雑貨屋 猫のしっぽ(2)
【今回の登場人物】
ムツキ…"雑貨屋 旅のしっぽ"の経営者
クラ…国王様の孫娘
ミツカ・ムツカ…レイク村で宿屋を営む姉妹
翌朝、今日も列があったりして……と冗談交じりに話しながら俺たち三人は店へと出掛けた。
「さすがに今日は列ないね」
「当たり前ですよっ、毎日あんな事していたら身体が持ちません」
バスツアーへの申し込み受付は昨日一日だけだったので流石に今日は落ち着いている。とは言え物珍しさからオープン後には雑貨を買いに来る客がそれなりに店へと訪れムツキは忙しそうにしていた。
そして俺たちはバスツアーの方を進めなければいけない。
"猫のしっぽ" オープン前にレイク村で宿屋を営むミツカとムツカの元まで出向き、十六名の宿泊者受け入れを依頼して来たので宿の確保は問題無い。
「さて、この中から当選者を決めなきゃいけないんだよな」
昨日受け付けた大量の申込書を前にして抽選方法をどうするか俺は悩んでいた。
「私が目を瞑って適当に選びましょうか」
「うん、それで良いんじゃないかな……」
さすがに抽選から漏れた人達が後々クレームをつけて来るような事は無いだろうけど……そう思っていた時にちょうど良い人材がやって来た。
「こんにちは! 遊びに来ちゃいました」
「「クラちゃん、ちょうどいい所に!」」
クラちゃんに選んでもらおう。
さすがに国王様の孫娘が選んだと言えばその抽選結果に文句をつけるような人は居ないだろう。説明を受けたクラちゃんはキラキラ目を輝かせ数枚の申込書を抜き取った。
「じゃあこの人達が当選って事で」
二名参加が二組、三名参加が四組の合計六組がとんでもない倍率を勝ち抜いた今回のツアー参加者達だ。
「どうせなら私が通知を届けましょうか?」
「いやそれはいいよ。今回の参加者は一般の人達だから王宮の馬車で乗りつけたらビックリするだろうし」
やや不満そうなクラちゃんだったけど、そんな事をされて変な噂が広まってしまうのは本意ではない。六軒だけだし後でミスズと一緒に回ろう。
ムツキは依然として忙しそうに接客しているが、こちらは昨日の忙しさが嘘のように平和な時間が流れている。クラちゃんどうせなら昨日手伝いに来て欲しかったよ。
それから少し時間が経った時だった、ミスズが入れてくれたお茶を飲みながら雑談をしていた俺達の元へ一組の貴族と思われる親子がやってきた。三歳ぐらいに見える子供とそのお母さんだ。
「あの、ご相談したい事があるんですが……」
今までバスの存在は知っていたけれど、高位貴族でも無い自分達にはツテも無く相談ができなかった。しかし、昨日お店がオープンした事を知って依頼……というよりまずは相談をしてみようとやって来たらしい。
お客さん第一号だ。
「それで、どのようなご相談でしょうか」
「はい、私の実家は王都の南にあるオーラドという村にあり、そこには今も高齢の父と母が住んでおります」
「オーラド村……ですか?」
「確か王都からは四日程の距離にある小さな村だった筈ですっ。道中に高ランクの魔物が出るって事でハンターもあまり同行したがらない行程と聞きました」
「そしてこの間、母の容体が悪化して寝たきりになってしまったとの手紙を受け取りました。もうあまり先は長く無いかもしれません……」
「それはお気の毒に……」
俺とミスズはやや言葉に詰まってしまった。
「いえ、それはもう仕方ないんです……母もだいぶん高齢ですし。しかし先月私に二人目の子供が生まれました。私自身が会いたいというのは勿論ですが、せめて孫の顔を見せてあげたくて」
「「なるほど……」」
「しかし、生後一か月の赤子に馬車で四日の旅は過酷すぎます。それ以前におっしゃる通り同行してくれる護衛も中々見つかりません。そこでバスで連れて言って貰う事はできないかと相談に伺った次第です」
「うん、大丈夫だと思うけど」
「赤ちゃんはバス大丈夫でしょうか?」
ミスズが心配そうにそう言うので念の為に裏手に停めてあるバスの中を実際に見て貰う事にした。