてミスズが更に話をややこしくする。
「少し訂正させて頂きますが、キングボアの討伐に参加したではなく単独討伐ですっ! 三匹とも」
一瞬、エッっという表情になった村長だったが直ぐに何か思い当たったようだ。
「そう言えば王都にとてつもない力を持ち王宮からも恐れられる運送屋があると聞いた事がありますが、まさか……」
「いや、それは誤解です。王宮とはかなり仲良く、そして親しくやっています」
一体どんな噂が流れているんだよと内心思いながら王宮の所だけを訂正しておいた。
「そうなんですか……いや、人づてに聞いた噂ですので申し訳ない。しかしキングボアを単独討伐される程となれば、是非魔物の駆除にご協力頂けないでしょうか」
そういうと村長は事の経緯を詳しく説明してくれた。
「だいたい半年ぐらい前の事でした。突然村にハイウルフの群れがやって来て……幸いな事に人的被害は少なかったのですが良い餌場と思われたのか近くに巣を作られてしまいました。
もちろん私達もハンターを募って討伐に当たりましたが、何しろBランクの魔物が群れを成しているという事もあって全く成果は上がりません。
そうこうしているうちにハイウルフと敵対しない魔物が何種類か、おこぼれにあずかろうと集まってくるようになり、日中でも迂闊に外を出歩けない程危険な村になってしまいました」
「その巣というのは近くにあるんですか?」
「はい、それはもうすぐ近くに」
「ハイウルフの討伐、俺達にお任せ頂けませんでしょうか? 報酬は要りませんが討伐したハイウルフは全て引き取らせて下さい」
「えっ、ハイウルフを討伐されるんですか? 集まって来た魔物達を駆除して貰えるだけで十分ですが」
「でもハイウルフの群れが巣を作った事が根源なんですよね」
「確かにそうですが……ではお願いしましょう」
よほど危険なのか村長は俺たちのハイウルフ討伐にあまり積極的ではないようだった。まあバスの力を知らない村の人からしたら当然の反応だとは思う。