初めての依頼(2)
【今回の登場人物】
アレン…オーラド村の母に会いたい二児の母
その日、"旅のしっぽ"の店内は朝から騒がしかった。
いつもと違う雰囲気に生後一か月の赤ちゃんは大泣き。三歳ぐらいの子供はお菓子を買ってとダダをこねて泣き叫び、アレンさんは我慢しなさいと怒っている。
確かにこの状況では魔物が出なかったとしても馬車で四日の旅は難しい。そう今日はオーラド村までの日帰りの旅に出かける日だ。
ミスズの今日の仕事はバスガイドじゃなくてベビーシッターかな。
「おはようございますアレンさん。今日は俺とサポート役としてミスズも同行しますので宜しくお願いします」
「朝から騒がしくてごめんなさい、どうか宜しくお願いします」
アレンさんと二人の子供、そしてメイドも一人同行している。全員が乗り込んだところでいつもの掛け声が響いた。
「では、オーラド村に向けてしゅっぱーつ!」
今回は王都の南側にある門から出なければならず、いつもより距離があって見慣れた衛兵も居ないから少し勝手が違う。
……そうだ、俺達は慣れているけど依頼者には丁寧に説明しなきゃいけないんだった。
昨日の反省を思い出した俺はマイクのスイッチを入れミスズに渡す。その意図を察して王都内はゆっくり走行するが門を抜けたら速度を出すので揺れも大きくなる事、魔物に遭遇しても安全な事、お手洗いを使う時は揺れに十分注意して欲しい事などを説明してくれた。
無事に門を抜けたバスは懸念していた路面にも問題が無かった事で驚く程順調に進んだ。途中何度か赤ちゃんが泣き出してしまったが、ミスズの子守唄を聞くと「フンッ」と鼻で笑ったような表情をして泣き止んだ。
ミスズはそれだけがとても不満だったらしく、三歳の子供と一緒にお菓子をモソモソやけ食いをしている。
そしてあっという間に "旅のしっぽ" を出発してからバスの時計で三時間が経った。思ったより時間はかかったけれど今回は一匹の魔物にも遭遇する事無くバスはオーラド村へと到着した。
「到着ですっ! 赤ちゃんは寝ちゃいましたか……?」
「はい、お陰様でもうぐっすりと。でも本当に一瞬で着いてしまって……まるで魔法のようでした。母に孫の顔を見せてあげられる事が夢のようです」
寝ている赤ちゃんをそっと抱き上げ、バスを降りて行くアレンさんを見送った俺たちは一安心。これから約四時間ほどは自由行動の時間。俺とミスズも街を散策がてらお昼ご飯を食べに行く事にした。
「このオーラド村ってどんな村なんだろうね」
「私もこの村については全く知らないんです」
お店らしき場所を何軒か見つけたものの全部シャッターが閉まっていて営業しているように見えない。それどころか街を散策していても出歩いている人は殆どおらず、何というかこう……街全体に活気が感じられない。
「あっ、あのお店開いていますよっ」
ミスズの指さす方を見ると食料品を売っている感じの小さな店が一軒営業していた。早速店に入った俺達は店員さんに聞いてみる。
「すみません、この辺りに食事のできるお店はありませんか?」
「あなたたちは旅の人?」
少し鋭い目つきが印象的な女性店員は不愛想にそう返して来た。
「はい、そうです」
「もう少し行った所に宿屋があるから、そこの食堂で食事ができるわよ。この街で食事ができるのはそこぐらいね」
「……あの、この村何かあったんですか? さっきから殆ど人を見かけないんですが」
俺は恐る恐る気になっていた事を聞いてみた。
「そりゃあ不気味よね、人が全然いないんだもの。あなた達も早めにこの村を出た方がいいわよ。最近村に魔物が集まって来てね……日中でも危険でうかつに外を出歩けないの」